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新しいウェブサイトに移行しました!

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)は、2023年11月をもって新しいウェブサイトに移行しました。https://wkc.who.int/

こちらのウェブサイト(https://extranet.who.int/kobe_centre/ja)は今後更新されませんが、現在掲載されているコンテンツは2023年12月中旬まで閲覧可能です。

操作性が向上し新たな機能が追加された新ウェブサイトで、新たなコンテンツや情報をぜひご覧ください!

Director's portrait

2023年ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デーに寄せて WHO神戸センター所長のメッセージ

12月12日はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)デーです。WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)は、2023年9月21日にニューヨークで採択されたUHC政治宣言を受けて、世界各国がUHC達成に向けて決意を新たにしたことを心強く思います。

今年のテーマは「すべての人に健康を:今こそ行動を起こす時」。当センターは、持続可能な開発目標(SDGs)のすべての目標の達成において、UHCが要となると考えています。

UHCの進捗を測るためには、保健医療サービスのカバレッジと経済的保護という重要な2つの指標があります。特に高齢者のケアにおける満たされないニーズ(アンメットニーズ)に関するWHO神戸センターの研究は、WHOと世界銀行による「UHCグローバル・モニタリング・レポート2023」や、2023年9月に開催された国連総会ハイレベル会合での議論に活用されました。

UHCに向けた資金確保は、コストではなく投資です。例えば慢性疾患を抱える人に対するケアの質の向上は、予防可能な死亡の減少につながり、UHCを推進する上でも重要です。急速な人口高齢化を考慮すると、慢性期ケアの質の向上に対してインセンティブが与えられるように、ケアサービス提供者への支払い体系などを改正していく必要があります。

当センターはWHOの主要プロジェクトとして、WHO本部やOECDの研究者とともに「慢性疾患に対する質の高い保健医療サービスを強化するための購入手段」に関する研究を実施しました。この研究では、ケアサービス提供者に対する異なる種類の支払い方式が、慢性期ケアの質を向上させるインセンティブになるかどうかを調査しました。

支払い方法の効果に関する厳密な評価はまだ不十分ですが、8か国での事例調査(※1)では、医療情報システムとテクノロジー、強力なリーダーシップ、マルチステークホルダーの関与が、慢性期ケアの質の向上を促す要素であることが明らかになりました。このようなエビデンスは、保健医療サービスの提供モデル全体や、保健医療への支払い方法によってサービスの質の向上を図れる点について、より一層焦点をあてるべきであることを示しています。

今年のUHCデーに際し、2030年のUHC達成に向けて世界が前進しすべての人が健康を享受するためにも、各国のリーダーたちが保健医療に対してより賢明に投資するよう、世界中の人びととともに要請します。UHCへの投資不足は、計り知れないほど多くの損失につながるでしょう。

 

※1 質の高い慢性期ケアに向けた報酬設定に関する当センターの研究については、オーストラリアカナダチリ中国ドイツインドネシア南アフリカスペインの事例調査をご覧ください。

Archived Projects
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介護分野における外国人技能実習のための ICF(国際生活機能分類)を基盤とした 評価ツールの開発

背景

障害や慢性疾患を抱える人の増加にともない、良質で費用効率の高いサービスへのアクセスを確保するためには介護専門職の増員が必要です。東アジアにおいて既に深刻な介護労働者不足に直面するなか、日本では団塊の世代が75歳以上になる2025年までに、さらに38万人の介護労働者が必要になります。この需要拡大に対処するため、各国では外国人の医療労働者の採用数を増やしたり、実習を行ったりしています。例えば、カナダと米国では、介護に携わる労働人口全体のおよそ5分の1を外国人が占めています。

日本は経済連携プログラムの一環として、看護および介護に従事する外国人労働者をインドネシアやフィリピン、ベトナムから受け入れています。最近では、外国人技能実習制度を拡充して、日本の医療介護産業で働くことを希望する外国人医療介護労働者の実習を対象に加えるとともに、国際協力プログラムの一環として、日本の継続介護の分野での経験を諸外国に提供しています。医療介護に携わる外国人労働者の増加にともない、実習生に介護技能を効果的に移転する実習制度の確立が不可欠になっています。

目標

日本の外国人技能実習制度における介護技能の移転を評価するため、国際生活機能分類(ICF)に基づいた評価ツールを開発し、その有効性を立証する。

研究手法

新しい評価ツールは、現行の外国人技能実習制度評価ツールに基にICFを組み込んで構築され、看護師および医師からなる実務者委員会からの意見を取り入れて開発されました。

評価手段の包括性と運用管理に想定される課題を特定し、ツールを適切に修正するため、外国人技能実習制度の関連施設で予備テストを行いました。このツールにより収集された情報は、実習生の介護技能、被介護者に必要な介護、技能実習の背景、および雇用環境です。

実習後、介護技能を習得できたかどうかについては、指導員のサンプルごとに定性的に判定しました。さらに、定性的なフィードバックを得るため、施設管理者、指導員および外国人実習生を対象に半構造化面接を行いました。

研究結果

評価ツールは100か所の施設でフィールドテストを行い、外国人技能実習の指導員300人を対象としました。多くの指導員や職員からは、介護技能実習システムの4つの要素にまたがる38にわたる項目を用いることは困難であることが指摘され、評価ツールは最大でも25項目まで縮小すべきとの提言が得られました。参加者からは、ICFのコンセプトおよび介護能力の格付けとの関連性を明確にするためのガイドブックがあれば有用との提案がありました。さらに、実習生によって基本となる技能水準が異なるため、評価ツールはさまざまな基本水準から実習生の成長を測れるよう、微妙な差異への対応が求められることも分かりました。

意義

本プロジェクトでは、日本の外国人技能実習制度における介護技能の移転を評価するため、ICFに基づいた評価ツールを作成しました。この新ツールはWHOのICFを基に組み立てているため、他国、特に外国人の医療介護労働者の雇用を検討している国においての活用が見込まれます。この研究の成果は、高齢者介護の必要性、また、外国人労働力へのさらなる依存が予測されるなか、急速な人口の高齢化が進む国々においてはとりわけ広く影響を与えることが期待されます。

日本の長寿者に学ぶ支援機器の利活用

 

背景

世界では10億を超える人々が支援機器(AT)を必要としています。ATは「ローテク」から「ハイテク」まで幅広い機器で構成されます。例えば、補聴器、眼鏡、歩行器、車椅子、コミュニケーション補助機器、記憶を補助する機器、補装具などがありますが、これらに限りません。ATを利用できる人の割合は非常に限定的で、全世界でみると10人中1人程度です。高齢者は慢性疾患の罹患率が高く、また加齢によるフレイル(虚弱)や障害も多いことから、福祉用具や補助器具を最も必要とする年齢層です。しかし、長寿者を対象としたAT利用者のデータや利用ATの種類、さらにAT利用者の経験に関する研究は限られています。世界有数の超高齢社会である日本は、このような研究ギャップに取り組むうえで他に類を見ない状況にあるといえます。

目標

日本の地域社会に居住する長寿者を対象とし、AT利用者の年齢、最も一般的に利用されているATの種類、さらにはAT利用者の経験の観点から、ATの利用状況に関する分析結果をまとめる。

研究手法

本研究は分野横断型、手法混在型です。定量的研究として郵送による予備調査を行い、その後、構造化質問紙を用いた面接による詳細な調査を行いました。参加者は、柏90スタディとSONICスタディ(70代、80代、90代の高齢者の調査を100歳以上の高齢者の調査と並行して行う健康長寿研究)という2つの調査からサンプリングしました。柏90スタディは、本研究プロジェクトが新しく始めたコホート研究で、千葉県柏市在住の90歳以上の高齢者を対象にしています。SONICスタディは2010年6月の開始後現在も進行中の前向きコホート研究で、関西地域(兵庫県伊丹市および朝来市)と関東地域(東京都板橋区および西多摩地区)で調査を行っています。収集データは、参加者の人口特性、健康状態、身体状況、認知機能および運動機能、心の健康、その他の関連情報です。定性的研究では、AT利用者の経験に関する半構造化面接を基にした綿密な聞き取り調査を行います。

研究成果

分析の対象とした郵送調査のサンプルは、柏90スタディとSONICスタディ合わせて2,477人の参加者からなります。参加者の年齢は88歳から106歳までで、そのうち100歳以上は2.1%でした。大半(98.7%)は何らかの種類のATを利用しており、機器の複数利用はきわめて一般的でした。参加者の約79%は3つ以上のATを利用していると回答し、また5つ以上のATを利用していると回答した参加者の割合は44.8%でした。最も一般的に用いられているATは、入れ歯(76.7%)、眼鏡等の装着型の視力関連機器(72.0%)、手すり(51.4%)、つえ(47.6%)などでした。インタビューから得られた定性的なデータ(94歳から100歳までの男性1人と女性4人)では、ATの利用は地域社会に居住する長寿者にとって、日常生活の動作に著しく有益な効果をもたらしていることが明らかになりました。

意義

本研究では、複数のAT利用が広く普及していることが示され、日本の地域社会に居住する長寿者が最も一般的に利用しているATに関する分析結果が得られました。この情報は、長寿者のニーズに合ったATの設計および処方に役立つことが期待されます。本研究プロジェクトの重要な成果は、新しい研究コホートである柏90スタディを立ち上げたことです。これは、日本の長寿者を対象としたATおよびその他の加齢に関連する課題について、今後の研究のデータソースになり得るでしょう。