UHCグローバル・モニタリング・レポート WHO神戸センターの研究を引用
昨年末にWHOと世界銀行によって発表された、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関する持続可能な開発目標(SDGs)の国際的な進捗を追跡するための2つのグローバル・レポートに、WHO神戸センターの複数の研究が取り上げられました。
WHO神戸センターでは、世界的に進む人口高齢化の影響を踏まえたUHC推進のために必要な保健医療制度の対応に関する研究を焦点の一つにしています。人々を医療費の負担から守る経済的保護はUHCの本質をなすものであり、サービス・カバレッジと併せて、保健医療制度で保障されるべきことの一つです。
WHO神戸センターはとりわけ、医療を必要とする人の年齢を考慮した解析がGlobal Monitoring Report on Financial Protection in Health(非公式訳:保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポート)に盛り込まれるよう提唱し、その結果、WHO神戸センターが行った保健医療が原因となる経済的困窮に関する世帯年齢構成別解析の研究成果をもとに、レポートの第1章第2節『誰が経済的困窮に陥っているのか。年齢に着目して』(17~21ページ)がまとめられました。
経済的保護の進捗を評価するためのSDGsの指標の一つは、家計を破綻させるような影響を与える保健医療費支出の割合に基づいており、これは世帯単位で推計されます。WHO神戸センターは、世帯の年齢構成を分析に加えることで高齢者にかかわる保健医療費を考慮する重要性を主張し、新たな解析手法を提案しました。それにより、初めてWHOと世界銀行によって、世帯の年齢構成別に経済的保護に関する指標が比較分析されました。
この解析の結果から、家計を破綻させるような保健医療費支出の割合は、60歳以上の高齢者が少なくとも1人いる世帯において最も高いことが初めて明らかにされました。
他にも、WHO神戸センターの3件の研究が囲み記事として、レポートの中で大きく取り上げられました。
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関西地域に有意義な、日本の高齢者にみる過剰な医療支出がもたらす経済的困窮および未充足のケアニーズに関する家計調査分析に基づく囲み記事「日本の高齢者世帯の保健医療費と未充足のニーズ」(21ページ、Box 5)
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システマティックレビューとメタ分析:保健医療サービスへのアクセスを妨げる経済的障壁とその結果としての未充足のヘルスケアニーズに基づく囲み記事「治療放棄とヘルスケア利用への経済的障壁:システマティックレビューおよびメタ分析」(27ページ、Box 8)
- ベトナムの高齢者に対する経済的保護に関する評価研究に基づく囲み記事「ベトナムの高齢者世帯における保健医療費の自己負担分の内訳と経済的な対処戦略」(49ページ、Box 11)
またWHO神戸センターは、保健医療における人々の未充足のニーズ(アンメット・ニーズ)の課題に対する世界的な取り組みも推進しています。先のレポートと合わせて発表された、Tracking Universal Health Coverage: 2021 Global Monitoring Report (非公式訳:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの追跡:2021年グローバル・モニタリング・レポート)では、成人のアンメット・ニーズに関するWHO神戸センターの研究が取り上げられ、低中高所得国78カ国の家計調査の二次分析から得られた予備的知見が引用されました(13ページ、参考文献19)。具体的には、UHCのサービス・カバレッジ指標の数値が高い国では、アンメット・ニーズが低い傾向にあることが示されました。これは、サービス・カバレッジの改善がアンメット・ニーズの低減につながり、逆に、アンメット・ニーズへの対応がサービス・カバレッジの向上につながることを示唆しています。
このようなグローバルな研究は、関西地域とも深い関わりがあります。WHO神戸センターはアンメット・ニーズに関する研究を続けていく中で、関西地域への研究成果の還元を視野に入れ、京都大学、大阪大学、甲南大学など地域の複数の研究機関と連携した研究も行なっていきます。現在は2件の研究が実施されており、ひとつは前述のレポートにも取り上げられた、既存の家計調査を用いた二次解析による、保健医療費の負担が原因となる高齢者の経済的困窮とアンメット・ニーズの調査です。もう1件は、医療ソーシャルワーカーなどから情報を収集し、ヘルスケアを必要とする高齢者に経済的保護・支援制度などを適用しようとする際に障壁となりうる要因を特定する研究です。両研究で得られる成果は、高齢者に必要なヘルスケア・サービスや経済的保護制度の改善に役立つだけでなく、医療費により経済的に困窮する関西地域の高齢者の負担軽減に向け、既存の制度や政策をより効果的に適用する方法について示唆も与えると考えられます。このような知見は、2023年に発行予定の次のUHCグローバル・モニタリング・レポートにも役立つことが期待されます。