2013-12-19

WKCフォーラムレポート:自殺予防と地域ぐるみのサポート

2012年、日本における自殺死亡の総数は15年ぶりに3万人を下回りましたが、世界的に見ても日本の自殺死亡は非常に多く、その数は日本における交通事故死の約6倍です。自殺には社会的・個人的要因が複雑に関係しますが、予防できる事を知ることが大切であり、予防には地域ぐるみでのサポート体制の構築が不可欠です。



WHO神戸センターは、2013年12月19日 神戸にて、公開フォーラム「自殺予防と地域ぐるみのサポート」を開催しました。フォーラムには一般市民、地方自治体関係者、医療従事者など40人余りが参加。自殺の現状や予防策について議論がなされました。

瀬戸屋雄太郎(WHOジュネーブ本部精神保健・薬物乱用部テクニカル・オフィサー)からは、自殺対策の世界的傾向と WHO「mhGAP介入ガイドライン」について報告がありました。自殺対策については世界中で関心が高まっており、2013年にはWHO総会において2020年までにWHO加盟各国の自殺率を10%減少することが合意され、2014年にはWHOとして初めての自殺に関するレポート「世界自殺レポート」が発表されます。自殺予防先進国である日本からの期待が高まっていることが報告されました。

竹島正先生(国立精神・神経医療研究センター・自殺予防総合対策センター長)からは、医師であり自殺対策の専門家である立場から、日本の自殺総合対策の基本的考え方や、セルフスティグマ(自らの固定観念や偏見)を克服するためのプロセスの重要性とそれを可能にする社会づくりについて発表がありました。高齢者の自殺率は減少しているものの若年者は増加していること、自傷または自殺未遂暦がもっとも大きな自殺危険因子であることが統計的に示されました。自殺予防とは自由を回復する支援であり、自殺者数の減少にはそのプロセスと多くの関係者による包括的な生きる支援が重要であることが指摘されました。



林康夫氏(兵庫県健康福祉部障害福祉局いのち対策室・室長)からは、行政担当者の立場から、兵庫県における自殺予防の取り組みについて発表がありました。兵庫県では、近年50歳代および60歳以上の自殺率は減少しているものの、20歳代そして40歳代の自殺率が増加している現状が報告されました。また、兵庫県自殺対策推進方策に基づき、年齢階層ごとの課題に応じた対策の展開、地域における気づき・見守り体制、そして遺された人への支援など「だれもが自殺に追い込まれることのない社会」の実現に向け兵庫県が実施している取り組みについて報告がありました。



正岡茂明氏(社会福祉法人 神戸いのちの電話・事務局長)からは、実際に命を絶とうとする人と向き合う民間団体の立場から、「いのちの電話」の活動報告に加え、神戸市における自殺予防の取り組みについての発表がありました。電話での相談の中で、自殺をほのめかす人や未遂暦がある人の割合が増えており、「いのちの電話」にかかってくる電話の件数は2010年ごろから横ばいであり減少していないこと、そして相談員の不足や育成の難しさ、守秘義務を守る一方民間団体でもあり財源の確保が課題である現状が報告されました。

パネルディスカッションや質疑応答では、「神戸G-Pネット」(かかりつけ医(一般医:G)と精神科医(専門医:P)との連携により自殺者数減少に寄与する包括的医療体制)など、具体的な地域での自殺予防・対応策についての活発な議論が行われました。議論を通じ、自殺という自ら命を絶とうとする事実に対する理解を深めていく必要性、自殺未遂暦はもっとも大きな危険因子であること、そして自殺者数の減少のためには医療関係者や警察の連携だけでなく、社会全体の様々なレベルでの連携あることが認識されました。

 

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