News Archive by Year

2021

国連防災機関主催の国際シンポジウムに登壇

2021年8月27日、国連防災機関(UNDRR)が主催する国際シンポジウムに、WHO神戸センターの茅野龍馬技官がパネリストとして登壇しました。

 

「Risk communication for better disaster risk management(より良い災害リスク管理のためのリスクコミュニケーション)」と題し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策やその他の災害から得られた知見をもとに、災害時のリスクコミュニケーションに関する経験についてや、災害リスク管理の能力を高めるデジタルやソーシャルメディア時代の主要な課題や機会について議論が交わされました。

 

茅野技官はWHO神戸センターが事務局を務める災害・健康危機管理に関するWHOグローバルリサーチネットワークについて紹介し、新型コロナウイルス感染症対策を含めた災害・健康危機管理分野の重点課題について、最新の知見を共有しました。

 

WHO神戸センター所長が関西学院大学の国連セミナーに登壇

関西学院大学が8月25日〜27日に開催した「国連セミナー」で、WHO神戸センターのサラ・ルイーズ・バーバー所長が講義を行いました。本セミナーは、国連機関の役割や持続可能な開発目標(SDGs)、および世界が直面している課題について、学生たちが現役の国連職員から直接学ぶ機会となっています。バーバー所長は25日にオンラインで登壇し、約20名の学生に向けてWHOの役割やWHO神戸センターが取り組んでいる研究内容について発表。公平性や社会的な連帯の重要性に触れながらユニバーサル・ヘルス・カバレッジについて話し、学生たち一人一人がどのように公衆衛生に貢献できるかについて問いかけるかたちで講義を終えました。

高齢者の継続的なケアの価格設定に関する新たな報告書を発行

高齢者が手ごろな価格で利用できる長期にわたる継続的なケアの提供は、不可欠な保健医療・社会サービスを保障するユニバーサル・ヘルス・カバレッジを推進する上で重要な公共投資となります。また高齢者の財政的保護や、必要なケアにかかる費用を支払うことができない人々のための社会的セーフティネットを確保する点においても重要です。高齢者を対象とした保健医療・社会サービスの提供方法や、そういったサービスの価格の設定方法においては、政策の選択が重要な要素となります。

WHO神戸センターと経済協力開発機構(OECD)は、WHO欧州地域およびWHO西太平洋地域の研究者と共同で「高齢者の継続的なケアにおける価格設定」に関する新しい報告書を発行しました。オーストラリア、フランス、ドイツ、日本、大韓民国、オランダ、スペイン、スウェーデン、およびアメリカ合衆国の計9ヵ国の事例研究を行い、各国における継続的なケアの提供にかかわる組織、資金調達、および価格設定を調査し、さらに政策目標を達成する手段として価格設定がどのように使われているかを考察しました。

「高齢者に適切なサービスを提供して保健医療と社会的ニーズを支えることは、彼らの生活の質と機能的能力の維持に役立ちます。 そうしたサービスの調達と価格設定は、支払いにおける公平性を促進するために不可欠な政策手段です。 またサービスの調達と質を関連付けることが非常に重要で、そのためにも継続的なケアの質の評価に関するさらなる調査と政策対応が必要です」 とWHO神戸センターのサラ・ルイーズ・バーバー所長と、本報告書のコーディネーターであるOECDのルカ・ロレンツォーニ氏は述べています。

この報告書では、特に低・中所得国における政策を推進するための教訓を、各事例研究から引き出しています。

「一部の低・中所得国では、主に家族などが介護をはじめ継続的なケアを提供するインフォーマルケアに依存しているため、フォーマルな制度の確立とそれへの公的資金の投入は不要であると考えられています。しかしそうした国々の状況も、人口高齢化や核家族化、女性の正規雇用機会の増加などによって、急速に変化していることを本報告書では示しています。若い人口を抱える国でさえ、高齢者の保健医療と社会的ケアのニーズを満たす上で課題に直面しています」とバーバー所長は指摘します。

本報告書の全文と事例研究はこちら
政策概要および各事例研究の著者への5分間のインタビューはこちら

医療費による経済的困難 関西圏での新たな研究プロジェクトを始動

高齢者が医療費を支払う際に直面し得る経済的困難や、必要なケアを見合わせる(受診控えする)ことになる事情について、分かっていることは多くありません。

WHO神戸センターは、増え続ける高齢者世帯において、医療支出による経済的困難や医療にアクセスする際の経済的障壁、および経済的困難そのものがどの程度問題となっているのかを、関西圏に着目して調査する新しい研究プロジェクトに着手しました。

東京都健康長寿医療センター研究所の主導のもと、今後約2年間にわたり実施されるこのプロジェクトには、関西圏からは甲南大学と大阪大学の研究者が、他にも国立国際医療研究センターと慶應義塾大学の研究者が参加します。本研究では、日本の高齢者に関連のある経済的保護政策や、医療費支出による経済的困難、および受診控えによる未充足のニーズに関するエビデンスについて、文献レビューをもとにまとめる予定です。また、日本家計パネル調査などの既存の全国世帯調査の二次分析も予定されています。本研究は、関西圏の高齢者世帯における医療費支出による経済的困難と未充足のニーズを統計的に推定し、日本の他地域の高齢者世帯やより若い世帯の結果と比較することを目指しています。

WHO神戸センターは、高齢者が経済的困難を抱えることなく必要なケアを受けられるためのより良い経済的保護政策に向けたエビデンスを提供する研究を支援しており、本研究は関西圏に焦点を当てた2つの研究のうち先発の研究です。これらの研究は、他の地域や国においても高齢者が求める保健医療を保障し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを促進する上で役立つことが期待されます。また本研究の成果は、WHOと世界銀行が2021年末に共同発行する予定のGlobal Monitoring Report on Financial Protection in Health(非公式訳:保健医療分野における経済的保護に関するグローバルモニタリングレポート)にも寄与する予定です。

詳しくはこちらをご覧ください。

 

健康な高齢化を支える地域レベルの社会的イノベーション:日本での取り組み

地域レベルの社会的イノベーション(CBSI)は、健康な高齢化を支え、高齢者のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に満たされた状態)を向上させることを目指す取り組みです。地域に住む高齢者が身の周りのことを自分でできるようになり、社会の一員であると感じ、またウェルビーイングを維持するのに役立つ可能性があります。

WHO神戸センターは、大阪大学の研究者が養父市を含む兵庫県北部で実施したCBSIに関する研究を支援しました。日本の各自治体は、地域に住む高齢者の徒歩圏内における施設で、健康体操や認知機能を向上させるゲームなどのCBSIプログラムを高齢者自身が実施し参加できるよう、支援しています。

研究の結果、地方に住む高齢者は地域の活動に熱心に取り組んでいることがわかり、その理由としては主に各自治体と高齢者がうまく協働し、高齢者向けのセンターなど地域に元々ある資源を活用している点が挙げられます。健康体操やグループ活動に参加した高齢者は、精神的・身体的健康の維持だけでなく、地域コミュニティとのつながりを目的として参加していました。 

また、高齢者は率先して自らのニーズを自治体関係者と共有していました。こうした教訓は、他の地域や国にも応用できます。高齢化に対する高齢者自身の姿勢やCBSIへの関わりは、若い年齢の高齢者にとっても大きな学びとなっており、心強いメッセージになると研究者たちは考えています。

詳細はインタビュー動画をご覧ください。

IOC総会におけるテドロスWHO事務局長の基調講演(全文)

東京オリンピック・パラリンピックの開催に先立ち7月21日に行われた第138回国際オリンピック委員会(IOC)総会において、WHOのテドロス事務局長が基調講演を行いました。

全文の和訳は以下の通りです。

 

 

 

 

 

 


バッハ会長ならびにご列席の皆様、

おはようございます。 日本が世界に勇気を与える東京2020オリンピックの開催に敬意と感謝を申し上げます。

世界に希望を与えるスポーツイベントである東京オリンピック・パラリンピックを開催される菅首相、日本政府、そして国民の皆さんに感謝と敬意を表します。 

また、このような場で挨拶をする機会をくださり、バッハ会長と国際オリンピック委員会にも感謝いたします。 

他のどのイベントよりも、オリンピックには世界をひとつにまとめ、私たちを鼓舞し、何が可能であるかを示す力があります。 

オリンピックはまた、他のどのイベントよりも世界の人々の注目を集めます。 それが、私がここに来た理由です。 過去にもオリンピックに招待されたことがありますが、一度も参加できませんでした。 

私は今回、この世界の頂に、世界中の人々へのメッセージを届けるために来ました。 

つまり、私はある質問に答えるために来たのです。これは私がよく尋ねられる質問であり、世界中の人々が抱いている質問、「このパンデミックはいつ終わるのか」という質問です。 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは私たちに、実に多くの問いを投げかけました。私たち自身について、 そして私たちの世界について。 

パンデミックは試練です。いまのところ世界は失敗しています。 

これまで400万人以上の人が亡くなり、さらに多くの人が命を落とし続けています。 すでに今年の死者の数は、昨年の倍以上になっています。 

私がこうして話している間にも、100人以上の人々がCOVID-19で命を落とそうとしています。 

そして、8月8日に聖火が消えるまでに、さらに10万人以上が亡くなるでしょう。 

感染から回復した何百万もの人々が、COVID-19の長期的な後遺症に苦しんでおり、後遺症については研究の途上です。 

世界の人々はうんざりしています。

ウイルスに、

ウイルスに奪われた命と生活に、

ウイルスが引き起こした苦しみに、 

ウイルスによる生活の制限と断絶に、

ウイルスが経済や社会に引き起こした混乱に、

うんざりしています。

ウイルスが私たちの未来に投げかけた暗雲にうんざりしています。

それにも関わらず、パンデミックが発生してから19か月、最初のワクチンが承認されてから7か月が経過した現在、私たちは感染と死亡の新たな波の初期段階にあります。 

どうすればいいのでしょうか? ワクチンはパンデミックの炎を消すためのものではなかったのでしょうか? 

そうです。ワクチンを最も多く持っている国々では、ワクチンはパンデミックの沈静化に役立っています。 

しかし大火というものは、その一部だけにホースで水をかけても、残りは燃え続けます。 そしてその残り火は、別の場所でさらに猛烈な炎を簡単に引き起こす可能性があります。 

その脅威があらゆる場所で終わるまで、どこか一部だけで終わるということはありません。 

自分たちが住んでいる場所で感染が抑えられているからパンデミックが終わったと思っているのは、幻想です。 

ワクチンは強力で不可欠な手段ですが、世界はワクチンをうまく利用していません。 

あらゆる場所でパンデミックを鎮めるために広く分配されるのではなく、少数の幸運な人々の手中にワクチンは集中しています。 重症化のリスクが最も低い人々を含む、世界で最も特権のある人々を守るために配られた一方、最も影響を受けやすい人々には届いていません。 

現在までに、世界では35億回分以上のワクチンが投与されており、4人に1人以上が少なくとも1回のワクチン接種を受けています。 

一見良いニュースに聞こえますが、恐ろしい不公平を覆い隠しています。そのうち75パーセントのワクチンが、わずか10カ国で投与されているのです。少なくとも1回の接種を受けた人は、低所得国ではわずか1パーセントであり、それ対して高所得国では半数以上となっています。 

最も裕福な数ヵ国では現在、自国民のための3回目の接種について話されていますが、それ以外の国々の医療従事者、高齢者および他の脆弱な人々は一度の接種も受けずに暮らしています。

ワクチンや検査、酸素を含む治療法を世界が分配できていないこの失敗は、二重のパンデミックを煽っています。持てる者は生活を再開していますが、持たざる者は制限の中で暮らしています。 

これは単なる非道徳ではなく、疫学的および経済的な自滅を意味します。 

この格差が続けば続くほど、パンデミックは長引くことになり、それがもたらす社会的・経済的混乱も長引くことになります。 

感染が多ければ多いほど、より多くの変異株が出現し、現在猛威を振るっているデルタ株よりもさらに危険になる可能性があります。 

そして、変異株が多ければ多いほど、それらの1つがワクチンをすり抜け、私たち全員を振りだしに戻す可能性が高くなります。 

すべての人が安全になるまで、私たちの誰一人も安全ではありません。 

このパンデミックの悲劇は、ワクチンがより公平に割り当てられていれば、今では制御されていた可能性があるということです。 

これまでにも、ワクチンの製造と流通における歪みは、長年にわたって人類の歴史を汚し、痛烈な不平等を露呈し増幅させてきました。そしてそれは私たちの未来を危険にさらします。

私は、国際通貨基金、世界銀行、世界貿易機関の代表とともに、9月までにすべての国の人口の少なくとも10パーセント、12年末までに少なくとも40パーセント、そして来年半ばまでに70パーセントの人にワクチン接種を行うという大規模な推進を世界的に呼びかけてきました。  

これらの目標を達成できれば、パンデミックを終わらせるだけでなく、世界経済を再起動することもできます。 

しかし、日本とその近隣諸国の多くがよく知っているように、ワクチンが唯一の効果的な手段ではありません。 

公衆衛生と社会的措置を適切に組み合わせ、注意深く一貫した方法で適用すれば、このウイルスが制御できることを多くの国が証明しています。 

つまり、合理的な検査、厳密な感染経路の調査、協力的な隔離、思いやりのあるケアといった、確立された公衆衛生の手段があります。

そして人ごみを避ける、物理的な距離を確保する、マスクを着用する、可能な限り屋外で活動する、ドアや窓を開ける、手を洗う等、実証済みの個々の対策もあります。 

これらの対策はあらゆる状況で、生死を分ける可能性があります。 

仕事に行く、買い物に行く、友人との小さな集まりを行う時。 会議、コンサート、そしてオリンピックでも。 

125年の歴史の中で、オリンピックは戦争、経済危機、地政学的混乱の危険にさらされながら開催されてきました。 

しかし、パンデミックの影の中で開催されたことはかつてありませんでした。 

そして、COVID-19は大会を延期したかもしれませんが、打ち負かしてはいません。 

私は、IOC、東京2020組織委員会、日本政府、国民の皆さん、そしてアスリートやチームが、この大会を可能な限り安全なものにするために立てた計画、予防措置、そして犠牲を深く理解しています。

WHOは、オリンピックの準備期間にIOCと日本に技術的なアドバイスを提供するという私たちの役割を果たせたことを光栄に思います。 

今から2週間、そして来月のパラリンピックでは、これらの計画と予防策が試されます。 

これらの備えが、大会自体やアスリート、トレーナー、関係者の安全のためということにとどまらず、適切な計画と対策によって何が可能になるのかを示すという意味でも、成功することを心から願っています。

人生にゼロリスクはありません。リスクがより多いか、またはより少ないかしかありません。 

日本の「石橋をたたいて渡る」ということわざは、安全そうに見えてもなお安全を確認するという意味です。

政府、組織、個人として私たち全員が行う選択は、リスクを高める、あるいはリスクを減らすかのどちらかであって、リスクを完全に排除することは決してありません。 

これからの2週間の成功の証は、感染者が一人も出ないことではありません。すでに数名の感染者が確認していることも知っています。 

大会の成功は、すべての感染者ができるだけ早く特定され、隔離され、追跡され、ケアされるとともに、それ以降の感染が確実に断たれるようにすることです。 それがすべての国にとっての成功の証です。 

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COVID-19のパンデミックは、私たちに多くの、辛い、そして重要な教訓を与えました。 

最も重要な教訓の一つは、健康が危険にさらされているとき、すべてが危険にさらされるということです。

健康が、追加のオプション品ではないことを私たちに示しています。 健康は、支払う余裕のある人にとっての贅沢でもなく、開発に対する褒美でもありません。 それは社会的、経済的、政治的な安定の基盤です。

だからこそ、WHOの最優先事項はユニバーサル・ヘルス・カバレッジなのです。 

私たちのビジョンは、すべての人々が経済的困難に直面することなく、必要なときに必要な場所で必要な医療サービスを受けられる世界です。 実際に日本は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの世界的リーダーであり、その利点を体現している完璧な例です。 

前回私が東京に来たのは2017年のユニバーサル・ヘルス・カバレッジのフォーラムでした。 

その会議では、マーヤ・ワカスギという芸術家が書道で2枚の絵を描きました。

1つは英語で「Health for All」、もう1つは健康と幸福の両方を意味する日本語で表現されました。 

私はそれらの作品がとても気に入り、ジュネーブに持ち帰りました。今、その絵を私のオフィスの外に飾っています。 

日本が健康に投資したのは、世界的な経済大国になってからではありません。

国づくりのためには新しいインフラだけではなく、国民の健康を守るための人的資本への投資が必要であることを知っていました。

現在、日本は世界一の長寿国であり、世界第3位の経済大国です。

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もちろん、スポーツやあらゆる形態の身体活動は、健康のために欠かせません。 

スポーツや身体活動は、がんや糖尿病を含む多くの非感染性疾患の予防と管理に役立ち、うつ病や不安の症状を軽減します。

さらにスポーツの本質は参加であり、個人、コミュニティ、国を一つにし、文化的、民族的、国家的な隔たりを埋めます。

寛容と尊敬を促進し、女性と若者に力を与えます。 

持続可能な開発目標(SDGs)の健康に関する目標、特に今後10年間で身体活動量を15パーセント増加させるという目標の達成に、スポーツが重要な役割を果たすことがわかっています。 そのため私は昨年、バッハ会長と覚書を交わし、WHOとIOCが健康とスポーツを促進するためにより緊密に協力していくいくつかの分野を明らかにしました。

そして明日、国際パラリンピック委員会のアンドリュー・パーソンズ会長と新たな覚書を交わすことを嬉しく思います。

WHOはFIFAとも覚書を締結しており、今後も多くのスポーツ連盟と協力して、健康の増進、健康の保護、スポーツを通じた健康に関する情報発信を行い、そしてオリンピックの価値であるエクセレンス(卓越性)、フレンドシップ(友情)、リスペクト(尊厳)を追求していきたいと考えています。

これらの価値観は今まで以上に重要であり、その一つ一つがCOVID-19のパンデミックとの闘いにも関係しています。

オリンピック・パラリンピック競技大会の競技場で見られる卓越性、友情、尊敬は、あらゆる場所でもそれが可能であるという象徴とならなければなりません。

人間は、条件と準備が整えば、どんなことでもできます。

アフリカの黒人初のオリンピック金メダリストであるアベベ・ビキラは、1960年のローマ大会では裸足で走りながらマラソンで金メダルを獲得し、1964年の東京大会でも記録的な速さで金メダルを獲得しました。

これからの2週間、選手たちは自分のため、国のために最高のパフォーマンスを発揮することに集中します。 

この大会で成功するためには、スピード、強さ、スキルが必要です。しかし、それだけではなく、決断力、ひたむきさ、そして自制心も必要です。

私たちにも同じことが言えます。世界が一つになって目指すのは、決断力とひたむきさと自制心をもって、パンデミックに勝利するために全力を尽くすことです。

競争相手は私たちお互いではなく、ウイルスです。 

パンデミックは、深刻な健康危機です。しかし、それ以上の意味があります。 

それは科学の試練、そして、人の心のありかたの試練でもあります。

冒頭に、「パンデミックはいつ終わるのか」とよく聞かれると言いました。 

「パンデミックは、世界が終息を選択したときに終息する」というのが、私の答えです。それは私たちの手に委ねられているのです。 

私たちは、この病気を予防することも、検査することも、治療することもできる、必要なツールをすべて持っています。

地球上には、より長い歴史を持ち、より複雑で、科学的・医学的に未解決の課題を抱える他の多くの病気があります。少し例をあげるだけでも、HIVのワクチンはなく、アルツハイマー病の治療法はなく、すべての形態の結核に対する簡単な検査法もありません。

しかしCOVID-19はそうではありません。今回のパンデミックは、私たちの手に委ねられていると言っても過言ではありません。私たちには感染を防ぎ、命を救う手段があります。

私たちは、パンデミックを終わらせることができます。 

私たちの共通の目標は、来年の半ばまでに、すべての国の人口の70パーセントにワクチンを接種することです。 

それを達成するには、コミットメント、準備、スキルが必要です。その成果として人々の命が救われ、世界が持続的に復興します。

パンデミックの終息は、私たち全員が選択できることなのです。そのためには、政府、企業、市民社会、そして世界のすべての人にできることがあります。 

一つ目は、政府ができること。 

すべての政府は、状況に合った一貫性のある公衆衛生政策および社会的措置によって、国民を守ることを約束しなければなりません。 

ここに近道はありません。不注意な選択をすれば、それは仇となって自分自身に返ってきます。

特にG20各国の政府は、命を救うために必要なツールを早急に拡大して展開するためのリーダーシップを発揮しなければなりません。

日本は先月、COVAXワクチン・サミットを共催し、COVAX施設に10億米ドルを拠出してくださいました。心から感謝いたします。

このようなリーダーシップを私たちは必要としています。もしその気になれば、世界の主要経済国は、COVAXへのワクチンの提供、ACT Acceleratorへの資金提供を行い、そしてワクチン製造業者が生産規模を拡大するために必要なあらゆる手段を講じることで、数ヶ月のうちにパンデミックを世界規模で制圧することができます。 

国家が産業の力を戦争に動員できるのであれば、なぜ共通の敵を倒すために同じことができないのでしょうか。

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二つ目は、企業ができること。

ワクチンや検査、治療薬を製造する企業は、世界に強力なツールを提供し、希望を与えています。

しかし、彼らにもまた、必要とするすべての人にそのツールが行き渡るようにする社会的責任があります。 

ほとんどのワクチンは公的資金を使って開発されました。

多くの企業がワクチンの提供を約束していますが、その多くはまだ実行されていません。 

来年の半ばまでに、すべての国の人口の70パーセントにワクチンを接種するという目標を達成するためには、110億回分のワクチンが必要です。 

そのためには、生産量を早急かつ大幅に増やす必要があります。2023年以降ではあまりにも遅すぎます。

生産能力のある他社とノウハウや技術を共有したり、特定の製品の知的財産権を一定期間放棄したりするなど、増産の方法はいくつもあります。

WHOは、パンデミックや健康に関するさまざまな分野での民間企業の役割を評価しています。知的財産権制度は、命を救うための新しいツールのイノベーションを醸成する上で、極めて重要な役割を果たしています。

しかし、このパンデミックは前例のない危機であり、前例のない行動が求めらます。多くの命が危険にさらされている中、利益や特許は二の次にしなければなりません。

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三つ目は、市民社会ができることです。

多くの市民社会団体が実に素晴らしい貢献をしています。 

特に、60以上の市民社会団体が同盟となってワクチンの公平性を主張してくれたことに感謝しています。これまでの活動に感謝するとともに、これからも活動を続けていただきたいと思います。皆さんの声は、これからも聞かれ続けなければなりません。

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そして四つ目は、世界の一人一人ができること。

私たちは個人として、自らの選択と自らの声によって、このパンデミックの流れを変える力を持っています。

家にいること、他人との距離を保つこと、マスクをすること、窓を開けること、手を洗うことなど、個人としての日々の選択が生死を分ける可能性があります。

これらのシンプルな対策は、皆さんの命を救うだけでなく、その家族、地域社会、あるいは地球の反対側にいる誰かの命を救うことになるかもしれません。 

私たちが住む地球という村では、一度も会うことのない人とでも、それぞれの生活は関連し合っています。

そして、人々が一つの声をもって話すとき、政府や企業は耳を傾けます。

私は世界中の人に、ワクチンの公平性のために声を上げることを呼びかけます。あなたの政府に、ワクチンの共有は慈善事業ではなく、極めて賢明な自分自身のための行動であると伝えてください。政府が他国を守るために投資することは、自国を守るために投資することなのです。

政府、企業、市民社会、個人、IOCなど、すべての人や組織が、人々の命を救う情報を奪い致命的な嘘を広める、インフォデミックと戦うことができます。

また、個人、団体、企業を問わず、WHO基金の「新型コロナウイルス感染症連帯対応基金」に寄付をすることで、人々の命を救うことに貢献できます。

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皆さん

オリンピックでは、世界の国々が競い合い、アスリートたちはオリンピックのモットーである「より速く、より高く、より強く」を達成するために努力しています。

このモットーは、現代の決定的な危機に対する私たちの闘いにも同様に当てはまります。

ワクチンを世界中に配布するためには、より速い対応が必要です。

来年の半ばまでにすべての国の人口の70パーセントにワクチンを接種するという、より高い目標を掲げなければなりません。

私たちは、ワクチンの生産を拡大する上で立ちはだかるあらゆる障害を取り除くために、より強くならなければなりません。

そして、それをみんなで、連帯してやっていかなければなりません。 

競争を超えて。

メダルや記録を超えて。

オリンピックは世界の国々が祝福とともに一堂に会します。

スポーツの祭典、

また、健康の祭典、

そして、卓越性、友情、尊敬の祭典。

しかし、最終的にはもっと重要なこと、つまり私たちの世界が今まで以上に必要としていることを祝っているのです。

それは、希望。希望の祭典です。

今年はお祝いの言葉をなかなか聞けないかもしれませんが、希望のメッセージは何よりも重要です。

この大会が、世界を一つにまとめ、来年半ばまでにすべての国の人口の70パーセントにワクチンを接種し、共にパンデミックを終わらせるために必要な連帯と決意に火をつける瞬間となりますように。

東京からの希望のメッセージが、世界中のすべての国、すべての村、すべての人の心に響き渡りますように。 

オリンピックの聖火が、地球を横断する希望の象徴でありますように。

そして、この日出ずる国からの希望の光が、より健康で、より安全で、より公平な世界のための新しい夜明けを照らすことができますように。 

ありがとうございました。Arigato gozaimasu。


 

関西学院千里国際高等部でオンラインインタビューを実施

WHO神戸センターの茅野龍馬医官と寺本将行医師は、2021年7月15日、関西学院千里国際高等部の高校生約20名を対象にオンラインインタビューを実施しました。インタビューの前半では、寺本医師より国際保健の主要な歴史、21世紀の国際保健の課題、WHO神戸センターの役割などについて概説しました。また、WHO神戸センターが事務局を務める災害・健康危機管理に関するグローバルリサーチネットワーク(Health EDRM RN)について、茅野医官より発足の経緯や今後の展望について話しました。後半では、これまで持続可能な開発目標(SDGs)への理解を深めてきた高校生達からの質問にインタビュー形式で答え、SDGsや国際保健への理解を深める双方向型の講義となりました。

奈良学園大学でオンライン講義を実施

WHO神戸センターの茅野龍馬医官は2021年7月14日、奈良学園大学でオンライン講演「国際保健と感染症​~21世紀の保健課題とSDGs~​」を行いました。茅野医官は、国連機関の役割、国際保健の主要な歴史、新型コロナウイルス感染症への対応などについて概説しました。さらに、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)の必要性についても強調し、世界中の国々でのUHCの実現が、健康危機管理を含む保健課題を大きく前に進めることになるとメッセージを伝えました。

都心三宮における感染症に強い空間ガイドライン等検討会に参加

2021年7月9日、神戸市が主催する第一回都心三宮における感染症に強い空間ガイドライン等検討会に、WHO神戸センターの茅野龍馬医官が委員として参加しました。本検討会は、ウィズコロナ・ポストコロナを見据え、都市空間の役割・機能等の変化に適切かつ柔軟に対応し、「都心・三宮再整備」を着実に推進することを目的に開催されました。茅野医官は都市における感染症対策の観点から意見を述べました。第一回検討会の資料はこちらからご参照いただけます。

健康危機と災害への対応向上を目指す研究の促進

健康危機と災害の発生は、年々、頻度が高まり規模も拡大しており、甚大なリスクにさらされている人や被害を受けた人の数は、世界で何百万にものぼっています。これを受けてWHOは、2016年に、関連する政策およびプログラムに情報を役立てるための研究活動の国際的な協働を促進するため、災害・健康危機管理に関するグローバルリサーチネットワーク(Health EDRM RN)を発足させました。

最近では、Health EDRM RNの活動を著したものが2件出版され、Health EDRMに関する知識や情報、エビデンスが世界・地域間で双方向に流れるよう促すプラットフォームとしての役割の重要性が明らかにされました。

WHO神戸センターは、2020年2月、日本災害医学会と共同でワークショップを開催し、危機や災害の被災者や被災地域のニーズに応えるためのオペレーショナル・リサーチの推進や災害・健康危機管理コミュニティの研究能力の強化など、Health EDRM RNが優先すべき活動について、国内の専門家が討議しました。このワークショップでは、災害・健康危機管理の分野の前進に向けて、地域の専門家から意義深い情報やアドバイスが得られました。具体的には、災害・健康危機管理コミュニティの研究能力を向上させるために、災害・健康危機管理のオペレーショナル・リサーチに、混合研究法によるデザインやデータ収集の標準化を取り入れること、「災害・健康危機管理の研究方法に関するWHOの手引き書」を積極的に教育に活用することなどが挙げられます。

国際的には、Health EDRM RNコア・グループの会合が2回、2019年10月17~18日と2020年11月27日に開催され、政策と実行に知見を反映させるために研究に優先順位を付けたHealth EDRM RN研究計画の策定に向けて討議しました。これらの会合では、災害・健康危機管理に関する知識と情報を提供するオンライン・プラットフォームとして、WHOの災害・健康危機管理のナレッジハブを確立することにも焦点が当てられました。このナレッジハブは、危機に関する国際的に重要な情報源となり、各国の政策立案者、政府職員、現場での作業従事者、病院管理者、開業医に役立つことが期待されます。出版物はこちらをご覧ください。

WHO神戸センターはHealth EDRM RNの事務局として、本ネットワークの活動が世界と地域の両者と確実に関わるものとなるように努めてまいります。