News Archive by Year

2014

多部門連携による保健事業 (ISA)

多部門連携による保健事業(ISA)は、生活の質を向上させるための公共政策を立案、実行する際、保健関連部門だけでなく複数の部門と連携して行うことを言います。ISAを推進するためにWHO神戸センター(WKC)は『多部門連携による保健事業―政策立案者のための効果的かつ持続可能な保健事業の実践への道』(仮訳)と題した手引書を2011年に作成し、具体的な事例も研究報告書にまとめています。現在は、この手引書の改訂に取り組み中です。

2014年5月にWHO神戸センターは兵庫県神戸市にて専門家会議を開催し、既存の手引書についての総合的な検討と評価を行い、手引書の改訂に関する提言をまとめました。この会議の報告書は、最近の多部門連携による保健事業(ISA)のグローバルな展開およびISAの実践例、そして手引書の改訂のための提言について強調しています。

更にWKCは、地方自治体におけるISAの事例研究に関する新たな論文および報告書を発表しました。事例研究の結果からは、地方自治体がISAを実践し、よりよい健康アウトカムを達成するために役立つ、共通の課題や成功要因についての洞察が得られます。

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WHO西太平洋地域の6カ国における高齢者のための医療・補助機器のニーズに関する調査研究

WHO神戸センターは、WHO西太平洋地域の6カ国(中国、日本、マレーシア、フィリピン、韓国、ベトナム)を対象に実施された高齢者のための医療・補助機器のニーズに関する調査結果について、報告書を作成しました。

医療技術におけるイノベーションは、関連する保健・社会制度とともに、ますます多くの高齢者が直面しつつある身体・認知機能の低下を抑制し管理するための、また、介護施設への長期間の収容を減らすための重要な優先課題となっています。

本報告書では、調査結果から得られた情報をもとに、高齢者のための優先度の高い医療・補助機器を特定し、利用可能性を左右する要因を把握し、また、高所得国、低・中所得国の双方においてより良質な機器を手頃な価格で入手できるようにするための実施可能な方策を提案しています。

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WKCフォーラムレポート「高齢者のためのイノベーション ~アドヒアランス向上のために: 薬剤治療と食事療法~」

10月1日は、国連の定める 国際高齢者デー (International Day of Older Persons) です。この日を記念して、WHO神戸センター (WKC) は、2014年10月1日 神戸にて、公開フォーラム「高齢者のためのイノベーション ~アドヒアランス向上のために: 薬剤治療と食事療法~」を開催しました。フォーラムには、約60名が出席、高齢患者の服薬アドヒアランス向上のために現在取り組まれている最新のイノベーションについて、また、高齢者の暮らしに役立つ栄養知識についての発表・討議に参加しました。

人口に占める高齢者の割合は、世界的に急激な増加の一途をたどっています。このような人口転換に伴い、疾病構造の変化(疫学的転換)もみとめられています。世界的にみて、非感染性疾患が主な死亡原因となり、また、非感染性疾患に起因する障害の割合は障害全体の50%にも上っています。この傾向がきわめて顕著な日本は、世界で最も高齢化の進んだ国であると同時に、非感染性疾患が死亡原因の80%近くを占める現状を抱えています。

長生きをすれば、私たちの多くは薬剤や栄養による療法を必要とする状況に直面するでしょう。従来、医療における患者の療養行動は、「医療者からの指示に患者がどの程度忠実に従うか」 というコンプライアンス概念のもと、受身の立場で評価されてきました。しかし、治療の過程では、服薬、食生活の改善、生活習慣の修正など、患者と医療者が相互に合意した治療方針に患者自身が主体的に参加する必要性が重視されるようになってきました。この概念をアドヒアランスと呼びます。

加齢に伴う健康課題の多くについては予防や管理が可能です。そのためには、老化による認知や機能の低下、また、健康や生活の質の維持を目的とした療法にいくつも取り組まなければならないなど、高齢者が日々直面する問題にうまく対処することが肝要です。アドヒアランスは、治療を成功に導く第一の決定要因です。アドヒアランスが不十分であれば、治療効果を最大限に引き出すことは難しく、ひいては、医療制度における全般的な有効性を引き下げることにもつながります。

加齢とともに、栄養必要量は変化していきます。同時に、健康問題や複数の薬剤服用による副作用、生活様式の変化、知識不足などが原因で、必要な栄養摂取が損なわれることも考えられます。食習慣や服薬におけるアドヒアランスは、健康な高齢化のための大切なポイントとして、健康状態の改善に深く結びついています。

今回のフォーラムでは、老年学、薬学、栄養学の分野から4 名の専門家を迎え、高齢者の健康に寄与するアドヒアランス向上についての講演、ならびに、参加者からの質疑に応じる形式での活発な討議を展開しました。

神戸大学名誉教授の小田先生は、社会学的、老年学的見地からアドヒアランスの概念の定義に焦点を当て、日本の高齢者に求められている役割の変化について解説しました。横浜薬科大学教授の定本先生は、服薬アドヒアランスのモニタリングについて、具体的なイノベーションの例を取り上げて発表、最新の研究成果を報告しました。名古屋学芸大学教授の下方先生からは、高齢者の栄養摂取状況の把握とその改善に関する長期縦断調査の結果から、高齢者の健康と幸福の向上のためには、食習慣の見直しと改善が重要であるとの指摘がありました。京都大学の木村先生は、国内外で広く展開中の地域に暮らす高齢者の健康状態や食事摂取状況を包括的にとらえることを目的とした「フィールド医学」の調査研究から、高齢者の食事において食の多様性が乏しくなってきている現状、ならびに、その影響が慢性疾患を抱えた高齢者にもたらす課題について講演しました。

講演に続いてのオープン・ディスカッションでは、会場の参加者からの活発な質疑を受けながら、小田先生が進行を務め、今回フォーラムのトピックとなった、高齢者の服薬アドヒアランスと栄養摂取についての討議が行われました。アドヒアランスの向上を目指すには、また、現在、そして今後の高齢者ニーズによりよく対応するためには、医師、看護師、薬剤師、栄養士、また、コミュニティーサポートなど、医療関係者間の協働・協力を着実に進展させることが急務であるとの結論に至りました。

プログラム・講演者略歴

プレゼンテーション

WHO自殺に関する報告書「自殺を予防する:世界の優先課題」

毎年、世界では80万人が自殺により死亡しています。これは、40秒ごとにひとりが亡くなっている計算となります。これらは、防ぐことができる死です。
WHOが初めて発表した自殺に関する報告書「自殺を予防する:世界の優先課題」では、世界における自殺の現状、自殺のリスクにさらされているグループ、そして社会及び個人レベルで自殺による死亡者を減らすために何ができるのかが報告されています。

メディア

その他の情報

「WHOグローバルフォーラム: 高齢者のためのイノベーション」 レポート

2013年、WHO神戸センター はリソースの限られた状況にある高齢者のニーズに応えるために、フルーガル・イノベーションを用いた対応策について協議し、幅広い関係者との情報・意見交換を行う「グローバルフォーラム: 高齢者のためのイノベーション」を開催しました。2013年12月10日~12日、神戸市内で開催された本フォーラムには、21カ国から170人を超える参加者が出席し、活発な討議が展開されました。

議論内容:「 高齢者のための技術的・社会的イノベーション、実践例からの教訓、保健制度の研究に冠する意見交換」「成功事例からの知見や解決策ならびにイノベーションの向上について」「高齢者のためのイノベーションを支援する上での主要な優先課題」など。

本レポートはグローバルフォーラムでのプレゼンテーションや討議、結論をまとめたものです。

「WHOグローバルフォーラム: 高齢者のためのイノベーション」 レポート(英語版)

都市部における健康の公平性評価・対応ツール(アーバンハート)の改訂

世界の都市人口は2000年に比べ10億人以上増加しています。この増加のうちの9割は開発途上国で進行しました。2050年までには約64億人が都市部に居住し、そのうち約20億人がスラムに居住すると予測されています。都市部では、富や健康、資源へのアクセスにおける不公平が引き続き重要課題となります。

今日までWHO神戸センターは、『都市部における健康の公平性評価・対応ツール(アーバンハート)』の実用化のために世界40カ国の都市と協力してきました。またアーバンハートの実用化事例の記録も進め、2014年にはそれらをもとにした二つの論文を発表しました。

現在、WHO神戸センターはアーバンハートを実施した各都市のフィードバック、専門家からの提言および第三者評価をもとにしたアーバンハートの改訂に取り組んでいます。そのために、WHO神戸センターは、これまで何らかの形でアーバンハートを使用したことのある人や団体からの意見や提言を募っています。

Urban HEART in the Americas(英語版)

WKCフォーラム「高齢者のためのイノベーション ~アドヒアランス向上のために: 薬剤治療と食事療法~ 」

10月1日は、国連の定める 国際高齢者デー(International Day of Older Persons)です。この日を記念して、WHO神戸センター(WKC)は、2014年10月1日(水) 神戸にて、公開フォーラム「高齢者のためのイノベーション ~アドヒアランス向上のために: 薬剤治療と食事療法~」を開催します。

人口に占める高齢者の割合は、世界的に急激な増加の一途をたどっています。現在、ほとんどの国で、最も急速な増加がみられる人口区分は80歳以上の高齢者層です。今後40年のうちに、高齢者人口は現状のほぼ3倍に拡大すると予測されており、この現象の大部分は開発途上国に集中するとみられています。このような人口転換に伴って疾病構造の変化(疫学的転換)もみとめられています。世界的にみて、非感染性疾患が主な死亡原因となり、また、非感染性疾患に起因する障害の割合は障害全体の50%にも上っています。この傾向がきわめて顕著な日本は、世界で最も高齢化の進んだ国であると同時に、非感染性疾患が死亡原因の80%近くを占める現状を抱えています。

従来、医療における患者の療養行動は、「医療者からの指示に患者がどの程度忠実に従うか」というコンプライアンス概念のもと、受身の立場で評価されてきました。しかし、治療の過程では、服薬、食生活の改善、生活習慣の修正など、患者と医療者が相互に合意した治療方針に患者自身が主体的に参加する必要性が重視されるようになってきました。この概念をアドヒアランスと呼びます。

加齢に伴う健康課題の多くについては予防や管理が可能です。そのためには、老化による認知や機能の低下、また、健康や生活の質の維持を目的とした療法にいくつも取り組まなければならないなど、高齢者が日々直面する問題にうまく対処することが肝要です。アドヒアランスは、治療を成功に導く第一の決定要因です。アドヒアランスが不十分であれば、治療効果を最大限に引き出すことは難しく、ひいては、医療制度における全般的な有効性を引き下げることにもつながります。

加齢とともに、栄養必要量は変化していきます。同時に、健康問題や複数の薬剤服用による副作用、生活様式の変化、知識不足などが原因で、必要な栄養摂取が損なわれることも考えられます。食習慣や服薬におけるアドヒアランスは、健康な高齢化のための大切なポイントとして、健康状態の改善に深く結びつています。

今回のフォーラムでは、老年学、薬学、栄養学の分野から4 名の専門家を迎え、高齢者の健康に寄与するアドヒアランス向上についての講演、ならびに、参加者からの質疑に応じる形式での活発な討議を展開します。

開催日時・場所:

2014年10月1日(水)14:00~16:00

WHO神戸センター

プログラム:

(言語:日本語)

14:00~14:05 開会の辞

14:05~15:20 講演

15:20~15:55 討議(オープンディスカッション)

15:55~16:00 閉会の辞

講演者: (登壇順・敬称略)

「服薬と栄養についてのアドヒアランス: 健康で幸せな高齢期のために」

神戸大学 小田利勝 名誉教授

北海道大学文学部、同大学院文学研究科で社会学を専攻。北海道大学助手、徳島大学助教授、教授を経て1996 年神戸大学教授、2007 年神戸大学大学院教授、2013 年3 月定年退職。学術博士(1987 年、北海道大学)。保健医療行動や病気を抱えた家族の生活過程、地域の保健医療システム、個人や組織の国内外での災害対応行動、マレーシアの農村開発、高齢者問題や少子・高齢化問題など、人間と社会をめぐる種々の問題に関して社会学や社会心理学、地域計画学の観点から幅広く研究してきた。近年では、主にサクセスフル・エイジングの研究を進めており、現在は、少子高齢・人口減少社会におけるサクセスフル・エイジングの実現には老年学的想像力の発揮が必要であるという認識に基づいて研究を進めている。



『かつて高齢者は、「役割なき役割」の中に閉じ込められていて、果たすべき重要な役割を持たない、と言われたことがあります。しかし、少子・高齢化が進行する日本において、今日およびこれからの高齢者には多大な役割を果たすことが期待されています。それらの役割の中には、労働力として、また消費人口として経済を支える役割や一大勢力を形成するようになった有権者として政治に果たす役割、そして、何よりもできる限り長期にわたって自立生活が可能なように健康を維持する役割が期待されています。栄養摂取や服薬は、そのための基本的手段ですが、服薬が必要になったときには、病人に期待される役割が生じます。アドヒアランスとは、社会学的に言えば、期待される病人の役割を遂行することです。講演では、幸せな高齢期の生活すなわちサクセスフル・エイジングの実現へ向けたアドヒアランスや栄養摂取について、社会学や老年学の理論から話題を提供します。』

 

「高齢者の服薬をモニタリングする新たなツール: 日本における臨床研究」

横浜薬科大学 臨床薬学科 薬理学研究室 定本清美 教授

 東邦大学医学部卒。リウマチ学を専攻、医学博士(東邦大学)。専門は、内科リウマチ・膠原病学、臨床薬学。東邦大学、東海大学にて臨床リウマチ学を研究。英国・バーミンガム大学では社会科学修士を取得、リサーチフェローとして関節リウマチの臨床にも従事。英国より帰国の後、東邦大学医学部にて病院管理にも携わる。薬学分野では、東邦大学での研究・教育活動の後、2013年より横浜薬科大学にて現職。東邦大学在籍時に着手した患者の服薬を容易にするためのユニバーサルデザイン包装などの臨床薬学における研究は、関節リウマチ患者や障害者、高齢者の負担軽減にも関連づけた成果が期待されている。



『医療においては様々な治療が施行されますが、薬物治療はどんな場合でも根幹となる重要なものです。薬物治療を受ける機会が多い高齢者にとって、薬を正しくまた無駄なく服用することは、個人の治療効果の向上に必要なばかりでなく、医療経済的な意味においても重要であるといえます。共同開発した服薬をモニタリングするツールを用いて、服薬についての臨床研究を行った背景や結果、今後の展開の可能性などについて述べたいと思います。』

 

「日本人高齢者の栄養と健康維持」

名古屋学芸大学大学院 栄養科学研究科 下方浩史 教授

1977年名古屋大学医学部卒。1982年名古屋大学大学院博士課程満了(第3内科)。名古屋大学医学部老年科に医員として入局。1986年~1990年米国国立老化研究所(NIA)へ客員研究員として留学。1990年広島大学助教授、1996年国立長寿医療センター研究所疫学研究部長、2010年予防開発部長を経て、2013年より現職。2014年からは名古屋学芸大学健康・栄養研究所所長を兼務。厚生労働省の長寿科学総合研究、認知症対策総合研究などの主任研究者として長寿、老化に関する疫学的研究を行っており、栄養や運動などの生活習慣が老化や老年病に及ぼす影響を解明して、健康長寿を達成するための方法論の確立を目指している。



『健康長寿を目指すには食生活の改善が有用です。現代社会ではメタボリックシンドロームと老年病が大きな問題になっています。肥満は多くの疾病の原因ではありますが、75歳以上の後期高齢者ではむしろ栄養不足への対策が重要です。栄養は高齢者の健康維持の鍵となっています。しかし、食生活と疾病との関係には個人差が強く現れます。今後は個人差に注目した疾病予防が重要な時代となるでしょう。』

 

「高齢期に適切な食事摂取とは」

京都大学東南アジア研究所 日本学術振興会特別研究員 木村友美

2007年奈良女子大学食物栄養学科卒。2009年京都大学医学研究科社会健康医学系専攻専門職学位過程修了、2012年同専攻博士課程修了、博士号(社会健康医学)取得。2011年より、WHO神戸センターの研究プロジェクトに参加し、「都市化と健康」に関するデータベースの構築、日本の介護予防事業や健康寿命についての研究に携わった。2014年より、日本学術振興会の特別研究員として京都大学東南アジア研究所に勤務。地域に暮らす高齢者の健康状態や食事摂取状況を包括的にとらえる「フィールド医学」調査を行っている。高齢者の健康と食に関する科学的エビデンスを蓄積し、「食からの介護予防」を目指している。



『「バラエティ豊かな食事を」とは、厚生労働省の提示する食事指針にも記されている標語ですが、多様な食品の摂取が健康長寿に寄与することは、実際に世界の様々な研究で報告されています。しかしながら、加齢とともに、食の多様性は乏しくなると言われており、その要因は、加齢に伴う運動量の低下、消化機能や咀嚼能力の低下など、複合的で多岐にわたります。また、高齢になると、様々な慢性疾患を複数かかえているという人が珍しくないため、そのような疾患に配慮した食事摂取も必要になってきます。食は単に栄養素の摂取だけでなく、日常のなかでの楽しみや人との交流に関わる重要な側面をもち、心理的な健康度に関与します。高齢者の虚弱を防ぎ、心身ともに健康な状態を維持するための食事摂取について、これまでのフィールド調査や世界の研究報告から考察します。』

 

詳しくはこちら:フォーラム開催のご案内・参加申し込み方法

参加費無料

事前申し込み締め切り:

2014年9月26日 (金)

IFA第12回高齢化に関する世界会議 2014年6月10日~13日 インド・ハイデラバード

2014年6月10日~13日、インド・ハイデラバードにて、世界高齢者団体連盟(IFA) が「健康・保障・コミュニティー」をテーマに、第12回目を数える世界会議を開催しました。

49カ国から300名余りが参加した会議では、高齢者の権利、非感染性疾患、加齢に伴う障害、介護の質とその基準、所得保障、労働参加、高齢者にやさしい都市・コミュニティー、介護におけるイノベーションなど、関連する議題についての討議、ならびに、取り組むべき課題に対しての提言が行われました。

会期中の6月12日、WHO神戸センターは、「高齢者のためのイノベーション推進:アジア8カ国ににおける高齢者のための医療・補助機器のニーズに関するWHO委託研究の結果から」と題し、シンポジウムを主催しました。

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WKCフォーラムレポート「高齢者のためのイノベーション ~加齢に伴う虚弱や障害に対処するために~」

WHO神戸センター(WKC)は、2014年6月24日 神戸にて、公開フォーラム「高齢者のためのイノベーション ~加齢に伴う虚弱や障害に対処するために~」を開催しました。今回のフォーラムには、医療従事者、産業界、研究・学術界、地方自治体などから76名が参加しました。



WHO 本部 障害とリハビリテーション のテクニカルオフィサーを務めるチャパル・カスナビスは、「高齢者のためのイノベーティブな福祉機器 ~加齢による虚弱や障害に対処するために: 概要」について発表し、年齢への配慮ができる知識豊かなサービス提供者の必要性に言及するとともに、アシスティブ・ヘルス・プロダクツ(健康を支える福祉用具・生活支援用具)は、1) コミュニティーに身近かで利用しやすく、2) 費用を誰が負担するかにかかわらず、手頃な価格で入手可能、かつ、究極的には長寿で健康な実りある生活に寄与すべきであると述べました。高齢者が直面する課題に対処するためには、誰もがアクセス可能な医療・技術・社会的イノベーションの融和による総合的な解決策が求められているとして講演を締めくくりました。

国際義肢装具協会(ISPO)日本支部 会長 陳隆明先生は、「高齢下肢切断者の義足歩行」について講演、近年、世界的に増加している高齢者人口における下肢切断の原因が、動脈硬化や糖尿病による末梢循環障害によって二次的に起こる重症下肢虚血によるものであると発表しました。陳先生は、兵庫県社会福祉事業団 福祉のまちづくり研究所所長、兵庫県立リハビリテーション中央病院 ロボットリハビリテーションセンター長も務めらておられます。日本では、現在年間4000人のペースで高齢下肢大切断の症例が報告されている現状から、今後の課題として下肢大切断における膝温存率の向上、ならびに、大切断後のリハビリ成功率向上の必要性に言及。また、高齢下肢切断者が義足で歩くために必要な事項として、以下の4点をあげました:1) 歩きたいという強い意志、2) 義足を自己装着できること、すなわち、十分な上肢機能があること、3) 立位を保持できること、4) ある程度歩行できる体力があること。

「切断者こそわが師、地域が教科書」と感慨深く語った 兵庫県立リハビリテーシヨン中央病院 名誉院長 澤村 誠志先生は、「日本の義肢装具教育の沿革: 地域社会に根ざしたリハビリテーション実践の経験から」と題して講演。50年前の日本には、義肢装具に関する教育や義肢装具サービスの向上に関する医学的な組織的活動は皆無であったことを報告しました。事実、当時は義肢装具にかかわる部局を有する医療機関はほとんど存在しませんでしが、兵庫県では身体障害者のための巡回移動相談を実施、リハビリテーションサービスの提供に努めました。巡回のための自宅訪問を重ねる中から、欧米流の義肢装具の手技は、履物を脱ぐ、畳に座るなどといった日本独特の生活様式には適さないことが判明、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)という概念が生まれました。1968年神戸において澤村先生の主導により義肢装具研究同好会が発足、以来、関連する医療従事者のための資格研修プログラムの開発など、学術的、また制度上の動きが自治体、国、そして国際レベルで展開されました。澤村先生は発表のまとめにあたり、いかなる理由によっても誰も排除されることなく、コミュニティー全体が互いに協力して発展を目指す、「地域に根ざしたインクルーシブ(包括的)な開発 (CBID)」こそが肝要であると述べました。

熊本総合医療リハビリテーション学院 義肢装具学科 学科長 小峯敏文先生は、義肢の採寸から適合までを担う「人と機械を融合する専門職」としての義肢装具士について、その基本的な役割を説明、「日本の義肢装具教育: 福祉用具学導入とその背景」について発表しました。義肢装具士養成の課程は、医学・工学・社会学などの諸領域における多角的な視野を備えながら義肢装具学を修めることを旨とします。2014年4月現在、日本における義肢装具士国家試験の合格者数は4470名。身体に障害を抱えて暮らす人々の数が増加の一途をたどる現状(2012年には約390万人)から、また、65歳以上がその63%を占めるという実情から、今後はさらに、高齢者のニーズに即し、車いすなどの福祉機器の適切な活用と適合(車いすの場合は、使用者の座位をきちんと適合させるなど)の向上が継続的に必要であると述べました。

講演に続いて行われたオープン・ディスカッションでは、陳先生がモデレーターを務め、包括的な開発、チームアプローチ、健康保険、保健・医療に関する研究など、具体的な項目について討議が行われました。パネリストからは、以下の点についての認識と周知が必要であるとの指摘がありました:1) CBIDに関する事例やモデル(例: 福島におけるプロジェクト)、2) 年齢に配慮のある学際的なチームアプローチの運用(例: 義肢装具士、作業療法士、理学療法士の協働)により、老若の別によらずどの患者にとっても確かな効果をもたらす取り組み、3) 福祉用具・生活支援用具を国の健康保険・保障制度の枠に含める保健システム(例: フィリピンにおける現行のイニシアチブや2000年に施行された日本の介護保険)、4) 使用者としての高齢者自身の意向や好み、また、福祉用具・生活支援用具の恩恵を取り込んだ、実証に基づいた研究、遡及的かつ先見的な研究。

フォーラムの閉会にあたっては、WHO神戸センター協力委員会の支援、ならびに、ISPO日本支部、兵庫県社会福祉事業団 福祉のまちづくり研究所両機関からの協力に対し謝意が述べられました。

プログラム・講演者

プレゼンテーション

  • 「高齢下肢切断者の義足歩行」

    国際義肢装具協会 (ISPO) 日本支部 会長 兵庫県社会福祉事業団 福祉のまちづくり研究所 所長

    兵庫県立リハビリテーション中央病院 ロボットリハビリテーションセンター長 陳 隆明

第7回世界都市フォーラム(The 7th Session of the World Urban Forum – WUF)

WHO神戸センターは、コロンビアのメデジン市にて、2014年4月4日から11日に開催された、第7回世界都市フォーラム(The 7th Session of the World Urban Forum – WUF)において、以下の2つのトピックについてネットワーキングイベントを主催しました。

1. ポスト2015年開発アジェンダにおける健康の公平性と持続可能な都市開発― 世界保健機関(WHO)・国際連合人間居住計画(UNハビタット)共同レポート 第2版
2. 健康と公平性に配慮した多部門連携による都市計画

また、WHO神戸センターは、展示ブースにてセンターの活動について紹介しました。

世界都市フォーラムは、UNハビタットの主催で2年毎に開催される国際フォーラムで、急速な都市化が都市やコミュニティー、経済、気候変動、政策などに与える影響をはじめとする、人間居住に関する差し迫った国際課題について議論がされます。WHO神戸センターは2010年よりUNハビタットと協同し、都市問題についての共通課題に取り組んでいます。

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