2023-05-12

世界各地の高齢者の満たされていないヘルスケアのニーズを把握する予測モデルの検討

older person in a care centre

人口高齢化が進むにつれて、高齢者の保健医療に対するニーズは複雑化しています。一方、多くの国ではそうしたニーズがすべて満たされているわけではなく、サービスが提供されていなかったり、アクセスしにくかったり、負担可能な価格ではなかったりします。高齢者の保健医療に対する未充足のニーズ(アンメットニーズ)を測定することは複雑で多面的な課題であり、標準化された定義も合意された測定方法もありません。ニーズが部分的に満たされている場合もあれば、困難や遅れがありながらも満たされる場合、また、満たされる時と満たされない時があるという場合もあります。保健医療と社会的ケアのサービスが提供され、アクセスできたとしても、それらが必ずしも患者の問題に適した方法で提供されていなかったり、患者が満足できるものでなかったりする場合もあります。既存の調査方法では、アンメットニーズを抱える人の把握や、ニーズが満たされていない理由の理解について、必ずしも正確に捉えられないのが現状です。

WHO神戸センターが支援する最近の研究では、統計的モデルを用いてこのような情報を把握し予測する方法について検討しました。

保健医療におけるアンメットニーズに関する既存の研究では、自己申告に基づいてアンメットニーズを測定することがほとんどです。しかし自己申告による調査だけでは、ニーズの認識やケア利用に対する意向など、バイアスをもたらす多くの要因に左右され、ケアを受けられなかった理由や、需要または供給に関する障壁、サービスカバレッジの改善方法について、詳しい情報が得られません。WHO神戸センターが以前支援した自己申告を用いた調査研究においても、明らかになったアンメットニーズの割合には非常に大きな幅がありました。

そのため本研究では、アンメットニーズの指標となり得る複数の変数からなる統計モデルを特定し、実際の発生率をより正確に予測することを目的としました。それには個人的要因(年齢、性別、教育レベル)、促進要因(社会的・経済的支援)、状況要因(保健医療制度や環境)などが含まれます。

この研究からは、個人的・社会的・状況的な要因が予想以上に強い影響力をもつため、普遍的に適用できるモデルの構築は困難であることが明らかになりました。アンメットニーズの発生率を測定する上で、特定の要因がもつ影響力が国によって大きく異なることが分かり、普遍的な測定方法を開発する妨げとなりました。一方で、高齢者の保健医療におけるアンメットニーズは、世界のほとんどの国で発生している主な課題であることに変わりはなく、アンメットニーズの一因となる各国や地域に固有の背景を理解するために、さらなる研究が必要です。

アンメットニーズに関する当センターの活動については、こちらをご覧ください。

ワーキングペーパー:低・中・高所得国における高齢者のアンメットニーズの測定:理論的・分析的なモデルの構築

本ワーキングペーパーの執筆者は次の通りです。
Barbara Corso、Kanya Anindya、Nawi Ng、Nadia Minicuci、Megumi Rosenberg、Paul Kowal、Julie Byles