News Archive by Year

2023

質の高い慢性期ケアに向けた報酬設定に関する新たな報告書をOECDと共同で発表

慢性疾患を抱える人のケアの質を向上させることは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを進めるうえで欠かせません。急速な人口高齢化を考慮すると、慢性期ケアの質の向上に向けてインセンティブとなるように、ケアサービス提供者への報酬など、サービス契約および購入の取り決めを設定していく必要があります。

2023年10月10日、WHO神戸センターと経済協力開発機構(OECD)は、高齢者をはじめ人々の健康と良好な身体機能が実現されるように、質の高い慢性期ケアを奨励するための報酬の設定方法について検討した研究の報告書を発表しました。報告書では、医療サービスの購入に関する取り決めが慢性期ケアの質と効果に及ぼす影響に関して既存のエビデンスを整理するとともに、この影響を説明するメカニズムを明らかにする研究を新たに委託しました。OECDおよび現地の研究チームと協力して、慢性期ケアの質に応じて医療サービスへの報酬を設定する契約・支払い方法に関するケーススタディーを8か国(オーストラリア、カナダ、チリ、中国、ドイツ、インドネシア、南アフリカ、スペイン)で実施しました。これにより、さまざまな状況で得られた知見や学びが共有されることが期待されます。

本研究からは、保健医療への支払い方法の設定において、報酬に着目するだけでなく、保健医療サービスの提供モデル全体に焦点をあてて検討すべきであることがわかり、質の低下につながる要因を体系的に特定できるよう、さらに注力していく必要性が明らかになりました。政策立案者はその結果をもとに、すべての人に対してサービスの質と効果を向上させるとともに、高齢者が必要とする内容と質のサービスも担保するサービス提供モデルに向けた制度改革を後押しするような報酬の設定方法を特定することが可能となります。

また本研究では、報酬の設計と評価に関する過去の経験から学ぶ重要性についても指摘されており、得られた教訓を各国のさまざまな状況に体系的に応用していく必要があるとしています。各国が他の環境での経験を参考にし、慢性疾患を抱える患者に質の高いケアを提供するために報酬の設定方法と支払い方法を最適化する際に本研究の知見が役立つでしょう。

報告書および関連資料については、下記をご参照ください。
サマリーレポート
ポリシーブリーフ
ケーススタディー:オーストラリアカナダチリ中国ドイツインドネシア南アフリカスペイン
 

本プロジェクトについては、こちらをご参照ください。

 

fukiai_lecture_28SEP2023

サラ・ルイーズ・バーバー所長 神戸市立葺合高等学校の学生に講義

2023928日、神戸市立葺合高等学校にて、WHO神戸センター所長、サラ・ルイーズ・バーバーが講義「グローバルヘルス」を行いました。生徒たちは公衆衛生上の問題の一つであるタバコ規制について、学校の仲間と積極的に話し合い、生徒として地域社会の中で禁煙環境を促進し、健康を増進するために何ができるかについて意見を述べました。

slidedeck_singhealth

Population Health Academic Advisory Panel (PHAAP) 会合に出席

WHO神戸センター所長、サラ・ルイーズ・バーバーは、2023925日~26日に開催されたPopulation Health Academic Advisory Panel (PHAAP)会合にSingHealth地域保健システム総局の招待で出席し、SingHealthと世界の保健コミュニティをつなぐ健康人口研究に関するインプットを提供しました。バーバー所長は、Singhealth、デューク医科大学、厚生労働省、社会・家庭振興担当国務省、その他政府・地域代表の方々と共に出席し、高齢化社会における持続可能な医療財政に関するWKCの研究課題についてプレゼンテーションを行いました。

Director's portrait

国際高齢者デーに寄せて WHO神戸センター所長のメッセージ

10月1日は、日本をはじめとする世界各国が「国際高齢者デー」を記念し、高齢者による社会への貢献に敬意を表し感謝する日です。

高齢者人口の増加に伴い変化するニーズに対応できる統合された保健医療・社会保障制度が必要とされており、日本を含む世界のほとんどの国が多くの課題に直面しています。人口高齢化における保健医療制度では特に、質の高い慢性期ケアを提供できるかどうかが重要な点となります。

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)は、高齢者が健康への権利を享受できるような保健医療制度があらゆる地域で実現することを目指しています。高齢者の保健医療・介護・福祉サービスへの公平なアクセスに影響を与える要因を特定するため、当センターは世界各地のパートナーと協働しています。関西地域とアジア太平洋地域における研究では、得られた教訓をもとに広く世界各国での政策開発に役立つ情報を提供し、高齢者が必要なケアを利用する際に直面する障壁や格差を是正するために各国当局が適切に対応できるよう支援しています。

当センターは、高齢者をはじめ人々の健康と良好な身体機能が実現されるように、質の高い慢性期ケアを奨励するための報酬の設定方法について検討した研究の報告書を近く発表予定です。本研究は経済協力開発機構(OECD)との共同によるもので、現地の研究チームと協力して、質の高い慢性期ケアと連動させた医療サービスの契約・支払い手段に関するケーススタディーを8か国で実施しました。

本研究からは、保健医療への支払い方式の設定において、報酬に着目するだけでなく、保健医療サービスの提供モデル全体に焦点をあてて検討すべきであることがわかり、質の低下につながる要因を体系的に特定できるよう、さらに注力していく必要性が明らかになりました。政策立案者はその結果をもとに、すべての人に対してサービスの質と効果を向上させるとともに、高齢者が必要とする内容と質のサービスも担保するサービス提供モデルに向けた制度改革を後押しするような報酬の設定方法を特定することが可能となります。

本研究の報告書とポリシーブリーフはこちらのページで公開予定です。

BMJ unmet needs study

満たされていないヘルスケア・ニーズの測定は世界的なUHCモニタリングの向上に役立てる:BMJ誌に論文を発表

健康と福祉に関する持続可能な開発目標(SDGs)における12のターゲットの1つであるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けて各国が取り組みを重ねる中、その進捗を効果的に追跡し、埋めるべきギャップを特定することは不可欠です。UHCを測定するSDG指標は2つ(保健医療サービスのカバレッジ、経済破綻をきたすレベルの医療費自己負担支出)ありますが、いずれも実際にケアを受けた人のみを対象とした指標であるため、満たされていないニーズ(アンメットニーズ)が捉えられません。受診を控えた人の割合とその理由に関する世界全体での標準化されたデータは、重要であるにもかかわらず存在していないのが現状です。この問題に取り組むため、WHO神戸センターは、未充足のヘルスケアニーズの研究を、特に高齢者を対象に実施してきました。

当センターのローゼンバーグ恵美技官とサラ・ルイーズ・バーバー所長は9月5日、当センター諮問委員のビロージ・タンチャロエンサティエン氏(タイ国際保健政策計画財団)、ならびにこの分野におけるWHO神戸センターの研究パートナーであるポール・コワル氏(オーストラリア国立大学)、ミサヌール・ラーマン氏(一橋大学・東京財団政策研究所)、岡本翔平氏(WHO本部保健制度ガバナンス・資金供給部門)と共著で、未充足のヘルスケアニーズに関する良質なデータがUHCの世界的なモニタリングの向上に役立てることを提唱する記事を世界4大医学雑誌の一つであるBMJ誌に発表しました。記事では、未充足のヘルスケアニーズについて世界的に合意された定義がない点が指摘されています。「未充足ニーズ」の定義が困難である理由の一つは、ケアを受けるかどうかに関しては、健康の社会的決定要因、個人の価値観、ヘルスリテラシー、その時点での症状など、多くの要因が影響するためです。未充足ニーズの定義が複雑であることにより、その測定も難しくなります。低中所得国では、既存の人口調査において未充足ニーズに関する質問がされていない傾向があり、特に測定が困難です。著者らは本記事で、未充足のヘルスケアニーズの定義およびニーズが満たされない理由に関して、世界的な基準を設ける必要があるとしています。それに加え、未充足のヘルスケアニーズを特定するための調査に用いる標準化された質問も必要であると述べています。個別の治療や疾患に限らず、すべての未充足のヘルスケアニーズを捉え、かつ必要とする医療へのアクセスを妨げている要因がわかるようなデータが必要です。これらのデータは、UHCの現行の指標では把握できない疾患や症状を抱える人々の状況を理解することを可能にし、UHC達成に向けた進捗のより正確な追跡に役立つと考えられます。

ヘルスケアにおけるアンメットニーズに関する当センターの研究の一部は、WHOと世界銀行が9月18日に発行した2023年UHCグローバル・モニタリング・レポートでも取り上げられています。これらの情報は、9月21日に米国ニューヨークで開催されるUHCに関する国連総会ハイレベル会合での議論に活用される予定です。2023年の第76回世界保健総会の決議で要請されたように、ヘルスケアにおける未充足ニーズを、UHC達成に向けた進捗モニタリングの指標に用いることの重要性と実現可能性を議論する好機となります。

当センターと著者らが実施した関連研究プロジェクトについては、下記をご参照ください。

神戸大学大学院保健学研究科にて講義

WHO神戸センターの茅野龍馬医官は、2023年9月7日、神戸大学大学院保健学研究科の International Course for Health Sciences(ICHS)にて、オンライン講義を行いました。”WHO activities to address the shifting needs of global health”というテーマで、変化するグローバルヘルスのニーズやWHOの 取り組みについて、新型コロナウイルス感染症やInternational Health Regulation(2005)などの実例を交え説明しました。 

Kobe lecture slide2

JAGES機構 設立5周年記念シンポジウム「介護予防分野におけるPFS / SIBの可能性」のご案内

JAGES Symposium flyerJAGES機構 設立5周年記念シンポジウム 「介護予防分野におけるPFS / SIBの可能性」が2023年9月26日(火)東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホールにて開催されます。 WHO神戸センターからもローゼンバーグ恵美技官が参加し、本センターの関連研究から得られた知見をもとに、「国際機関における成果連動型医療事業の研究」についての講演を行います。 

詳しくは、JAGES機構のシンポジウムページをご覧ください。ご参加を希望される方は、こちらのページのシンポジウム受付フォームよりお申し込みいただけます。 

 

主 催:(一社)日本老年学的評価研究機構 

日 時:2023年9月26日(火)14:00~16:55 

会 場:東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール 

参加費:無料*懇親会は別途費用が必要となります。 

対 象:介護予防分野におけるSIB/PFSの取組に興味を持つ自治体職員、研究者、個人 

    介護予防分野におけるSIB/PFSの取組に興味のある企業 

懇親会:多目的スペースにて開催予定。参加費7,000円。 

 

WKCフォーラム 2023 Build the world we want; A healthy future for all -地球的視野に立ち、健康を捉える- 開催のご案内

WKC Forum 2023 flyer未曽有の感染症、高齢化、災害危機管理など、グローバル規模の対応と国やコミュニティー間の連携が必要となる健康課題は数多く存在します。2022年のUniversal Health Coverage Dayのテーマであった「Build the world we want: A healthy future for all」では多数のパートナーが連携し、地球的視点で包括的な取り組みが、必要であることが強調されました。

このような背景から、 WHO神戸センターは今年、様々なグローバルヘルスの課題について学び、議論する機会となる学生フォーラムを開催する運びとなりました。

パネルディスカッションにはグローバルヘルスの専門家が登壇予定で、ブレイクアウトセッション(視聴者参加型セッション)では10のテーマから健康課題について参加者と議論を深めます。健康問題に個々人が取り組むための第一歩となるような議論を皆さまと共に作り上げます。私たちの健康について一緒に考えてみませんか。

参加方法:事前にこちらのURLよりお申し込みください。

【フォーラム概要】

日時:2023年10月1日(日)13:00-16:10

プログラム内容の詳細はこちら

プログラム概要:

  1. キーノートスピーチ 「Health beyond borders」
  2. 分科会「Our Planet, Our Health〜地球的視野にたち、健康を捉える〜」
  3. パネルディスカッション「Empowering Youth Voices: Building a Healthier Future for All」

参加対象:日本国内の中高生(高専生含む)、大学生、大学院生

※1 基調講演とパネルディスカッションは上記の学生に限らず、一般のすべての方が視聴できます。

※2 教育関係者や一般の社会人等、学生以外の方で、他の学生と同様に分科会の議論に参加を希望される方については、個別にご相談ください。

締切り:2023年9月24日(日)正午

主催:WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)

共催:inochi WAKAZO project

Cover of HEDRM Guidance Japanese edition

災害対策と健康危機管理の研究手法に関するWHO初のガイダンスの日本語版完成

自然災害や感染症流行等をはじめとした健康危機においては、現場の救援ニーズへの対応に重きがおかれ、未来の対策に向けた情報収集や研究活動をどのようにして行うかという方法論が確立されていなかったことが長年の課題でした。

2021年、WHO神戸センターは、世界30か国164名の専門家と協力して、緊急事態や災害の発生時およびその前後に、どのように研究を計画、実施、報告するかという方法論に関する初のガイドブックとして、「災害・健康危機管理の研究手法に関するWHOガイダンス」を発行しました。7章44節で構成される本ガイダンスでは、日本の災害対策の歴史と経験を世界の対策の参考にするべく、阪神淡路大震災や東日本大震災の経験からうまれた医療、看護、公衆衛生等の取り組みも事例として取り上げています。

2022年には新型コロナウイルス感染症の流行下におけるガイダンスの適用についての章を追加した改訂版が発行されるとともに、この本ガイダンスの作成に翻訳し、国内での普及を促進するイニシアティブが発足しました。翻訳は、東北大学災害科学国際研究所をはじめとした国内の災害対策・健康危機管理研究を牽引する諸施設の29名の専門家と協力して行われました。

そしてこの度、本ガイダンスの日本語版が完成し、9月1日の「防災の日」に発行いたします。翻訳にご協力をいただいた日本の専門家の方々とも協力して、国内の研究教育機関や現場での普及を引き続き行っていきます。様々な機会にこのガイダンスが使用され、研究の質の向上、研究活動の発展に寄与するとともに、よりより防災の政策と事業の創出を促すことを祈念します。

日本語版のリンクはこちら(9月1日より閲覧可能)

WHO VN workshop

ベトナムの医療価格設定・規制と価格管理を支援するワークショップ

WHO神戸センター所長、サラ・ルイーズ・バーバーは、WHOベトナム事務所の招きで、834日にハノイで開催された「保健サービスの価格設定・規制と価格管理に関する国際経験の共有に関するワークショップ」に出席しました。会議には50名以上が参加、保健省副大臣とベトナム社会保障省副局長が議長を務めました。バーバー所長は、ソウル大学のスーンマン・クウォン教授、WHO西太平洋地域事務局のディン・ワン氏、オーストラリアのIndependent Health and Aged Care Pricing Authorityのキース・ファン・グー博士とともに、医療サービスの価格設定に関するWHO/OECD共同出版物の経験を発表しました。この会議は、アニー・チュー博士とティ・キム・フオン・グエン博士が中心となって開催され、ベトナムの病院の価格設定と支払い方法に関するロードマップについて議論するために開催されました。