災害後の人々の健康維持・回復に向けた ケア戦略の開発

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実施期間:

2018年2月~2019年11月

連携機関:

代表研究機関: 兵庫県立大学
参加研究機関: 熊本大学
主導研究者: 山本 あい子(兵庫県立大学 地域ケア開発研究所)

研究対象地域:

日本

総予算:
US$ 80,000

背景

自然災害は大規模化し、かつ頻発に発生しており、災害への備えとして災害リスクとその影響の低減に関する検討が必要とされています。特に高齢者は、被災後、慢性疾患の悪化や心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病の合併など、身体的・精神的脆弱性を有します。また、医療および社会サービス提供者は、被災後の対応において高いストレス下での職務継続が求められるため、PTSDやうつ病の予防措置についての検討が必要です。

本研究事業は2つの研究により構成されており、日本国内で18万人以上が被災した2016年の熊本地震を背景に実施されました。 1つめの研究は、震源に近く最も深刻な被害を受けた地域のひとつであるX町において、高齢者のニーズおよび健康状態を特定することを目的として実施されました。 2つめの研究では、熊本地震で被災した医療および社会サービス提供者を対象に実施した2日間の療養プログラムの効果について評価しました。プログラムには、心理教育の介入、個人およびグループでのカウンセリング、心的外傷後ストレス障害(PTSD)とうつ病を予防するために設計された小グループの心理療法が盛り込まれました。

目標

  1. 2016年の熊本地震により被災した65歳以上の人々の健康状態、生活の質、介護の必要性、生活の変化について評価する。
  2. 災害の影響を受けた医療および社会サービス提供者を対象に治療的介入プログラムを実施し、その実現可能性、関連性、受容性、およびPTSDとうつ病の予防に対する効果を評価する。

研究手法

  1. 熊本地震の3年後、X町の65歳以上の全住民9,215人に調査票を送付し、災害の影響(例:家屋の被害、家計への影響、避難要件)、災害後の生活の変化(例:食習慣、日常活動、社会活動、災害前後の健康ニーズの変化(例:長期介護、短縮版のSF-8bによる健康関連の生活の質(HRQoL)の測定)など、社会人口統計学的特性に関する情報の収集。
  2. 医療および社会サービス提供者254人を対象とした2日間の治療プログラムの効果について、自己報告型アンケート(抑うつ状態自己評価尺度:CES-D、SF-8、トラウマ反応を評価する質問紙: a sheet of dynamic change for trauma response (DCTR))を用い、介入前、介入後1か月、3か月、6か月にわたり実施した調査に関する評価。

研究結果

合計3,692人の高齢被災者(対象参加者の40%)から調査票への回答が得られました。回答者の30%は、地震後に外出や社交の頻度が減少したと報告しています。地震の3年後には長期介護や支援の必要性が高まり、回答者の7%により必要な介護や支援についてレベルの低下が観察されています。また、回答者のHRQoLスコアは全国基準と比較して低く、身体機能では男性で48.2対49、女性で46.4対49.3、心の健康においては男性で49.3対51.3、女性で47.6対50.7という結果でした。

治療介入プログラムに参加した254人のうち、92.5%が看護師でした。調査開始時と介入後6か月の間に、PTSDのレベルは39%から19%に低下(p <0.01)、CES-D平均スコアは22.8から22.3に低下しました(p <0.05)。また、DCTRの平均スコアは8.3から-2.4に低下しました(p <0.01)。一方で、HRQoLの変化は統計的に有意ではありませんでした。平均的な身体機能スコアは43.5から41.1(p> 0.05)に減少しましたが、心の健康に関する平均的スコアは40.9から42.6(p> 0.05)に増加しました。

意義

熊本地震の高齢生存者のサンプルでは、HRQoLのレベルが低く、地震から3年後に介護や支援の必要性が高まったことが見て取れます。 PTSDを有する医療および社会サービス提供者の割合は介入後に半減しました。ただし、比較可能な対照グループに欠けることから、この治療的介入の有効性の評価には限界があると考えられます。

 

 

 

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