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2022

高齢者のケアの費用は抑制できるのか

人口高齢化を議論する際、医療財政の持続可能性に関する課題に直面します。しかしながら、人口高齢化は保健医療費用を増大させる主な要因とはならないことが研究により明らかにされました。

2022 年1月25日、WHO神戸センターのサラ・ルイーズ・バーバー所長は欧州保健制度政策研究所が主催するウェビナーにモデレーターとして参加し、人口高齢化に伴う医療費の支出に関する政策の選択について議論を交わしました。特に保健医療サービスの提供方法、サービスの対価、医薬品と技術、ケアの量などが取り上げられました。

講演者としては、フィンランド社会福祉保健省のLiisa-Maria Voipio-Pulkki氏、ダブリン大学トリニティ・カレッジ(アイルランド)のBridget Johnston氏、欧州保健制度政策研究所(英国・ロンドン)のJonathan Cylus氏とGemma William氏が参加しました。

 

WHO神戸センターと欧州保健制度政策研究所による関連プロジェクトの概要はこちら

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第32回日本疫学会学術総会で講演

WHO神戸センターの茅野龍馬医官は2022年1月28日、第32回日本疫学会学術総会で講演を行いました。

 

茅野医官は、「災害疫学ー減災・レジリエンスの疫学 -災害・健康危機管理のエビデンス向上にむけたWHOの取り組み」をテーマにWHO神戸センターが事務局を務める災害・健康危機管理に関するグローバルリサーチネットワーク(Health EDRM RN)や昨年発行した「災害・健康危機管理の研究手法に関するWHOガイダンス」の今後の展望について話しました。

広島大学医学部 公衆衛生学講義で講演

2022年1月20日、WHO神戸センターの茅野龍馬医官が、広島大学医学部の公衆衛生学講義でオンライン授業を行いました。

 

茅野医官は、「グローバルヘルスとWHO-21世紀の保健課題とCOVID-19」というテーマで、新型コロナウイルス感染症による世界的なパンデミックへの対応を事例に用いながら、WHOの役割や機能について紹介しました。また、国際保健の主要な歴史と今後の展望について概説しました。

UHC global monitoring reports

UHCグローバル・モニタリング・レポート WHO神戸センターの研究を引用

昨年末にWHOと世界銀行によって発表された、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関する持続可能な開発目標(SDGs)の国際的な進捗を追跡するための2つのグローバル・レポートに、WHO神戸センターの複数の研究が取り上げられました。

WHO神戸センターでは、世界的に進む人口高齢化の影響を踏まえたUHC推進のために必要な保健医療制度の対応に関する研究を焦点の一つにしています。人々を医療費の負担から守る経済的保護はUHCの本質をなすものであり、サービス・カバレッジと併せて、保健医療制度で保障されるべきことの一つです。

WHO神戸センターはとりわけ、医療を必要とする人の年齢を考慮した解析がGlobal Monitoring Report on Financial Protection in Health(非公式訳:保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポート)に盛り込まれるよう提唱し、その結果、WHO神戸センターが行った保健医療が原因となる経済的困窮に関する世帯年齢構成別解析の研究成果をもとに、レポートの第1章第2節『誰が経済的困窮に陥っているのか。年齢に着目して』(17~21ページ)がまとめられました。

経済的保護の進捗を評価するためのSDGsの指標の一つは、家計を破綻させるような影響を与える保健医療費支出の割合に基づいており、これは世帯単位で推計されます。WHO神戸センターは、世帯の年齢構成を分析に加えることで高齢者にかかわる保健医療費を考慮する重要性を主張し、新たな解析手法を提案しました。それにより、初めてWHOと世界銀行によって、世帯の年齢構成別に経済的保護に関する指標が比較分析されました。

この解析の結果から、家計を破綻させるような保健医療費支出の割合は、60歳以上の高齢者が少なくとも1人いる世帯において最も高いことが初めて明らかにされました。

他にも、WHO神戸センターの3件の研究が囲み記事として、レポートの中で大きく取り上げられました。

またWHO神戸センターは、保健医療における人々の未充足のニーズ(アンメット・ニーズ)の課題に対する世界的な取り組みも推進しています。先のレポートと合わせて発表された、Tracking Universal Health Coverage: 2021 Global Monitoring Report (非公式訳:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの追跡:2021年グローバル・モニタリング・レポート)では、成人のアンメット・ニーズに関するWHO神戸センターの研究が取り上げられ、低中高所得国78カ国の家計調査の二次分析から得られた予備的知見が引用されました(13ページ、参考文献19)。具体的には、UHCのサービス・カバレッジ指標の数値が高い国では、アンメット・ニーズが低い傾向にあることが示されました。これは、サービス・カバレッジの改善がアンメット・ニーズの低減につながり、逆に、アンメット・ニーズへの対応がサービス・カバレッジの向上につながることを示唆しています。​

このようなグローバルな研究は、関西地域とも深い関わりがあります。WHO神戸センターはアンメット・ニーズに関する研究を続けていく中で、関西地域への研究成果の還元を視野に入れ、京都大学、大阪大学、甲南大学など地域の複数の研究機関と連携した研究も行なっていきます。現在は2件の研究が実施されており、ひとつは前述のレポートにも取り上げられた、既存の家計調査を用いた二次解析による、保健医療費の負担が原因となる高齢者の経済的困窮とアンメット・ニーズの調査です。もう1件は、医療ソーシャルワーカーなどから情報を収集し、ヘルスケアを必要とする高齢者に経済的保護・支援制度などを適用しようとする際に障壁となりうる要因を特定する研究です。両研究で得られる成果は、高齢者に必要なヘルスケア・サービスや経済的保護制度の改善に役立つだけでなく、医療費により経済的に困窮する関西地域の高齢者の負担軽減に向け、既存の制度や政策をより効果的に適用する方法について示唆も与えると考えられます。このような知見は、2023年に発行予定の次のUHCグローバル・モニタリング・レポートにも役立つことが期待されます。

第3回 WHO災害・健康危機管理に関するグローバルリサーチネットワーク代表者会議

2021年11月22日にWHO神戸センターが主催する、第3回WHO災害・健康危機管理に関するグローバルリサーチネットワーク代表者(コアグループ)会議がオンラインで開催されました。

WHO災害・健康危機管理に関するグローバルリサーチネットワーク (Health EDRM RN) の代表者らは、災害・健康危機管理分野の知識とエビデンスを高めることを目的に、リサーチネットワークの約款と実施計画を2018年に策定しました。以来、毎年代表者会議を開催し、研究の優先分野を特定やネットワークの貢献成果を発表するための国際的で学際的なプラットフォームとなっています。

コアグループは、世界をリードする研究者であるProfessor Emily Chan とProfessor Virginia Murray を共同議長とし、WHO本部、事務局を務めるWHO神戸センター、全地域事務局の専門家担当官合計14名から構成され、会議にはそれに加えて外部の主要な6名の災害・健康危機管理分野の専門家が参加しました。

今回の会議では、2022-2023年に災害・健康危機管理に関する研究の効果的実践のための4つの実施計画案が検討されました。

第一案は、国際的なステークホルダーを取り込んでのグローバル調査について、第二案は、WHO Health EDRMナレッジハブの構築とその内容、WHO 地域事務局と連携した各地域での普及方法についてです。第三案は、災害・健康危機管理のための研究手法に関するWHOガイダンスの、WHO地域事務局と連携した各国における普及方法を取り上げ、最後に、研究活動と政策や現場での実践をつなげるための手法や資源調達に関しての具体的な方策が検討されました。