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2015

高齢者のための地域における取り組みに関する新たなモデルの検証 – 専門家会議 2015年7月14日~15日

一般的に保健や社会的ケアに関する主たるサポートは身近かな家族により提供されてきました。しかしながら、こういった考え方は、近年の人口増加や都市化、世帯構成の変化によりその継承継続が困難になっています。人口統計学的、また、社会的な面での急激な変化と併せて、高齢者ケア・サポートへのニーズが著しく高まる現状を受けて、WHO神戸センター(WKC)では、2014年、低・中所得国(LMICs)における地域密着型ケアに関するケーススタディに着手しました。

WKCは2015年7月14日~15日の2日間にわたり神戸にて会議を開催、オーストラリア、カナダ、インド、イタリア、ポーランド、南アフリカ、ウガンダ、ベトナムから出席した8名の専門家がWKCの担当官とともに、先に取りまとめられたのケーススタディで報告された取り組みについて協議、検討を行いました。

この度の専門家会議から得られた成果は、本テーマにおける研究の次なる局面として、中・高所得国におけるさまざまな取り組みの展開を促すことが期待されます。本研究の最終的な目標は、ひと本位の、また、統合型の保健・社会的ケアを目指す、高齢者のための地域密着型のケアモデルの実践に向けた基本指針を導き出すことにあります。

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「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に焦点を当てる」報告書発表 - WHOと世界銀行グループ

WHOと世界銀行グループは「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に焦点を当てる:第一回グローバル・モニタリング報告書」を発表しました。それによると、世界で少なくとも4億人の人々が基礎的な医療サービスへのアクセスが十分ではなく、低・中所得国の6%の人々が医療支出により更なる貧困に追いやられている現状があります。

この報告書は、経済的保護を含めたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)実現のために、各国がそれぞれのUHCの進捗をモニターすることを目的として作成されました。UHCの実現はポスト2015年開発アジェンダのひとつです。

UHCは世界中の誰もが、人々が必要とする質の高い保健医療サービスを受けられることを意味するもので、各国が積極的に取り組みを開始すると、かならずや進捗管理という問題にも取り組んでいくことになります。

この報告書は毎年発行するアニュアル・レポートの第1冊で、今後WHOと世界銀行グループは進捗状況を毎年発表していく予定です。(ロックフェラー財団、厚生労働省が協力)

今回の報告書では基本的な保健医療サービス(家族計画、産前ケア、助産専門技能者介助による出産、小児予防接種、抗レトロウイルス療法、結核(TB)治療、安全な水や衛生施設へのアクセス)について検討しましたが、2013年には世界で少なくとも4億人の人々が、これらの基礎的な医療サービスへのアクセスが十分ではないことがわかりました。

また、低・中所得国の37か国において、6%の人々が医療支出によって更なる貧困に追いやられている現状(1日あたり1.25米ドル以下)にあることも明らかになりました。また、1日あたり2米ドル以下の水準で検討すると17%になります。

WHOと世界銀行グループは経済的保護を含め、各国がUHCを実現することによって、最低でも80%の人びとがこれらの基本的な保健医療サービスへのアクセスを確保することを目標として設置するように提案しています。

第3回国連防災世界会議 (WCDRR)

第3回国連防災世界会議が、2015年3月14日~18日 宮城県仙台市にて開催されました。各国からの参加者が、第2回会議(2005年 神戸)で策定された「兵庫行動枠組」の見直しを行い新たな指針を採択しました。災害時に人々の健康を守るための保健課題と対策は、より一層重要な取り組みとなります。会期中は、保健と災害リスク軽減をテーマとするシンポジウムや展示など、一般市民のためのさまざまなイベントが催されました。

3月17日、WHO(世界保健機関) UNAIDS(国連合同エイズ計画) UNFPA(国連人口基金) UNISDR(国連国際防災戦略事務局)は、パブリックフォーラム「災害リスクから人々の健康を守る」を共催、世界各地から30余名の防災、公衆衛生、保健医療等の専門家を迎え、7つのセッションにわたって包括的な見地から災害リスクと健康について論議しました

詳しくはこちら: パブリックフォーラム開催案内

WKCフォーラムレポート「災害にレジリエントな高齢化社会とコミュニティーの構築にむけて」

阪神・淡路大震災から20年の年月が流れました。この機会を記念して、WHO神戸センター(WKC)は兵庫県立大学地域ケア開発研究所と共に、2015年2月20日神戸市中央区の兵庫県看護協会にて公開フォーラム「災害にレジリエントな高齢化社会とコミュニティーの構築にむけて」を開催し、43名が参加しました。

この20年の間、日本国内はもとより、国外でも様々な災害に見舞われました。増え続ける災害、そしてその被害を最小限に留め、より災害に強い地域社会を作るために、国そして世界レベルでの備えや緊急対応はどうあるべきか、そしてよりよい復興を遂げるためには、地域で何が必要とされるかが議論され続けています。2005年の第2回国連防災世界会議では、参加国が防災に力を入れるという同意のもと、兵庫行動枠組が採択されました。また、3月14日から18日まで、仙台において第3回国連防災世界会議が開催され、兵庫行動枠組の評価が行われます。現在も、この20年間の世界の国々における取り組みの評価、また新たな課題の設定に関する協議が進行中ですが、この会議で、次の防災への課題を果たすべく「ポスト兵庫行動枠組」として審議・採択される予定です。

日本は世界に先駆けて超高齢化社会を迎えており、その結果、1995年の阪神淡路大震災でも、2011年の東日本大震災においても、死者の半数以上を高齢者が占める等、多大な影響を受けています。また、災害による影響は身体的な被害だけに留まりません。災害によって失われるものは、地域社会とのつながりや、その地域での医療サービスなど、個々の住民を取り巻く社会とのつながり全てが絶たれてしまうのです。そして、一度災害によって壊されてしまった地域社会の再生には多くの時間を要します。しかし、日頃から災害に強い地域社会では、この再生過程が異なることが指摘されています。被災した後に再生しようとする力、回復力をレジリエンスと呼びますが、このレジリエンスは、地域のメンバーである住民や、住民を支える様々なシステムが日頃どのように活動・機能しているかで大きく左右されます。高齢社会では、このような日頃からの備えが脆くなりがちです。

このような社会状況に踏まえて今回のフォーラムでは、看護・社会福祉・医療、心理学の分野から5名の専門家を迎え、超高齢化社会でのレジリエントな社会の構築に関しての講義ならびにコメントを発表する形で討議を展開しました。

京都大学大学院特定准教授の三谷先生は、東日本大震災後の高齢者が抱える健康問題について、震災関連死を予防するため、避難所生活による健康リスク、災害時の高齢者の脆弱性を疫学的観点から考察しました。WHO神戸センターのコンサルタント加古氏は、世界レベルでの高齢化の進捗状況と、高齢化社会での防災のあり方、災害からの回復時・リハビリテーション期を焦点にし、高齢化社会と防災のあり方について発表しました。神戸市垂水区役所保護課長の岡本氏は、自身の地域福祉課での活動を基に、阪神淡路大震災後に生じた被災高齢者の見守りやコミュニティーの再生について、脆弱になりがちなコミュニティーを震災時だけでなく平時から支え続ける必要性について報告しました。兵庫県立大学地域ケア開発研究所所長の山本教授は、阪神淡路大震災時の仮設住宅における看護職による健康相談や住民の方々の輪づくりなどの活動や、各地域における「まちの保健室」活動の紹介とともに、この活動を通しての健康・生活調査の結果を踏まえて、被災高齢者の身体とともに社会的なサポートの重要性を講演しました。相馬中央病院内科診療科長の越智先生は、福島県相馬市での経験を基に、被災地における長期的な健康被害を阻止することの必要性、特に避難行動による健康被害や、放射線を避けることで生じる健康被害など福島の高齢者が抱える問題を報告しました。

また、阪神・淡路大震災から20年を振りかえって、講演者から次の点が指摘されました。

  • 社会からの孤立や高齢者自身の健康管理能力の向上といった、災害後の心理社会的な課題に取り組むことが重要である。
  • 震災から20年を経て、各機関での災害時の役割認識が整ってきた結果、災害緊急対応に携わるそれぞれの組織の細分化や専門性の発展に伴い、災害後の対応がより自律的に行われるようになっている。
  • 連携・包括的な活動は、災害支援において大切なことであるが、そのためには日頃からの関係機関の間でのコミュニケーションが不可欠である。
  • 防災は日常の生活に取り入れられるべきことであり、また高齢化社会では、高齢者の防災活動への参加がより必要になってくる。

プログラム・講演者

プレゼンテーション

WKCフォーラム「災害にレジリエントな高齢化社会とコミュニティーの構築にむけて」

2015年1月17日で、1995年の阪神淡路大震災から20年を迎えます。この機会に、高齢化社会において災害からの復興・回復力のあるコミュニティーのあり方について、WHO神戸センター (WKC) は、2月20日 (金) 神戸にて、公開フォーラム「災害にレジリエントな高齢化社会とコミュニティーの構築にむけて」を開催します。

2005年には兵庫行動枠組み(HFA)が、すべての参加国が防災に力を入れるという同意のもと採択されました。またその一方で、世界保健機関(WHO)、国連開発計画(UNDP)、国連国際防災戦略(UNISDR)等の国際機関が、災害のサイクルは連続した一線上にあるという共通理解のもと、その機関独自の役割を、様々な災害サイクルにおいて生かすことができるようなガイダンスの作成にあたっています。

兵庫行動枠組みは、現在も評価・改定作業が進められており、2015年3月に仙台で開催される第3回国連防災世界会議で、次のポスト兵庫行動枠組みとして審議・採択される予定です。この20年の間、東日本大震災、そして他の国々で起こる災害を含め、防災に関して多くを学んできました。現在における重要課題である「レジリエントな社会とコミュニティーの構築」に向けて、今までの学びを生かし、その経験を分かち検討する必要があると考えられています。

日本は世界に先駆けて超高齢化社会を迎えており、その結果、高齢者は1995年の阪神淡路大震災、そして東日本大震災においても、多大な影響を受けています。社会における高齢者人口の増加は、災害に対する多くの脆弱性に関する示唆を与え、そこから私たちが災害に対してどのような対策を講じ緊急対応を行うか、そして被災した人たちをどのように支えていくのかということを考える機会となっています。現在も、引き続き課題を多く残している分野として、健康・社会・心理そして身体的な問題があげられます。高齢者は、コミュニティーの重要な一員として、レジリエントなコミュニティーを構築するための貢献者ともなりえます。

今回のWKCフォーラムでは、医療・看護・福祉行政の各分野とWHOからの5 名の専門家が、過去の災害の経験から、将来起こりうる災害に対して、被災住民をも支援できる、レジリエントな高齢化社会をどのようにすれば築くことができるかについて講演、ならびに、参加者からの質疑に応じる形式での活発な討議を展開します。

開催日時・場所:

2015年2月20日(金) 14:00~16:00

兵庫県看護協会会館 研修室 6

(神戸市中央区下山手通5-6-24 兵庫県看護協会会館 4階)

プログラム:(言語: 日本語)

14:00~14:10 開会の辞

14:10~15:25 講演

15:25~15:55 討議 (オープンディスカッション)

15:55~16:00 閉会の辞

講演者:

(登壇順・敬称略)

「東日本大震災の高齢者健康問題:NCDsの疫学的所見」

京都大学大学院医学研究科

安寧の都市ユニット 三谷 智子特定准教授

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野卒業。社会健康医学博士。災害看護の中でも特にメンタルヘルスや、生活習慣病に関する公衆衛生と疫学を専門としている。2006年京都府立医科大学大学院医学研究科 地域保健医療疫学助教。学生指導を行うとともに、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)にて、生活習慣とがんの関連についての研究にも従事。災害医療や災害看護に関する論文を多数執筆。2010年より現職。「今回のフォーラムでは、東日本大震災後の高齢者が抱える健康問題について、生活習慣病や被災地での疫学調査に照らしてお話しします。」

 

「高齢化社会と災害:グローバルな観点からの報告」

WHO神戸センター コンサルタント 加古 まゆみ

看護師、哲学博士(看護学)。現在、WHO神戸センター コンサルタント(災害緊急マネージメント)。1994年に神戸市立看護短期大学を卒業後、西神戸医療センター勤務。その後、渡豪し看護学学士、修士を取得。帰国後、神戸市看護大学での教鞭の傍ら、HAT神戸で被災高齢者のための地域ボランティアに学生、同僚とともに関わる。2008年博士取得後、フリンダース大学 Disaster Research Centre(現Torrens Resilience Institute)で災害看護、医療に関する教育、研究に携わる。「高齢化社会で生じる課題は、世界レベルでの取り組みが必要になっています。災害は社会すべてに影響を及ぼし、より脆弱な社会構築では、その回復や復興により多くの時間を要します。HAT神戸でのボランティアの経験を元に、日本から、またグローバルな観点からの高齢者の支援のあり方について、話題提供・考察をします。」

 

「阪神淡路大震災後の高齢者健康問題、見守り活動を通しての学びをどのように生かすか」

神戸市垂水区役所 岡本 和久保護課長

大阪府立大学社会福祉学部卒業。社会福祉士。1991年神戸市入庁後、神戸市中央福祉事務所に配属。1996年4月、神戸市保健福祉局地域福祉課でボランティアセンターの立ち上げや、仮設住宅、復興住宅での地域見守り活動等に従事。2001年厚生労働省老健局計画課に出向し在宅福祉を担当後、神戸市保健福祉局で在宅福祉や介護予防推進等の業務を担当。その後、神戸市灘区保護課係長、神戸市こども家庭センターにて児童虐待担当係長を経て2012年より現職。「これまでの災害後の支援活動を通して、災害からの復興は人の心も含めたものであり、特に被災者には高齢者が多いことから、脆弱になりがちなコミュニティーを平時より支え続けることの必要性を痛感しています。被災者の生活再建を見守る中で気付いたことを交えながら、お伝えしたいと思います。」

 

「まちの保健室活動を通して被災高齢者の健康を守る」

山本 あい子兵庫県立大学教授 同大学地域ケア開発研究所

「WHO災害と健康危機管理に関する看護協力センター」所長

聖路加看護大学衛生看護学部看護学科卒業。テキサス大学オースチン校看護学研究科博士後期課程修了。看護学博士。聖路加看護大学講師、JICAパキスタン看護教育プロジェクト看護教育専門家等を経て2008年より現職。阪神淡路大震災後、1998年の日本災害看護学会設立に参画し、2008年の世界災害看護学会の設立にも関与、現在両学会理事長。2005年より同大学看護学研究科において、災害看護専攻領域の教育を世界に先駆けて開始。「まちの保健室活動を通して被災高齢者の健康を守る、また健康に関わる専門職教育の側面からの情報・課題提供を予定しています。」

 

「東日本大震災後復興期における高齢者の健康問題とその対策」

相馬中央病院 越智 小枝内科診療科長

東京医科歯科大学医学部医学科卒業。2003年同大学膠原病・リウマチ内科入局。2011-2012年、インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院にて公衆衛生修士取得。インペリアルカレッジ・ロンドンリサーチフェロー、WHO、PHEインターンを経て2013年11月より現職。「災害からの復興の目指すものは、インフラや経済の復興ではなく人の復興であり、そのためには被災地における長期的な健康被害を阻止することが大切です。超高齢化社会を迎えた日本においては、特に高齢者の健康問題を包括的に把握し、対応する必要があります。今回のフォーラムでは、地震・津波・原発事故の複合災害を受けた福島県相馬市での経験をもとに、現在の高齢者の健康問題について報告します。」

詳しくはこちら:フォーラム開催のご案内・参加申し込み方法

参加費無料

事前申し込み締め切り:2015年2月17日(火)

2014

多部門連携による保健事業 (ISA)

多部門連携による保健事業(ISA)は、生活の質を向上させるための公共政策を立案、実行する際、保健関連部門だけでなく複数の部門と連携して行うことを言います。ISAを推進するためにWHO神戸センター(WKC)は『多部門連携による保健事業―政策立案者のための効果的かつ持続可能な保健事業の実践への道』(仮訳)と題した手引書を2011年に作成し、具体的な事例も研究報告書にまとめています。現在は、この手引書の改訂に取り組み中です。

2014年5月にWHO神戸センターは兵庫県神戸市にて専門家会議を開催し、既存の手引書についての総合的な検討と評価を行い、手引書の改訂に関する提言をまとめました。この会議の報告書は、最近の多部門連携による保健事業(ISA)のグローバルな展開およびISAの実践例、そして手引書の改訂のための提言について強調しています。

更にWKCは、地方自治体におけるISAの事例研究に関する新たな論文および報告書を発表しました。事例研究の結果からは、地方自治体がISAを実践し、よりよい健康アウトカムを達成するために役立つ、共通の課題や成功要因についての洞察が得られます。

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WHO西太平洋地域の6カ国における高齢者のための医療・補助機器のニーズに関する調査研究

WHO神戸センターは、WHO西太平洋地域の6カ国(中国、日本、マレーシア、フィリピン、韓国、ベトナム)を対象に実施された高齢者のための医療・補助機器のニーズに関する調査結果について、報告書を作成しました。

医療技術におけるイノベーションは、関連する保健・社会制度とともに、ますます多くの高齢者が直面しつつある身体・認知機能の低下を抑制し管理するための、また、介護施設への長期間の収容を減らすための重要な優先課題となっています。

本報告書では、調査結果から得られた情報をもとに、高齢者のための優先度の高い医療・補助機器を特定し、利用可能性を左右する要因を把握し、また、高所得国、低・中所得国の双方においてより良質な機器を手頃な価格で入手できるようにするための実施可能な方策を提案しています。

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WKCフォーラムレポート「高齢者のためのイノベーション ~アドヒアランス向上のために: 薬剤治療と食事療法~」

10月1日は、国連の定める 国際高齢者デー (International Day of Older Persons) です。この日を記念して、WHO神戸センター (WKC) は、2014年10月1日 神戸にて、公開フォーラム「高齢者のためのイノベーション ~アドヒアランス向上のために: 薬剤治療と食事療法~」を開催しました。フォーラムには、約60名が出席、高齢患者の服薬アドヒアランス向上のために現在取り組まれている最新のイノベーションについて、また、高齢者の暮らしに役立つ栄養知識についての発表・討議に参加しました。

人口に占める高齢者の割合は、世界的に急激な増加の一途をたどっています。このような人口転換に伴い、疾病構造の変化(疫学的転換)もみとめられています。世界的にみて、非感染性疾患が主な死亡原因となり、また、非感染性疾患に起因する障害の割合は障害全体の50%にも上っています。この傾向がきわめて顕著な日本は、世界で最も高齢化の進んだ国であると同時に、非感染性疾患が死亡原因の80%近くを占める現状を抱えています。

長生きをすれば、私たちの多くは薬剤や栄養による療法を必要とする状況に直面するでしょう。従来、医療における患者の療養行動は、「医療者からの指示に患者がどの程度忠実に従うか」 というコンプライアンス概念のもと、受身の立場で評価されてきました。しかし、治療の過程では、服薬、食生活の改善、生活習慣の修正など、患者と医療者が相互に合意した治療方針に患者自身が主体的に参加する必要性が重視されるようになってきました。この概念をアドヒアランスと呼びます。

加齢に伴う健康課題の多くについては予防や管理が可能です。そのためには、老化による認知や機能の低下、また、健康や生活の質の維持を目的とした療法にいくつも取り組まなければならないなど、高齢者が日々直面する問題にうまく対処することが肝要です。アドヒアランスは、治療を成功に導く第一の決定要因です。アドヒアランスが不十分であれば、治療効果を最大限に引き出すことは難しく、ひいては、医療制度における全般的な有効性を引き下げることにもつながります。

加齢とともに、栄養必要量は変化していきます。同時に、健康問題や複数の薬剤服用による副作用、生活様式の変化、知識不足などが原因で、必要な栄養摂取が損なわれることも考えられます。食習慣や服薬におけるアドヒアランスは、健康な高齢化のための大切なポイントとして、健康状態の改善に深く結びついています。

今回のフォーラムでは、老年学、薬学、栄養学の分野から4 名の専門家を迎え、高齢者の健康に寄与するアドヒアランス向上についての講演、ならびに、参加者からの質疑に応じる形式での活発な討議を展開しました。

神戸大学名誉教授の小田先生は、社会学的、老年学的見地からアドヒアランスの概念の定義に焦点を当て、日本の高齢者に求められている役割の変化について解説しました。横浜薬科大学教授の定本先生は、服薬アドヒアランスのモニタリングについて、具体的なイノベーションの例を取り上げて発表、最新の研究成果を報告しました。名古屋学芸大学教授の下方先生からは、高齢者の栄養摂取状況の把握とその改善に関する長期縦断調査の結果から、高齢者の健康と幸福の向上のためには、食習慣の見直しと改善が重要であるとの指摘がありました。京都大学の木村先生は、国内外で広く展開中の地域に暮らす高齢者の健康状態や食事摂取状況を包括的にとらえることを目的とした「フィールド医学」の調査研究から、高齢者の食事において食の多様性が乏しくなってきている現状、ならびに、その影響が慢性疾患を抱えた高齢者にもたらす課題について講演しました。

講演に続いてのオープン・ディスカッションでは、会場の参加者からの活発な質疑を受けながら、小田先生が進行を務め、今回フォーラムのトピックとなった、高齢者の服薬アドヒアランスと栄養摂取についての討議が行われました。アドヒアランスの向上を目指すには、また、現在、そして今後の高齢者ニーズによりよく対応するためには、医師、看護師、薬剤師、栄養士、また、コミュニティーサポートなど、医療関係者間の協働・協力を着実に進展させることが急務であるとの結論に至りました。

プログラム・講演者略歴

プレゼンテーション

WHO自殺に関する報告書「自殺を予防する:世界の優先課題」

毎年、世界では80万人が自殺により死亡しています。これは、40秒ごとにひとりが亡くなっている計算となります。これらは、防ぐことができる死です。
WHOが初めて発表した自殺に関する報告書「自殺を予防する:世界の優先課題」では、世界における自殺の現状、自殺のリスクにさらされているグループ、そして社会及び個人レベルで自殺による死亡者を減らすために何ができるのかが報告されています。

メディア

その他の情報

「WHOグローバルフォーラム: 高齢者のためのイノベーション」 レポート

2013年、WHO神戸センター はリソースの限られた状況にある高齢者のニーズに応えるために、フルーガル・イノベーションを用いた対応策について協議し、幅広い関係者との情報・意見交換を行う「グローバルフォーラム: 高齢者のためのイノベーション」を開催しました。2013年12月10日~12日、神戸市内で開催された本フォーラムには、21カ国から170人を超える参加者が出席し、活発な討議が展開されました。

議論内容:「 高齢者のための技術的・社会的イノベーション、実践例からの教訓、保健制度の研究に冠する意見交換」「成功事例からの知見や解決策ならびにイノベーションの向上について」「高齢者のためのイノベーションを支援する上での主要な優先課題」など。

本レポートはグローバルフォーラムでのプレゼンテーションや討議、結論をまとめたものです。

「WHOグローバルフォーラム: 高齢者のためのイノベーション」 レポート(英語版)