持続可能な資金調達

慢性疾患に対する質の高い保健医療サービスを強化するための購入手段

背景

非感染性疾患による若年死が世界的に大きな負担となっていることから、慢性疾患を持つ人々のケアの質を向上させることは、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)を推進する上で非常に重要です。

目標

慢性疾患を抱える患者に対するケアの質を向上させ、より良い健康効果をもたらすために、どのような慢性期のヘルスケアの購入の取り決めと支払い方式が使用されているか解説することを目的としました。

研究手法

  • 慢性期医療に対する支払い方式によるケアプロセスの質と健康効果への影響を特定するために、文献のスコーピングレビューを実施するとともに、既存のシステマティックレビュー論文を調査しました。

  • また、慢性期医療の質や成果に連動した支払い方式の実装に関する、オーストラリア、カナダ、チリ、中国、ドイツ、インドネシア、南アフリカ、スペインの各国における、合計8つの事例調査を行いました。

主な結果

  • 共通して見られた課題は、混合支払方式、つまり 2 つ以上の支払方式の組み合わせにおける、金銭的なインセンティブのバランスを保つことでした。

  • 医療ケアチーム間およびチーム内での成果報酬の配分決定に関する情報がほとんど公開されていないため、医療ケア提供者の間に報酬支払の不確実性が生じている可能性があります。

  • すべての研究において、ケアプロセスの質とアウトカム(成果)の両方の指標が用いられ、その評価には既存の管理システムによって収集されたデータが多く使用されていました。

  • 事例研究の対象となった8つの支払い方式のうち、第三者評価の結果が査読付き論文として公表されていたものは 2 つだけであり、これらの評価においてさえも、選択バイアスなどの重要な研究手法上の問題が見受けられました。 

  • 慢性期ケアの質の向上を目指す支払い方式の主な促進要因と阻害要因には、ガバナンス、サービス提供、ケアの質の基準、医療情報インフラストラクチャ、財政および法的規制などの要因が含まれます。

世界的的な示唆

慢性期ケアの支払い方式の設計と効果評価について過去の経験から学び、得られた教訓を他の様々な国の状況に体系的に適応させるかを検討する必要があります。特に多国間で、異なるステークホルダーも交えた場合、そのような 積極的な学習をするには時間と労力がかかりますが、設計上の間違いや実装の失敗を繰り返さないようにするためには、経験を共有することが不可欠です。

地元関西にとっての意義

ヘルスケア分野における成果連動型支払い方式の導入など、関西地域の関連する事業から得られた知見も、本調査結果に貴重な情報を与える可能性があると考えられます。  

継続的なケアのための資金調達

 

背景

アクセスの拡大と質の向上が求められる継続的なケア(LTC)に関するサービスは、経済的および社会的利益をもたらすことが見込まれる健全な公共投資の対象です。しかしながら、継続的なケアの資金調達には課題があります。高齢者が経済的困難に陥ることなく必要とするケアを受けられるようにするためには、各国がどのようにして継続的なケアのための資金調達制度を構築できるかをよりよく理解することが肝要です。

目標

人口の高齢化に関連した継続的なケアに関するWHO資金調達概要を作成する。

研究手法

継続的なケのためのWHO資金調達概要を作成するにあたり、エビデンスを収集するための研究が進められています。バックグラウンドペーパーとして以下のテーマごとに研究論文をとりまとめて発表する予定です:継続的なケアのための資金調達の観点からみるジェンダー公平性への影響; 継続的なケアのための財政と予算; 継続的なケアのための資金調達に対応するための重要政策と制度イニシアチブに関する迅速スコーピングレビュー; 継続的なケアのための資金調達における課題および低・中所得国への影響に関するレビュー。本研究には、高齢者のケアに関するアンメットニーズの定量化を目的としたWKCの先行研究も活用されます。
 

西太平洋地域における経済および保健医療財政に対する人口高齢化の影響について

背景

平均余命の伸びと出生率および死亡率の低下の結果として世界規模で人口高齢化が起こっています。

この人口高齢化による、経済、財政、社会の課題が提起されています。政策立案者は、人口高齢化が労働年齢人口の減少による経済成長の鈍化と、保健医療および社会福祉の需要の増加をもたらし、その介護需要を通じて、ケアシステムと高齢者の家族に財政的圧力をかけることを懸念しています。人口高齢化により予測されている結果のいくつかは、人々が年をとるにつれて、健康と生産性が必然的に低下するという仮定に基づいています。しかし、健康面、機能面における能力には多様性があります。さらに、政府は不利な結果を避けるための多くの政策ツールを持っています。

欧州保健制度政策観測所は、世界保健機関健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)およびWHO西太平洋地域事務局と協力し、西太平洋地域の一連の分析を実施しました。この地域には、世界で最も急速に高齢化が進んでいる国々が含まれ、世界の65歳以上の人口の3分の1以上を占めています。この数は2050年までに2倍になると予測されています。

それぞれ2種の研究について書かれた6か国のレポートは、西太平洋地域の多様な国々をカバーしています。

国ごとに書かれたレポートでは、労働年齢後期の人の健康を促進することが、経済にどのように貢献するかを調査しています。また、人口の年齢構成の変化が将来の保健医療費の支出パターンにどのように影響するかを考察しています。

目標

  1. 6か国(ベトナム、モンゴル、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランド)において、年齢と人口の構成が保健医療支出の傾向に与える影響について研究
  2. (同6か国において)人口高齢化による経済的な効果に、健康や障害などの要因がどのように影響するかについて研究

研究手法

  1. 6か国それぞれについて、国際連合が発表している人口データを使用して、将来の保健医療費増大に対し見込まれる高齢化の影響を数値化します。利用可能な場合は各国の実際のデータを用い、人口の年齢構造に応じて予想される保健医療費について各国ごとに考察します。
  2. 6か国について、それぞれ回帰分析を用いて、高齢者の健康および障害と経済的産出量、労働力参加やその他の指標との関連を推計します。この分析には国際労働機関(ILO)、保健指標・保健評価研究所(IHME)、世界銀行が公開しているデータを用います。統計モデルの分析結果をもとに、各国のデータやシナリオに適用し、国ごとに簡潔な報告書を作成します。

世界的な示唆

シミュレーションにより、労働年齢にある人々の健康の改善が、GDPの成長の増加につながる可能性があると予測されました。この結果は、複数の異なる国の状況でのシミュレーションにおいても認められました。本研究は、人々が健康を維持したまま年を取ることが可能であり、人々の健康的な高齢化が経済にも貢献できることを示しています。

地元関西にとっての意義

日本におけるエビデンスも同様に、健康な高齢化が経済成長を促進することを示しています。兵庫県、神戸市において現在取り組まれている健康な高齢化促進のためのイニシアチブは、地域経済に貢献する手段として、確かな根拠に基づいたものであると言えます。

人口高齢化に対応する持続可能な保健医療財政

背景

人口高齢化と高齢者にかかる保健医療費の増加により、政策立案者は高齢化がもたらす保健医療費の際限ない増加を懸念しています。人口高齢化は、保健医療財源を確保する国の能力に影響を及ぼし、いかに資金を調達するかが鍵となっています。WHO神戸センターは、欧州保健医療制度政策観測所と提携し、同観測所が発行する高齢化の経済学に関する論文集の一部として、年齢層の変化が保健医療費の動向と中長期的な保健医療費の調達能力に及ぼす影響について研究を行っています。

研究手法

欧州連合(EU)と日本、インドネシアのデータを使用して、所得税、物品サービス税、固定資産税、そして社会負担から保健医療財源を確保する能力に対して、高齢化が及ぼす影響についてのシミュレーションを行います。次に、EUのデータを使用して、年齢と人口予測による保健医療費用パターンの調査を行います。そして、高齢者に対するサービスの量、価格、強度と対象範囲の上昇をシミュレートする一連の仮定シナリオを構築します。

結果

現時点で比較的若年層が多く、急速に人口の年齢構成が変化しつつある国では、中長期的に見て全ての財源が大幅に増大する可能性があります。課題は、この可能性を活用するために徴税の仕組みを改善し、保健医療の優先順位を上げることです。年齢の高い層が大きな割合を占める国では、人口高齢化の結果として、労働市場と主に関連する社会負担からの収入が大幅に減少するものと予想されます。そしてまた、人口高齢化に起因する保健医療費の増大による追加的負担は、2060年までの一人当たりの年間増大の1%未満であることも分かりました。高齢者に対するサービスの量、価格、強度と対象範囲が増大するという最も極端な仮定シナリオにおいてさえ、EU諸国の保健医療費の伸びは、人口高齢化単独により予想される増大を0.85ポイント(%)上回るに過ぎず、この値は日本では1.0ポイント(%)、インドネシアでは1.67ポイント(%)です。

世界的な示唆

本研究により、保健医療財源の確保を労働市場と関連する社会負担と保険料によるものから移行することの重要性と、その結果として、保健医療を受ける資格と社会負担の支払いとを切り離すことの重要性が明らかになりました。人口高齢化そのものは、保健医療費用を増大させる主な要因とはならないと考えられます。どのようにサービスに財源が確保され提供されるのか、またはサービスと医薬品に対して支払われる価格、その対象範囲はどのように決定されるのかといった、政策の選定が主要な役割を果たします。

地元関西にとっての意義

高齢者に対するサービスの量、価格、強度と対象範囲が増大するという最も極端な仮定シナリオにおいてさえ、日本の保健医療費の伸びは、人口高齢化単独により予想される増大に比して1.0%上回るに過ぎません。本研究は、人口高齢化にともなう支出増加の主な決定要因は高齢化ではないことを示唆しています。 しかしながら、地域および地方自治体により実施される政策は、高齢者に対するケアの提供に必要な財源を支えながら支出増大に対処するために重要であるといえます。

高齢者の継続的なケアにおける価格設定

 

 

背景

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現は、高齢者の保健医療の権利の保障をも意味しています。経済的な意味でのアクセスの公平性は、保健医療を受ける権利を高齢者が確実に手にするために必要な要素です。前回実施した研究では、特に継続的で長期にわたる保健医療に関して、ほとんどの国で高齢者の公的負担へのアクセスが限られていることが明らかになりました。この場合、公的医療保険の財源と給付対象者への給付金を決定する評価法がとられています。一般的には、各高齢者の状況、身体機能、認知機能の総合的な状態に基づいて負担割合を調節することにより行われています。

研究手法

様々な保健医療制度、調達と価格設定と、幅広い政策目標を達成するための資金調達制度改善に向けた取り組みに関する、9ヶ国の事例研究が実施されました。各事例研究では、高齢者に対する施設ケア、在宅ケア、住居型ケア、介助について、その組織や対象範囲、財源、給付制度を明らかにしています。高齢者の継続的なケア関連のサービス提供者に対する価格設定や価格統制の対象も特定するものであり、これには、持続可能な財源確保、サービス提供者の利益の保証や、高齢者が利用出来る価格設定などの目的が含まれます。概要報告書では、高齢者のケアにおける価格設定や価格統制の「最適事例」をまとめ、各国にアクションを促すための政策に関する提言を行っています。

研究結果

レポートでは、継続的なケア(LTC)の財源確保と価格設定に関する事例研究から、特に低・中所得国における政策実行を促すための教訓を導き出し、次の要点にまとめました。

人口が高齢化し、介護のできる家族(多くは女性)が減っていることから、継続的なフォーマルケアの制度への公的な財源投資は重要です。

LTC制度の全体方針は、ケアがどのように編成され、その財源がどのように確保されるかに影響を与えます。

LTCに独自の財源を設けることは、その財源が他の目的に転用されないようにし、管理の透明性を高めるのに役立つ可能性がありますが、一方で、LTCと保健医療の財源を分けることで、保健医療と社会的ケアとの連携に問題が生じる可能性もあります。

LTCへの財源確保は、ニーズおよび提供されるケアと結びついたものである必要があります。研究対象の国々はいずれも、客観的なニーズ評価にもとづいて受給資格を決定し、価格および支払いの設定もヘルスケアおよび社会的ケアのニーズと結びつけて行っていました。

コスト管理が第一の目的となっていて、受給の要件が厳しい制度下では、未充足ニーズ、つまりケアを必要とする人がそれを受けられない状況が生じることがあります。したがって、必要とされるケアへのアクセスが確保できているかどうか、ニーズ評価システムをモニタリングする必要があります。同様に、利用者負担の仕組みも、それを適用した結果が利用減や未充足ニーズにつながっていないかという点について正式に評価する必要があります。

LTCの財源は、安定した確かな資源を基盤にして地域間格差を縮小する必要があります。

事業者への支払いに公平を期すために、価格調整と償還をより広く利用することが考えられます。

LTCの質の評価はさらなる政策形成を要する重要な領域であり、これも価格水準や支払いの仕組みと結びつけることができます。

世界的な示唆

継続的なケア(LTC)のための成熟した制度を備えている国から得られる教訓は、高齢者に対して適切かつ質の高い医療・社会的ケアの提供に関する課題に直面している低・中所得国にとって、非常に有用なリソースであると考えられます。 人口の高齢化にともなって見込まれるサービスの需要拡大、および、インフォーマルケアの提供者の減少傾向といった背景からも、公的LTCのための資金調達においては公の財源投資が重要であることが指摘されます。

地元関西にとっての意義

日本の事例研究では、LTCの制度設計における持続可能性の考慮の必要性をはじめ、サービスに関して求められる、受給要件のモニタリング、情報に基づいた選択の可能性、アクセスの公平性のモニタリングなど、他の国々にも有用な教訓が提供されています。

保健医療における価格設定とユニバーサル・ヘルス・カバレッジのための示唆

 

 

背景

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実施にあたって、誰を公益の対象とするのか、どのサービスを対象とするのか、いくら支出するべきかを政策立案者は決定しなければなりません。UHC実現に向けて財政支出が増加する中、財政支出に見合う価値はどれくらいか、人々のニーズに応えるためには資金提供やサービス編成をどのように決定すれば良いのかという点に、各国からの注目が集まっています。価格政策は、給付、医療提供者への支払い、保健医療の民間部門の資源の利用に関してどのように決定するかということと密接に関わっています。しかし、価格設定と価格交渉のプロセスについてはほとんど明らかにされていません。

研究手法                                                                                                                                                              

さまざまな保健医療制度、購入と価格設定の実践、幅広い政策目標達成のための資金調達メカニズム改善の取り組みに関して、9カ国の事例研究を委託実施しました。どのような状況にも対応できるような唯一のモデルというものは存在しないことを認識した上で、各国、特に低・中所得国におけるアクセスや導入しやすさを向上させ、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成に向けた国際公約の実現を支援するため、本研究は、最適事例を創出し、将来的な研究領域を特定することを目的としました。

結果                                                                                                                                                                 

価格計算の方法は、支出、量、アウトカムに関するデータ収集システムの能力に左右されます。価格統制、価格差別の回避、質向上に向けたインセンティブの付与という点で、片務的な価格方針の方が概して上手く機能しています。例えば、無計画な外来受診の繰り返し、入院、警鐘事象に関する費用の削減など、量の制御や質の改善を目的として価格設定は用いられています。地方や遠隔地の施設および低所得の患者や高額療養を要する患者を多数治療している施設のために価格を調整するなど、公衆衛生の幅広い目標を達成するためにも価格調整が行われています。

世界的な示唆

全体的な価格設定の枠組みには高い透明性が求められます。このプロセスを管理監督する第三者機関を設立している国も複数あります。また、データ・インフラストラクチャへの投資も極めて重要です。政策に役立つ情報を提供するためには、系統的な検証と評価の実施が不可欠です。他国から得られる教訓については、規制環境や制度面の能力など、各国独自の状況に応じた実現可能性に基づいた評価が必要になります。

地元関西にとっての意義

日本は医療費設定に豊富な経験を有しており、医療費の抑制にも成果を挙げています。 日本の事例研究では、医療サービスの価格設定の決定に関して、中所得国に有用な教訓が提供されています。