2023-09-19

満たされていないヘルスケア・ニーズの測定は世界的なUHCモニタリングの向上に役立てる:BMJ誌に論文を発表

BMJ unmet needs study

健康と福祉に関する持続可能な開発目標(SDGs)における12のターゲットの1つであるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けて各国が取り組みを重ねる中、その進捗を効果的に追跡し、埋めるべきギャップを特定することは不可欠です。UHCを測定するSDG指標は2つ(保健医療サービスのカバレッジ、経済破綻をきたすレベルの医療費自己負担支出)ありますが、いずれも実際にケアを受けた人のみを対象とした指標であるため、満たされていないニーズ(アンメットニーズ)が捉えられません。受診を控えた人の割合とその理由に関する世界全体での標準化されたデータは、重要であるにもかかわらず存在していないのが現状です。この問題に取り組むため、WHO神戸センターは、未充足のヘルスケアニーズの研究を、特に高齢者を対象に実施してきました。

当センターのローゼンバーグ恵美技官とサラ・ルイーズ・バーバー所長は9月5日、当センター諮問委員のビロージ・タンチャロエンサティエン氏(タイ国際保健政策計画財団)、ならびにこの分野におけるWHO神戸センターの研究パートナーであるポール・コワル氏(オーストラリア国立大学)、ミサヌール・ラーマン氏(一橋大学・東京財団政策研究所)、岡本翔平氏(WHO本部保健制度ガバナンス・資金供給部門)と共著で、未充足のヘルスケアニーズに関する良質なデータがUHCの世界的なモニタリングの向上に役立てることを提唱する記事を世界4大医学雑誌の一つであるBMJ誌に発表しました。記事では、未充足のヘルスケアニーズについて世界的に合意された定義がない点が指摘されています。「未充足ニーズ」の定義が困難である理由の一つは、ケアを受けるかどうかに関しては、健康の社会的決定要因、個人の価値観、ヘルスリテラシー、その時点での症状など、多くの要因が影響するためです。未充足ニーズの定義が複雑であることにより、その測定も難しくなります。低中所得国では、既存の人口調査において未充足ニーズに関する質問がされていない傾向があり、特に測定が困難です。著者らは本記事で、未充足のヘルスケアニーズの定義およびニーズが満たされない理由に関して、世界的な基準を設ける必要があるとしています。それに加え、未充足のヘルスケアニーズを特定するための調査に用いる標準化された質問も必要であると述べています。個別の治療や疾患に限らず、すべての未充足のヘルスケアニーズを捉え、かつ必要とする医療へのアクセスを妨げている要因がわかるようなデータが必要です。これらのデータは、UHCの現行の指標では把握できない疾患や症状を抱える人々の状況を理解することを可能にし、UHC達成に向けた進捗のより正確な追跡に役立つと考えられます。

ヘルスケアにおけるアンメットニーズに関する当センターの研究の一部は、WHOと世界銀行が9月18日に発行した2023年UHCグローバル・モニタリング・レポートでも取り上げられています。これらの情報は、9月21日に米国ニューヨークで開催されるUHCに関する国連総会ハイレベル会合での議論に活用される予定です。2023年の第76回世界保健総会の決議で要請されたように、ヘルスケアにおける未充足ニーズを、UHC達成に向けた進捗モニタリングの指標に用いることの重要性と実現可能性を議論する好機となります。

当センターと著者らが実施した関連研究プロジェクトについては、下記をご参照ください。