News Archive by Year

2023

サラ・ルイーズ・バーバー所長 神戸大学大学院主催のシンポジウムで基調講演

WHO神戸センターのサラ・ルイーズ・バーバー所長は2月15日、神戸大学大学院保健学研究科のアジア健康科学フロンティアセンターが主催するシンポジウムにて、オンラインで基調講演を行いました。 WHO神戸センターの役割やユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)について触れながら、国際保健の取り組みや成果をどのように地域のレベルに落とし込むか等について講演しました。学生や教職員をはじめ、JICAやハノイ医科大学からの参加者を含め約50名が講義に参加。UHCの実現に向け、国の経済・開発レベルに関係なく、すべての国民に対する保険と経済的保護の必要性について活発な議論がされました。 

国連大学オンライン対談イベントに登壇―複雑化する世界における保健医療の新たな課題

WHO神戸センターで医官を務める茅野龍馬は1月17日、国連大学主催の「BIG IDEAS:SDGsに関する対話シリーズ」に登壇し、世界の保健医療の課題について網羅的に発表しました。まずWHOが定義する「健康」とは、単に病気がないだけでなく肉体的・精神的・社会的に満たされた状態を指す点について述べ、WHO神戸センターが取り組むユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の概念、「誰もが等しく、適切な質の医療サービスを支払い可能な額で受けられること」の重要性について述べました。国連が推進する持続可能な開発目標(SDGs)の健康分野についても言及し、その前進であるミレニアム開発目標(MDGs)では主に薬やワクチンへのアクセスを世界的に向上させることが鍵であった一方、SDGsでは経済発展した国が増え社会がより複雑化するなか、高齢化やグローバル化などによる新たな課題に対峙する必要があると述べました。

すべての年齢の人に優しい社会を

世界的に進む人口高齢化は、平均寿命が伸びるとともに生活習慣の変化によって生活習慣病(非感染性疾患、Non- Communicable Diseases)の蔓延という問題を引き起こしています。茅野は、低・中所得国は感染症対策なども続けながら生活習慣病への予算や仕組みも確保していかなくてはいけない「ダブルバーデン(二重の負担)」に直面していると指摘。また高齢化とともに増加する認知症においては、早期発見、早期介入、予防が鍵となり、WHO神戸センターが神戸市や神戸大学などとともに行なっている認知症の早期発見、早期介入の仕組みに関する共同研究を紹介しました。

グローバル化と格差

グローバル化によって病原体も簡単に移動できてしまうなかで起きた新型コロナウイルス感染症に関しては、格差の問題に言及。ワクチンの普及や医療体制において低所得国と高所得国の間の格差があらわになり、グローバル化時代の感染症対策には国家の枠組みを超えた多様な機関や団体が協力しあって対応していく必要があるため、UHCの推進はその礎になると述べました。

災害と健康

世界的に増加する災害については、高齢化や都市化とともに災害弱者が増えていることを踏まえて、インフラなどの議論だけでなく人の命や暮らし、健康をいかに守るかという視点から防災を考えることが重要であると話しました。茅野はWHO神戸センターの取り組みとして、災害などの健康危機に対応する政策に役立つ科学的エビデンスを発展させていくための研究者のネットワークや、質の高い健康危機管理の研究を進めるための教科書として発行したガイダンスについても紹介しました。白波瀬佐和子国連大学上級副学長との質疑応答では、データやエビデンスがどのように実際の政策に生かされるようにできるかについて議論。研究者や専門家の知見がそのまま政策に反映されるわけではない日本の政治環境を少しずつ変えていく必要性について述べました。

対談の録画映像はこちら

広島大学医学部 公衆衛生学にて講義

WHO神戸センターの茅野龍馬医官は、2023119日に「グローバルヘルスとWHO 21 世紀の保健課題とCOVID-19」を主題にオンライン講義をしました。複雑化する保健課題や学生の皆さんに将来求められることについて、活発な議論がなされました。

2022

2022 年ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・ デーに寄せて WHO神戸センター所長のメッセージ

今日は「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ (UHC) デー」です。 今年のテーマは「私たちの望む世界をつくろう。すべての人に健康な未来を」です。

今年のテーマはWHO健康開発総合研究センター(WHO 神戸センター)にとって特に重要です。 世界の人口は高齢化しており、 2050 年までに、全世界の 65 歳以上の人口は5 歳未満の子供の数の 2 倍以上になると言われています。

私たちWHO 神戸センターでは、高齢者が健康的な未来を享受できる世界をつくれるよう支援していきたいと考えています。 人口高齢化は、すべての人にUHC を保証する上でさまざまな課題を突きつけています。例えば、高齢者のニーズに沿ったケアを利用可能にし、経済面でケアを受けやすくし、保健医療および継続的なケアを財政的に持続可能にして財源を確保する必要があります。

WHO神戸センターの研究では、多くの国が革新的な政策やプログラムを評価することで、変化する健康ニーズに保健医療システムが対応できるように支援し、すべての高齢者に対してケアへのアクセスを確保していることが明らかになりました。 タイでの調査からは、高齢者の家族のエンパワメントに焦点をあてて保健医療と社会的ケアを提供する、コミュニティケアモデルの重要性が示されました。フィリピンで行った専門職連携トレーニングの調査では、高齢者により質の高いケアを提供するにあたり、保健医療従事者とソーシャルケアワーカーが相互に学び合う重要性が実証されました。 WHO神戸センターはまた、人口高齢化に伴い医療費の財源と支出が確実に管理されるように、政策立案者がより適切な政策選択を行う上で役立つツールの開発を支援しました。

それでもなお、課題は残っています。私たちの調査では、健康ニーズが満たされない最も大きな要因は医療費の負担であり、その次にケアの利用可能性であることがわかりました。 世界各国における保健医療と社会的ケアにおける未充足のニーズに関して、さらに理解を深める必要があります。

それに加えて、多様なニーズを持つ高齢者の間での医療アクセスの公平性にどう取り組むかを明らかにすることも必要です。

UHC デーを機に、すべての高齢者が質の高いケアの恩恵を受けられるよう、政策立案者が人口高齢化の課題に積極的に取り組むことを呼びかけます。

簡単な質問票で要介護リスクを推定―神戸市でのプロジェクトが学術誌に掲載

認知症は世界規模で急速に増加しています。2012年に約460万人いた日本の認知症患者は、2025年には675万人以上、2040年には800万人以上になると報告されています[1]。神戸大学とWHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)は2017年から実施してきた研究で、質問票「基本チェックリスト」を用いた認知機能に関連する3つの質問により、要介護認定になるリスクを推定できることを発表。研究論文が11月29日、学術誌BMC Health Research Policy and Systemsに掲載されました。  
共同研究「認知症の社会負担軽減に向けた神戸プロジェクト[2]」では、神戸市役所の協力により作成されたデータを元に、約8万人の70歳代の神戸市民を対象に「基本チェックリスト」を用いた生活状況アンケートを実施しました。好ましくない回答をした数が多いほど要介護認定のリスクが高いことを推定した先行研究のレトロスペクティブ調査を前向きに実証した結果、まず、基本チェックリスト調査から4年後の要介護認定の累積発生率は、回答しなかった人の方が回答した人よりも高くなりました(12.5%対8.4%)。  
また、1)周りの人からいつも同じ事を聞く等の物忘れがあると言われますか、2)自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか、3)今日が何月何日かわからないときがありますか、という3項目の質問に対し、好ましくない回答が多いほど要介護認定の発生率が高くなりました(図1)。同様に、認知機能低下を伴う要介護認定に限定した場合でも、好ましくない回答が多いほど要介護認定の発生率が上昇しました。  
 

図1

これらの研究結果は、リスクが高いと推定される市民に的を絞った対策を行うための糸口となり、日本に限らず今後本格的な超高齢社会を迎えるアジア諸国においても、認知症対策のための具体的なアプローチのひとつとして提案することができます。

 

Health Research Policy and Systemsに掲載の論文はこちら 
本プロジェクトに関する詳細はこちら 
共同プレスリリースはこちら

 

[1] 2014年 厚生労働科学研究費補助金特別事業「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」より

[2]認知症の早期発見・早期介入をめざす「神戸モデル」構築をめざし、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構医療イノベーション推進センター(TRI)および神戸学院大学と連携した共同研究

『Health Research Policy and Systems』論文特集にWHO神戸センター助成研究10件の成果を発表

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)が助成した10件の査読付き論文が、学術誌『BMC Health Research Policy and Systems』の論文特集に掲載されました。これらの論文では、急速な高齢化に対する保健医療制度の対応に関して新たな知見を提供しています。

高齢者の人口は世界で増加の一途をたどっています。世界の総人口に占める65歳以上人口の割合は、2022年の10%から2050年には16%に上昇すると予測されています。その結果、65歳以上人口は2050年までに5歳未満人口の2倍以上になります。[1] このような人口構成の大きな変化には、確かな研究のエビデンスをもとにした保健医療・社会政策の大転換が必要となります。年率3%を超えて急速に高齢化が進むアジアやアフリカの低・中所得国でも、2050年の高齢者の割合はまだ5~13%と比較的小さいことから、このような変化には対処できると考えられます。

『Health Research Policy and Systems』の論文特集では、カンボジア、日本、ラオス人民民主共和国、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの10カ国で得た知見を取り上げています。これらの多様な国における研究では、人口高齢化の観点からユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現に向けて取り組むなかで各国が直面する課題を反映しており、保健医療サービスの断片化、高齢者ケアの利用やアクセスが限られている状況、ケアを利用する上での経済的障壁、保健医療および長期的ケアの持続可能な資金調達と財源確保などが含まれます。

これらの研究プロジェクトの助成は、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の研究者や組織を対象とした競争的プロセスを経て選ばれました。これは2017年の「日・ASEAN保健大臣会合~ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と高齢化」においてWHO神戸センターが行った公約の一部として実施されました。

今後の保健医療政策に欠かせない洞察が得られた研究は次の通りです。

当センターのローゼンバーグ・恵美、冨岡 慎一、サラ・ルイーズ・バーバーによる論説はこちらからお読みいただけます。

BioMed Central(BMC)から出版された『Health Research Policy and Systems』論文特集に掲載の論文全10件の一覧はこちら

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[1]  United Nations Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2022). World Population Prospects 2022: Summary of Results. UN DESA/POP/2022/TR/NO. 3.

COVID-19に関するWHOポリシーブリーフ:各国が実施可能な主要アクション

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最初の症例が報告されてから2年半以上が経過するなか、パンデミックはいまだに世界的な緊急事態となっています。パンデミックが過渡期を迎えると同時に、新たな変異株の出現や感染のピークの再来も現実味を帯びるいま、多くの政府がどのように優先順位をつけていくべきなのかについて不明確な状況に直面しています。

世界でのCOVID-19の緊急事態を終わらせるための国レベル及び世界レベルの取り組みを支援するため、WHOは「COVID-19準備・対応グローバル計画(Global Preparedness, Readiness and Response plan)」を2022年に更新し、2つの戦略的な目的をまとめました。一つ目は、特に重症化する恐れがあったり職業的にウイルスに曝露しやすかったりする人を含めた個々人を守ることで、新型コロナウイルスの循環を減少させること。二つ目は死亡率と罹患率、長期の後遺症を減少させるためにCOVID-19を予防・診断・治療すること。これらの戦略を併せて行うことで命と暮らしが守られます。

これらの戦略を達成するために実行できるアクションを提示するため、WHOはこれまで発表していきたテクニカルガイダンスに基づき6つのポリシーブリーフをまとめました。

次のテーマに関して、国レベルあるいはそれに準じた政策立案者が実施できる重要なアクションを提示しており、下記リンクより日本語版をご参照いただけます。

COVID-19に関する各国の状況は、集団免疫のレベル、人々の信頼、COVID-19の診断・治療法・ワクチン・個人用防護具の使用状況に加え、COVID-19とは別の健康関連あるいはそれ以外の緊急事態から来る課題など、多くの要素によって異なってくる。
各国がパンデミックに立ち向かいながら、より強靭な公衆衛生のインフラをつくり上げ、健康危機に対する備えや対応、レジリエンスを世界規模で向上させていくために、これらのポリシーブリーフでは迅速な対応の基礎となる情報を提供します。

大阪医科薬科大学医学部で講義

WHO神戸センターのローゼンバーグ恵美技官は、2022年11月21日、大阪医科薬科大学医学部の医学心理学・行動科学の授業において、2019年以来初めての対面講義を行いました。ローゼンバーグ技官は、「国際保健におけるWHOの役割とユニバーサル・ヘルス・カバレッジへの取り組み」を主題に、新型コロナウイルス感染症パンデミックにおけるWHOの対応などについて説明を行いました。さらに、WHO神戸センターの研究活動について、最近の研究から得られた結果などを紹介しながら説明しました。受講した医学部1年生の間からは、ローゼンバーグ技官のキャリアについての質問など、昨年までのZOOM講義よりも多くの質問が出ました。

WKCフォーラム「急速な高齢化に対する医療システムの対応:東南アジアと我が国の教訓」~ 開催報告

WHO神戸センターは11月19日、第37回日本国際保健医療学会学術大会との共催で「WKCフォーラム」を開催しました。

急速な高齢化に対する各国の医療システムの対応についての論文特集を学術誌 BMC Health Research Policy and Systemsで発表するのに合わせ、今回のフォーラムでは掲載論文より日本および東南アジアの5カ国(フィリピン、タイ、マレーシア、ミャンマー、ラオス)における6つの研究成果を各研究チームの代表者が発表しました。

ハイブリッド形式で行われた本フォーラムは、大会登録者に限らず一般の視聴者にも公開されました。開催会場では、メイン会場、パブリックビューイング会場、昼食会場の3つの場が設けられ、ZOOMからの参加者と合わせて200名以上がフォーラムを視聴。研究内容に対する参加者の関心は高く、パネルディスカッションでは会場やZOOMから多くの質問が挙がりました。

ご参加の皆様、また演者の方々、大会運営事務局の愛知県立大学・愛知医科大学・北里大学の皆様にも、ご協力に感謝いたします。
 

プログラム内容は こちら

当日の録画映像は こちら

2022年11月29日に公開された論文特集は こちら
 

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写真 左から 柳澤理子先生(大会長)、浜島信之先生(演者)、野崎威功真先生(演者)、

中村桂子先生(演者)、富岡慎一先生(共同座長)

 

神戸市シルバーカレッジで講演

WHO神戸センターの茅野龍馬医官は2022年11月14日、神戸シルバーカレッジでオンライン講演を行いました。「グローバルヘルスとWHO 21 世紀 の 保健課題 と COVID 19」というテーマで、新型コロナウイルス感染症の現状や今後の課題などについて触れながら、WHOの役割や国際保健課題について説明を行いました。