ラオス人民民主共和国における認知機能障害の有病率に関する評価

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実施期間:

2019年3月~ 2022年12月

連携機関:

代表研究機関: ラオス人民民主共和国保健省 ラオス熱帯医学・公衆衛生研究所(TPHI)
参加研究機関: ラオス保健省国家健康保険局、世界銀行、名古屋大学大学院医学系研究科
主導研究者: Sengchanh Kounnavong(Lao TPHI)

研究対象地域:

ラオス人民民主共和国

総予算:
US$ 65,000

 

背景

ラオス人民民主共和国における認知機能障害の有病率は明らかになっていません。ラオス熱帯医学・公衆衛生研究所(TPHI)は、ラオス語の認知機能評価ツール(改訂版長谷川式簡易知能評価スケール・HDS-R)の検証を実施しました。HDS-Rは、1974年に日本の医師 長谷川和夫氏により開発、1991年に改訂された認知機能の評価ツールで、日常の臨床現場で簡便に使えるスクリーニングツールとして日本で広く使用されています。 HDS-Rは、9項目の設問で構成されており、30点満点中、カットオフ値の20点以下は認知機能低下疑いと判定されます[1]。 HDS-Rのラオス語版は、ラオス人民民主共和国保健省下の国立公衆衛生研究所によって2017年に開発および検証が行われました[2]。このツールを用いて実施された調査により、認知機能障害の有病率、介護者が利用できるリソース、認知機能障害に対する地域の体制が把握され、エビデンスに基づく政策立案に役立てられています。

目標

ラオス人民民主共和国における、60歳以上の高齢者の認知機能障害の有病率、認知機能障害に付随するリスク、介護に利用できるリソース、および、認知症に対する地域の体制に関する状況を把握して、公衆衛生政策に役立てる。

研究手法

  1. 認知機能障害に関するコミュニティベースの分野横断的有病率調査は、ラオスの北部、中部、および南部地域の代表的な3つの州の6地区に居住する60歳超の成人を対象に実施されました。60〜98歳の合計2206人(男性1110人と女性1096人)が、ラオス語版HDS-R(事前研究で検証済)、および、非感染性疾患の危険因子調査を目的としたWHOステップワイズ・アプローチ(STEPS調査ツール)を用いた聞き取り調査の対象となりました。調整オッズ比(AOR)は、ロジスティック回帰モデルを使用して推定されました。
  2. 認知機能に低下が認められる人に対して利用可能な公的・非公的リソースに関する情報、ならびに、地域における認知機能低下の受け止め方についての情報を収集するために、各地域のリーダーを対象に聞き取り調査が実施されました。また、3州6地区の12の医療機関において、医療専門家(HCP)への聞き取り調査も行われました。リーダーシップグループ3団体(村長、ラオス女性組合、Lao front)の村落委員会メンバーを対象とした聞き取り調査は70の村で実施され、合計182名が参加しました。 定性的データは、帰納的主題分析アプローチにより解析されました。

研究結果

  • 回答者の49.3%(うち59.0%が女性)のHDSスコアは20以下でした。年齢に加え、次の要因と認知機能障害との間に有意な関連性が認められました:高等教育を受けていないこと(大学教育を受けた人と比して)(調整オッズ比= 9.5)、居住地域が北部であること(中央に対して)(AOR = 1.4)、 居住区が農村部であること(AOR = 1.5)、身の回りのことに支援を必要としていること(AOR = 1.8)、低体重(AOR = 1.5)。一方、認知機能障害がないことと関連していた要因として、10分から1時間の中程度の身体活動(AOR = 0.6)、および、1時間以上連続する強度の身体活動(AOR = 0.6)が認められました。
  • 聞き取り調査に参加したHCPのいずれもが、認知機能低下の評価経験を有していませんでした。 認知機能の低下は、大多数の家庭において加齢の正常な現象として認識されていることから、HCPの回答では、認知機能が低下している人々に対する権利擁護および社会の認識についての必要性が指摘されました。HCPからはまた、認知機能低下の簡易な評価ツールとフォローアップに役立つ信頼性が高くアクセスしやすいトレーニングの必要性も示されました。

世界的な示唆

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の段階的達成には、高齢化にともなって生じるニーズを支援するための保健医療制度の強化が必要です。高齢者に対しては、医療従事者も地域社会も、正常な加齢による物忘れと認知機能低下の違いを理解することが重要です。低・中所得国の限られたリソースを考慮すると、能力開発と啓発のための革新的なアプローチが求められています。リソースの限られた環境においても利用可能な簡便なツールを用いることで、短期間のトレーニングによって、一般市民、保健医療の専門家、政府関係者の意識を高めることが期待されます。

地元関西にとっての意義

関西地域では、神戸認知症研究が実施され、その中で認知機能低下の高リスク集団を特定する簡便なツールが用いられました [3]。このツールは、リソースの限られた環境でも適用可能であり、国民の認知機能低下の状況を把握する必要がある他国においても有用であると考えられます。

 

参考資料

  1. Imai Y., Hasegawa K. The revised Hasegawa’s Dementia Scale (HDS-R) – Evaluation of its usefulness as a screening test for dementia. J.H.K.C. Psych (1994) 4, SP2, 20-24. https://www.easap.asia/index.php/find-issues/past-issue/item/503-v4n2-9402-p20-24
  2. Kounnavong S., Soundavong K., et.al. Lao language version of the Revised Hasegawa’s Dementia Scale. Nagoya J. Med Sci. 79. 241-249, 2017. https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medlib/nagoya_j_med_sci/792/31_SengchanhKounnavong.pdf
  3. World Health Organization. “Managing people with cognitive decline: validation of a checklist; WHO Centre for Health Development.” WHO Centre for Health Development, https://extranet.who.int/kobe_centre/sites/default/files/Managing%20people%20with%20cognitive%20decline_validation%20of%20a%20checklist_27%20Sept_slb.pdf  

 

出版物

Kounnavong, S., Vonglokham, M., Sayasone, S. et al. Assessment of cognitive function among adults aged ≥ 60 years using the Revised Hasegawa Dementia Scale: cross-sectional study, Lao People's Democratic Republic. Health Res Policy Sys 20 (Suppl 1), 121 (2022). https://doi.org/10.1186/s12961-022-00919-x

 

会議発表:

Assessment of the cognitive function among adults over 60 years using the Revised Hasegawa’s Dementia Scale: A cross-sectional study in three regions of Lao People’s Democratic Republic. Kounnavong S. 10th Annual Conference of Japanese Society for Dementia Prevention, June 2021, Yokohama, Japan.

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