ベトナムの高齢者に対する経済的保護に関する評価

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実施期間:

2019年7月~ 2022年9月

連携機関:

代表研究機関: 保健戦略政策研究所(ベトナム)
主導研究者: Tran Thi Mai Oanh(保健戦略政策研究所)

研究対象地域:

ベトナム

総予算:
US$ 60,000

背景

世界的に、自己負担が保健医療に与える影響に関する研究は、世帯の保健医療支出に関する国レベルのデータに基づいて実施される傾向にありますが、国レベルのデータでは、高齢者などのサブグループに見られる保健医療の利用や支出のばらつきが軽視されがちです。一般に、加齢にともなって、慢性疾患や複数の疾患を有する割合が増え、それにより保健医療も必要になることから、自己負担が高額になるリスクも高まります。

ベトナムでは急速に高齢化が進んでいます。複数の研究から、高齢者を抱える世帯は莫大な保健医療費に苦しむ可能性が高まると示唆されています。しかし、どのようなサービスに支出されているのか、またその医療費負担に対して各世帯がどのような財政的対策を講じているのかを調べるのに必要な保健医療費支出の内訳に関するデータが不足しているのが実情です。

目標

高齢人口を抱える世帯における保健医療費の内訳を調査すること、および、保健医療に関する既存の経済的保護政策において埋めるべきギャップを特定すること。

研究手法

  1. 既存の経済的保護政策に関する机上レビューと分析。
  2. 政策立案者、医療管理者、医療提供者、高齢者を対象とした20件の綿密な聞き取り調査および28件のフォーカスグループディスカッションにより、高齢者に適用される現行の経済的保護政策に関する理解を深め、解決策となり得る政策との間に考えられるギャップを特定する。
  3. ベトナム北部、中部、南部を代表する3つの省における、認知機能が良好な60歳以上の1,536人を対象とする医療費と関連要因についてのデータ収集を目的とした多段クラスター抽出法による世帯調査の実施。
  4. 高齢者の医療介護の利用パターン、高齢者ケアの自己負担(OOP)費用の内訳、医療費の自己負担による財政負担、および、財政的対処戦略を説明するための統計分析。
  5. グランデッド・セオリー・アプローチを用いた定性的データ分析。

研究結果

  • 文献レビューおよび政策立案者とのフォーカスグループディスカッションにより、既存の経済的保護政策に関する限界がいくつか特定されました。具体的には、社会扶助給付の水準や社会的ケアサービスの補償範囲が不十分であること、また、自営業者や低所得高齢者にみられる健康保険適用範囲のギャップがあげられます。
  • 聞き取り調査を行った1,536人のうち82.4%の高齢者が、過去4週間に、急性疾患、外傷、慢性疾患などの健康上の問題があったと報告しました。調査対象者が報告した疾患エピソード総数は2,355例でした。
  • サンプリングの対象となった高齢者のほぼすべて(95%)が健康保険に加入していました。これは国民全体の報告値(2019年:88.1%)を上回る結果を示しています。それにもかかわらず、健康障害の発症時には30%以上が受療せず、ひいては、セルフメディケーションのためのOOP支出をともなう結果となっています(保健医療必要者1人あたり月平均26.7米ドル)。受療した70%の高齢者のうち、93%は外来治療を受けていました。このうち60.4%がOOP支出をともなっていました(平均月額35.6米ドル)。外来治療でのOOP支出の大部分は医薬品に関連するものでした。
  • 受療した70%の対象者のうち、7%(n=115人)が入院治療を受けていました。そのほとんど(79.6%)がOOP支出を伴っており、保健医療ニーズのある1人あたりの平均月額は188.7米ドルに達し、高齢者のいる世帯の平均月収144.6米ドルを上回っていました1。入院治療のためのOOP支出は、主に、自己負担分、保険適用外の医薬品購入、また、地域により多少の違いはありますが、入院に伴う非医療費(交通費、食費など)に関連するものでした。
  • 過去12ヶ月間に、自宅または施設で介護サービスを利用したと報告した高齢者はわずか3.5%(n=55人)であり、そのほとんど(60%)がOOP支出を伴っていました(1人あたり平均月額95.2米ドル)。
  • 高齢者のいる調査対象世帯の約8.6%では、食費以外の支出の40%以上を、介護を含む保健医療のOOP支出に充てていました。このOOP支出のほとんどは、世帯の高齢者のケアに関するものでした。食費以外の支出の40%以上をOOP支出に費やす世帯の割合をみると、非感染性疾患を患う高齢者のいる世帯では、自己申告による健康な高齢者のみを含む世帯の3倍にのぼっていました。
  • 調査対象世帯の約12.2%では、高齢者のケアにかかるOOP支出をまかなうための財政的対策を必要としており、親戚や友人から資金を借り入れたり(31%)、個人や業者から融資を受けたり(25%)、財産を売却したり(4%)、その他、貯蓄を切り崩したり(39%)していました。

世界にとっての意義

脆弱なサブグループ(高齢者の年齢層別、慢性疾患別など)ごとに、保健医療の利用と支出に関するデータを分けることで、集団におけるOOP支出の要因を細かく把握できるようになり、これにより経済的保護政策に役立つ情報が得られます。世界的に、とりわけ急速に高齢化する人口を考慮すると、高齢者または慢性的なケアを必要とする人のいる世帯に対する政策と医療補助に関する分析は、保健医療関連の経済的保護の研究における優先事項であると考えられます。このような研究は、経済的保護の公平性の実現に向けて、適切な保健医療政策と介入プログラムを立案するのに役立つことが期待されます。

地元関西にとっての意義

保健医療や継続的なケアに対する支出に関する都道府県や市町村レベルのデータでは、高齢者のいる世帯がOOP支出によって経済的に困窮しているかどうかを判断するのに必要な情報は得られません。そのようなデータを得るには、特別な調査が必要となる場合があります。この種のデータは、保健医療の利用による経済的困窮の軽減、受診控えの改善に向けた政策の有効性を地域の高齢者集団で評価するのに役立つことが期待されます。必要とされるデータを得るために、WKCは、関西地域の高齢者における保健医療関連の経済的保護政策の確実な実現に向けた課題の把握を目的として、既存の国民世帯調査を解析し医療ソーシャルワーカーなどへの聞き取り調査を実施しています。

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1 OOP分布の分析では、他の高齢者の医療費と比較して治療費が高額すぎるために外れ値とみなす癌・手術の症例が除外されていることに注意。

 

 

 

出版物

Giang, N.H., Vinh, N.T., Phuong, H.T. et al. Household financial burden associated with healthcare for older people in Viet Nam: a cross-sectional survey. Health Res Policy Sys 20 (Suppl 1), 112 (2022). https://doi.org/10.1186/s12961-022-00913-3

研究結果の一部が 「保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポート2021」(英文のみ) (49頁、囲み11)に掲載 

テクニカルレポート(英語版のみ、下記よりPDFダウンロードが可能)

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