News Archive by Year

2023

older person in a care centre

世界各地の高齢者の満たされていないヘルスケアのニーズを把握する予測モデルの検討

人口高齢化が進むにつれて、高齢者の保健医療に対するニーズは複雑化しています。一方、多くの国ではそうしたニーズがすべて満たされているわけではなく、サービスが提供されていなかったり、アクセスしにくかったり、負担可能な価格ではなかったりします。高齢者の保健医療に対する未充足のニーズ(アンメットニーズ)を測定することは複雑で多面的な課題であり、標準化された定義も合意された測定方法もありません。ニーズが部分的に満たされている場合もあれば、困難や遅れがありながらも満たされる場合、また、満たされる時と満たされない時があるという場合もあります。保健医療と社会的ケアのサービスが提供され、アクセスできたとしても、それらが必ずしも患者の問題に適した方法で提供されていなかったり、患者が満足できるものでなかったりする場合もあります。既存の調査方法では、アンメットニーズを抱える人の把握や、ニーズが満たされていない理由の理解について、必ずしも正確に捉えられないのが現状です。

WHO神戸センターが支援する最近の研究では、統計的モデルを用いてこのような情報を把握し予測する方法について検討しました。

保健医療におけるアンメットニーズに関する既存の研究では、自己申告に基づいてアンメットニーズを測定することがほとんどです。しかし自己申告による調査だけでは、ニーズの認識やケア利用に対する意向など、バイアスをもたらす多くの要因に左右され、ケアを受けられなかった理由や、需要または供給に関する障壁、サービスカバレッジの改善方法について、詳しい情報が得られません。WHO神戸センターが以前支援した自己申告を用いた調査研究においても、明らかになったアンメットニーズの割合には非常に大きな幅がありました。

そのため本研究では、アンメットニーズの指標となり得る複数の変数からなる統計モデルを特定し、実際の発生率をより正確に予測することを目的としました。それには個人的要因(年齢、性別、教育レベル)、促進要因(社会的・経済的支援)、状況要因(保健医療制度や環境)などが含まれます。

この研究からは、個人的・社会的・状況的な要因が予想以上に強い影響力をもつため、普遍的に適用できるモデルの構築は困難であることが明らかになりました。アンメットニーズの発生率を測定する上で、特定の要因がもつ影響力が国によって大きく異なることが分かり、普遍的な測定方法を開発する妨げとなりました。一方で、高齢者の保健医療におけるアンメットニーズは、世界のほとんどの国で発生している主な課題であることに変わりはなく、アンメットニーズの一因となる各国や地域に固有の背景を理解するために、さらなる研究が必要です。

アンメットニーズに関する当センターの活動については、こちらをご覧ください。

ワーキングペーパー:低・中・高所得国における高齢者のアンメットニーズの測定:理論的・分析的なモデルの構築

本ワーキングペーパーの執筆者は次の通りです。
Barbara Corso、Kanya Anindya、Nawi Ng、Nadia Minicuci、Megumi Rosenberg、Paul Kowal、Julie Byles

「WKC サマースクール」参加者募集

兵庫県神戸市にあるWHO神戸センター(WKC)では、地元貢献事業の一環として、国際保健分野での活躍を志す学生への啓発・育成プログラムを毎年開催しています。

 

感染症、自然災害、紛争や政治的対立、経済格差など、国際社会が直面している課題は多岐にわたっています。このような地球規模の課題に取り組み、持続可能な社会を実現するために、私たちは何ができるでしょうか。

 

今回2度目の開催となる「WKCサマースクール」では、WHOや日本に拠点がある国連機関、行政・研究機関の職員との対話や参加者同士のディスカッションを通して、地球規模の健康課題を特定し、解決策の提案に向けて探究課題に取り組むことを目的とします。さらに、その成果を10月1日の「WKCフォーラム」にて発表していただきます。

サマースクールおよびフォーラムは基本的にオンライン開催となり、一部のプログラムは英語で実施する予定をしています。

 

【開催概要】

 

主催:WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター:WKC)

協力:inochi WAKAZO Project

日程:「WKCサマースクール」2023年9月11―22日および
            「WKCフォーラム」10月1日

実施場所:オンライン、WHO神戸センターオフィス、実地研修協力機関

プログラム内容:詳細についてはこちらの募集要項をご確認ください

参加対象:日本国内の高校生、大学生、大学院生(留学生を含む)

応募先: wkc@inochi-expo.comまでメールにてご応募ください
締切り:2023年7月31日(月)

HEDRM Guidance cover page image

災害・健康危機管理の研究実施に関するポッドキャストや動画を公開

「災害・健康危機管理の研究手法に関するWHOガイダンス」は、緊急事態や災害の発生時・発生後に行う研究の計画、実施、報告に関する包括的な手引きです。30カ国の160名を超えるエクスパートが執筆、編集に参加し、WHO初の災害・健康危機管理の研究手法に関するガイドブックとして2021年に出版されました。2022年には、新型コロナウイルス感染症に焦点を当てた研究の実施に関する章を追加し、改訂されました。

ガイダンスの内容をより広く知ってもらう活動の一環として、WHO神戸センターの茅野龍馬医官の主導のもと、災害関連医療情報プラットフォームを運営するEvidence Aidや各章の著者と協働し、全44章の各章に動画、ポッドキャスト、ウェビナーを含む複数の学習教材が作成されました。

一連の学習教材はこちらに掲載しています。

新たな研究結果:4人に1人の高齢者において介護や支援のニーズが満たされていない

世界中の高齢者が抱えるヘルスケアや社会的ケアのニーズは、現在の制度では十分に満たされておらず、ヘルスケアにおいては10人に1人、介護や支援を含む継続的なケアにおいては4人に1人が未充足のニーズ(アンメットニーズ)を抱えていることが新たな研究で明らかになり、学術ジャーナル『Health Economics Review』に掲載されました。

本研究は、WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)と一橋大学社会科学高等研究院の研究者が主導し、WHO本部 保健制度ガバナンス・資金供給部門との協働で行われました。

世界規模で高齢者を対象にヘルスケアと継続的なケアのアンメットニーズを分析した、初のシステマティックレビューとメタ分析である本研究では、国別および年齢層や性別などの個人属性別に高齢者が抱えるアンメットニーズの発生割合の統合推定値が算出され、高齢者におけるアンメットニーズの主な理由も明らかになりました。本研究では4種類の主要な文献データベースから、1996~2020年に出版された関連研究101件を抽出して分析の対象としました。

全体分析の結果、高齢者の10.4%が、ヘルスケアに対するアンメットニーズ(自己認識している健康上の問題に対する受診控え・放棄や受診の遅延、と定義)を報告しました。ヘルスケアのニーズが未充足である理由として多かったのは、医療費の負担、保健医療施設の不足、時間の不足、健康上の問題を深刻に捉えていないこと、医療提供者に対する不信感や恐怖心でした。特筆すべき点として、医療費に起因するアンメットニーズの発生率は男性より女性の方が高く、同様に、教育レベルが低い、収入が低い、無保険である、または主観的健康状態が悪い高齢者において、それぞれアンメットニーズの発生率が高くなりました。

継続的なケアのアンメットニーズ(日常生活機能に制約はあるが、身の周りの世話や介助を受けていないこと)の発生率はさらに高く、高齢者の4分の1において報告されました。都市部よりも農村部の居住者で、介護や支援におけるアンメットニーズが多く発生していました。

これらの知見は、ヘルスケアや介護福祉などの制度が高齢者の継続的なケアのニーズにどの程度応えられているのか、また、不足点が何であるかを理解する上で重要です。医療や継続的なケアを必要とする高齢者の数は、人口高齢化とともに世界全体で急増しており、医療費や介護費をすべての人にとって負担可能な水準にすることや、ケアサービスにアクセスするための地理的な障壁の解消、高齢者から見たサービスの受容性の向上が、アンメットニーズの解消には不可欠となるでしょう。

神戸大学医学部で講義

WHO神戸センターのローゼンバーグ恵美技官は、2023414日、神戸大学医学部の公衆衛生学の授業において、3年生を対象にオンライン講義を行いました。ローゼンバーグ技官は、「国際保健におけるWHOの役割とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)への取り組み」を主題に、新型コロナウイルス感染症パンデミックにおけるWHOの対応やUHCの推進に関して説明しました。さらに、WHO神戸センターの研究活動についても、研究成果をまじえつつ紹介し、講義を締めくくりました。

Director's portrait

2023年世界保健デーに寄せて WHO神戸センター所長メッセージ

毎年 4 月 7 日は世界保健デーです。この日は、健康がいかに大事かを思い起こさせるとともに、すべての人が健康を享受できるよう質の高い保健医療へのアクセスをどのように加速していけるかについて考える機会になっています。 

今年の世界保健デーは、世界保健機関(WHO)が創立75 周年を迎える特別な日でもあります。世界中で人々の寿命と生活の質が向上したことを振り返り、祝う機会となるでしょう。また、健康を脅かす緊急事態や感染症の流行、人口高齢化など、様々な状況の変化に対応できるように医療システムを改善する方法について考える機会にもなります。 

人口高齢化は特に差し迫った課題です。世界中で急速に進む高齢化はすべての国が経験することであり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を前進させる上で大きな影響を与えます。各国が急速な高齢化に直面する中、UHCに向けて前進する際のさまざまな課題を理解するためには研究が欠かせません。 

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)はUHCへの前進を加速させる取り組みの一環として、人口高齢化に伴う保健医療費とその財源の間のギャップに対して、特定の政策オプションがどのような影響を与えるかを推定するシミュレーターを開発しました。また神戸市と協力して、認知症を管理するための医療制度を改善する方法について研究を行いました。この研究で得られた知見は、同様の課題に直面している他の国にとっても重要です。 

さらにアジア太平洋諸国における人口高齢化に対応するための医療制度に関する複数の研究を支援し、そのうち10件の研究が学術誌の論文特集として最近発表されました。2023年後半には、高齢者のアンメットニーズ(健康や社会的ケアに関する満たされていないニーズ)の測定・評価の向上を目指すグローバルな研究コンソーシアムを立ち上げる予定です。 

当センターはまた、200名以上の専門家で構成されるWHO災害・健康危機管理研究ネットワークの事務局を務めており、健康に関する緊急事態への備えを強化するための保健医療制度に取り組んでいます。 

当センターはこのように、人口高齢化を踏まえた医療制度と健康危機に関する研究を行いエビデンスを集めることで、UHCに向けた前進を加速させる支援をしています。ドナーである神戸グループと、数々の研究パートナーのご支援とご協力のもと、私たちは引き続きこれらの研究を進めていきます。この75 年間にWHOが達成した成果を祝うとともに、今後の政策にとって有益な情報をこれからも提供し、世界中でUHCを促進していけるよう願っています。 

「第28回日本災害医学会総会・学術集会」に登壇

東日本大震災から12年目を迎えた2023年3月9 - 11日、岩手県盛岡市にて、28回日本災害医学会総会・学術集会が開催されました。2000人を超える参加者の中、「災害保健医療の過去、現在そして未来 “人材育成”~東日本大震災被災地からの発信~」をテーマに、過去の災害を振り返り、現在を確認し、未来はどうあるべきかが議論されました。

WHO神戸センターの茅野龍馬医官もパネルディスカッションに参加し、“災害対策と健康危機管理に関する人材育成におけるエビデンス:日本の知見と世界貢献”について発表しました。

第4回 WHO災害・健康危機管理に関するグローバルリサーチネットワーク代表者会議

20221027日、WHO神戸センターが主催する、第4回WHO災害・健康危機管理に関するグロバルリサーチネットワーク代表者(コアグループ)会議がオンラインで開催されました。

災害・健康危機管理分野の知識の向上とエビデンスの強化を目的に、2018年、WHO災害・健康危機管理に関するグローバルリサーチネットワーク(Health EDRM RN)が発足しました。発足以来、この代表者会議は毎年開催され、本領域の研究の方向性や主要テーマの更新などについて議論しています。

第4回会議には、リサーチネットワークの共同議長であるProfessor Emily Chan Professor Virginia Murray WHO本部、事務局を務めるWHO神戸センター、全地域事務局の専門家担当官、それに加えて外部の主要な災害・健康危機管理分野のエクスパートを含む計26名が参加しました。

今回の会議では、研究成果や知見をいかに政策や事業に反映するか、という点を中心に議論がなされ、2023-2024年の戦略として、① WHOの地域事務局や国事務所と連携して、「災害・健康危機管理の研究手法に関するWHOガイダンス」の効果的な普及をすること、② 政策や事業に科学的エビデンスを反映させる実装研究の拡充、③ 「災害・健康危機管理に関するWHOナレッジハブ」の立ち上げの3点について合意がなされました。

グローバルリサーチネットワークの事務局を務めるWHO神戸センターは、これらの実施計画案に沿って、Webinarや、新しいリサーチプロジェクトの開始など、さまざまな活動の企画を進めています。ミーティングレポートはこちらから。

「トルコ・シリア大地震への支援を考えるDRA緊急会議」に登壇

WHO神戸センターの茅野龍馬医官は3月9日、国際防災・人道支援協議会(Disaster Reduction Alliance: DRA)主催の「トルコ・シリア大地震への支援を考えるDRA緊急会議」に出席し、WHOの支援活動やWHO神戸センターの災害・健康危機管理への取り組みについて発表しました。緊急会議ではDRA関連機関の取り組みが共有されるとともに、茅野医官も参加したパネルディスカッションでは阪神淡路大震災からのひょうご・神戸の経験をいかにトルコ・シリア大地震の支援につなげるかについて議論されました。

会議の様子は、人と防災未来センターのホームページより映像をご確認いただけます。

Craft Art gift about WKC

諮問委員がWHO神戸センターの研究活動を讃えてアート作品を贈呈

WHO神戸センターの諮問委員を務めるViroj Tangcharoensathien氏が、25年以上にわたる当センターの研究活動を讃えてアート作品を贈呈されました。

職員一同、Tangcharoensathien氏のお心遣いに感謝申し上げます。