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Sub Title
日本老年学的評価研究から得た教訓
Number of pages
128
Publication Author
World Health Organization
Editors
Katsunori Kondo and Megumi Rosenberg
Publication date
Languages
English
Body

日本発のナレッジ・トランスレーションのモデル

ナレッジ・トランスレーション(KT)は、研究から得たエビデンスを解釈して実践へと応用するプロセスです。高齢化に対応する保健システムがエビデンスに基づき適切であることを確実にするためには、KTが不可欠です。健康開発および高齢化のどちらも進んだ段階にある先進国日本において、日本老年学的評価研究(JAGES)はKTのモデルになりえます。JAGESは、地域に暮らす65歳以上の高齢者を対象とした自記式郵送調査による社会疫学的な調査です。1999年以来、3~4年おきに調査が行われています。2016~17年に実施された最近の調査では、全国41市町村に住む約20万人の高齢者から回答を得ています。そのデータに基づく研究からは、ポピュレーションアプローチによって健康の社会的決定要因に取り組むことが高齢者における健康格差の是正や介護予防に効果的であることが分かっています。これらのエビデンスは国の介護政策の改正などに役立てられました。また、研究者グループは、政策や事業の実施に関する実装研究も行い、自治体の行政担当者と協働しながら研究から得られたデータやエビデンスを事業計画における優先順位付けや事業の開発・評価に応用しています。

JAGESのKTの原動力とは?

本書ではJAGESのKTを支える7つの促進要因を明らかにします。

  • 利害関係者と研究者間のWin-Win関係

  • 多部門にわたる活動

  • 行政データとの結合も可能な大規模な調査データから得られる質の高いエビデンス

  • 利害関係者と協働して地域に根差した知見や解決策を見出すためのコミュニティに根ざした参加型研究(CBPR)

  • 利害関係者によるエビデンスの活用を促すためのデータの「見える化」ツールやマネジメント支援ツールの開発

  • 多数のメディアを介したアドボカシー

  • 活動を持続可能なものにするための戦略的な資金調達

他の国がこの経験から学べることは?

本書では、高齢化と健康に関するKTを推進するにあたり、他の国でも適用が見込める複数の教訓を示しています。

  • 健康な高齢化に関するKTのための望ましい思潮や状況づくり:高齢者の暮らしの改善を目指すグローバルな推進力を活用する

  • 研究者と研究知見の利用者間の関係の構築:小さくはじめ、共通の関心を見出し、根気強く継続する

  • 質の高い縦断データの作成:地方の状況に調査方法を適応させつつ、国内や時間を超えた一貫性を保つ

  • 実用的な知見の創出: 改良可能な課題と見込みある介入点を特定する

  • 知見をユーザーの手元に: データの「見える化」ツールを活用し研究を戦略的に発信する

  • 長期のビジョンとコミットメントを掲げ、高齢化と健康のための研究とKTを強化する

要点

KTは長期的な展望なくしては実践できません。継続的な財政投資こそが、JAGESに不可欠な活動の一部であるKTの持続を可能にしています。世界的に健康な高齢化を促進し、UHCを実現するためには、質の高い保健情報システムの構築、地域の研究能力の強化、研究エビデンスの活用に関する政策決定者の意識向上、高齢化への保健システムの適応の必要性の擁護、そして研究者、政策決定者、市民との間の良好な関係作りなどに長期的な資金投入を行うことが重要です。

政策概要

 Advancing universal health coverage through knowledge translation for healthy ageing: lessons learnt from the Japan Gerontological Evaluation Study

 政策概要(日本語):研究を通じた健康な高齢化とユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進

プロジェクトページへのリンク

健康な高齢化に関する ナレッジ・トランスレーション: 日本老年学的評価研究(JAGES)

関連リンク

一般社団法人 日本老年学的評価研究機構ウェブサイト:WHOとの共同研究

ISBN
ISBN 978–92–4–151456–9