News Archive by Year

2019

WKC、阪神淡路大震災25年記念 兵庫県立大学フォーラムで発表

2019年12月12日、兵庫県公館にて、阪神淡路大震災25年記念事業、兵庫県立大学フォーラム『人を守る減災の科学』が開催されました。WKCの茅野龍馬医官は、招待講演として、WHOの災害・健康危機管理に関する事業、同領域でWKCが行う研究事業を紹介し、地元ひょうご・神戸と日本・世界をつなぐ研究事業の展望について発表しました。

JAGESを応用した国際研究の成果発表

日本老年学的評価研究(JAGES)の手法や教訓をもとに、中所得国における健康な高齢化や健康の公平性に向けて行われている研究の初期分析結果が、今月上旬に第34回日本国際保健医療学会にて発表されました。

WKCが助成する本研究では、高齢者の健康、機能、健康格差の測定に関わるJAGESの調査手法を、今後急速な高齢化が予測されているマレーシアおよびミャンマーにおける研究に応用しています。

ミャンマーでの調査の結果、60歳以上地域在住高齢者において54%が高血圧を示し、うち37%は医療機関での診断歴がなかったことが分かりました。これはミャンマーの高齢者における保健医療サービスへのアクセスやUHCの課題に強い示唆を与える結果です。

また、ミャンマーにおける都市部と農村部では、農村部でうつリスクが高い傾向があり、これは地域間の教育や経済の格差によるものと考えられます。別の分析では、身体的障がいがあることは高齢であることと生活のゆとりがないこと、および社会的サポートが少ないことと関連しました。さらに、健康で社会経済的地位が高いことに加え、社会参加している高齢者は幸福度が高いことが分かり、とくに都市部では社会的サポート、農村部では社会的結束が高いほど高齢者の幸福度が高いことが判明しました。

JAGESは地域在住高齢者に関する縦断調査としては日本最大級であり、高齢者の健康や健康格差の決定要因を解明することを目的としています。JAGESは市町村や中央政府と効果的に連携することで、科学的研究とそこから得られた知見の政策や事業への転換の促進を図ります。高齢者の健康の要因を特定し、それにもとづいた公衆衛生戦略も示すことで、国や自治体に高齢者の健康に有益な政策や取り組みを促してきたJAGESの発展過程とそこから得られた教訓をWKCはこれまでにもまとめています。

 

WHO健康開発総合研究センター所長からのメッセージ:2019年ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デーに寄せて

2019年9月23日にニューヨークで開催された国連総会で、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ政治宣言に全加盟国が合意し、世界中の人たちが経済的な困難を伴うことなく必要な保健サービスを享受できるようにするという断固たる政治的決意を表明しました。

政治的決意を固めた政策立案者が今問いかけているのが、この決意をどのように実現していくかということです。これはもっともな問いと言えます。神戸にあるWHO健康開発総合研究センター(WKC)では、この問いの答えを模索し、必要な改革を決定していかなければならない各国を支援する研究を進めています。このような研究は、人口の高齢化等大きな動きに対応しなければならない時に特に重要となります。保健制度を継続的に見直し、人々のニーズに応えていくためです。

WKCの研究は、高齢化と持続可能な医療財政との折り合いをどのようにつけるか等の、政策立案者にとって非常に厄介な問題を対象としています。最近の研究では価格設定と価格規制を取り上げ、すべての人びとがより健康であるために、限られたリソースで保健医療の質と財政保護をどのように改善していくのかを調査しました。調査結果は、所得のレベルに関わらずあらゆる国々で活用できるものとなっています。

世界的な人口高齢化の中でユニバーサル・ヘルス・カバレッジを達成するためには、高齢者のニーズや権利を中心に据えた包括的なサービスが手頃な価格で入手できることが必要です。これを踏まえ、WKCと共同研究者が現在取り組んでいるのがユニバーサル・ヘルス・カバレッジの進捗を監視する新たなモデルの開発で、必須保健サービス、財政保護、そして高齢者の効果的なカバレッジを対象としています。

保健制度への投資はより健康な世界への投資であるのみならず、より安全な世界への投資でもあります。WKCでは災害・健康危機管理の分野で新たに立ち上がったグローバルネットワークで中心的な役割を果たしていますが、このネットワークの目的は証拠基盤の改善を目指した世界的な動きを促進することで、これにより各国は何が有効かという証拠に基づいて政策を決定することができます。

このたびのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デーにあたり、WKCは人々が健康を享受する権利を擁護したいと思います。健康は貴重で、人間の尊厳の土台をなすものです。私たちはユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成、そしてすべての人びとが公平かつ容易に手頃な価格の保健医療サービスを享受できるよう各国を支援し続けていく所存です。

大阪医科大学で国際保健分野におけるWHOの役割とWKCの研究課題について講義

2019年11月18日、ローゼンバーグ恵美技官は、大阪医科大学(高槻市) を訪れ、医学部医学科第一学年の医学心理学・行動科学の授業において、国際保健分野におけるWHOの役割について講義をしました。同学科の社会・行動科学教室教授本庄かおり先生のご依頼でこの講義をするのは昨年に続き今回で2回目になります。WHO組織全般についての説明をはじめ、国際保健規則やたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約など、WHOの活動の具体例を示し、国際保健についての基礎知識について話しました。また、WHO神戸センターで取り組む高齢化とユニバーサルヘルスカバレッジの課題も紹介しました。

「開発する望みのない国における高齢化対策はどうしたらよいのでしょうか?」という学生の質問に対し、ローゼンバーグ技官は、「開発する望みのない国はありませんが、政治の腐敗や度重なる内戦や災害によって開発が遅々として進まない国は多くあります。ある程度開発が進まないと乳幼児死亡率は下がらず、寿命も延びず、人口全体の高齢化は進ません。ただ数は少なくても高齢者はどの国にもいて、高齢者のニーズに合った保健医療サービスが必要とされます。それを確実に提供するためには各国の状況に合わせた対策が必要となります。」と答えました。最後には、このような問題意識の高い医学生が将来国際保健分野で活躍することへの期待を述べました。

第23回WKC諮問委員会(ACWKC)

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター/WKC)は、2019年11月7〜8日に年次諮問委員会(ACWKC)を開催しました。ACWKCは、WHO事務局長によって任命された6つの地域を代表するメンバー、ホスト国政府、ドナーグループ、および地域社会より構成されています。井戸敏三兵庫県知事より、諮問委員と神戸グループ(兵庫県、神戸市、神戸製鋼、神戸商工会議所)に歓迎のご挨拶を頂戴しました。今回の諮問委員会より、新しいメンバーとして、日本政府を代表し佐原康之氏、欧州地域を代表しリス・ワーグナー氏に参加頂いています。議長は東地中海地域を代表するマーゲッド・エルシェルビニ委員が務め、アメリカ地域を代表するデイビッド・リンドマン委員が書記を務めました。また、ドナーグループを代表する兵庫県副知事の金澤和夫委員、西太平洋地域を代表するビロージ・タンチャロエンサティエン委員、地域コミュニティを代表する内布敦子委員にも出席頂きました。会議では、WKCが提示した研究内容とこれからの活動の方向性について、洞察に満ちた意見、評価、詳細な提言が示されました。https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/advisory-committee

姫路大学学生への講義:WKCで国際保健と災害医療について学ぶ

2019年11月13日、姫路大学の看護学生8名が教員2名と共にセンターを訪問し、茅野龍馬医官よりグローバルヘルスと災害・健康危機管理に関する講義を受けました。学生たちは積極的に講義に参加し、国際保健の歴史と展望、その中における災害・健康危機管理の重要性と昨今の国際的な動向について学びました。また、災害医療に関しては、WHO神戸センターが阪神淡路大震災の復興のシンボルとして設立されたこと、その後の活動が世界的な動向とも協調する形で昇華し、「災害・健康危機管理に関するWHOグローバルリサーチネットワーク」の設立を含む、地元と世界をつなぐプロジェクトにつながったことなども紹介されました。茅野龍馬医官は「グローバルヘルスの発展には皆さんお一人お一人のご協力が必要です。大学の勉強とともに、国際保健分野への挑戦も考慮して様々な経験をしていただきたいと思います。」と述べました。

WKC in London

WHO神戸センターと英国の協力機関がユニバーサルヘルスカバレッジ促進に向けての研究について討議(ロンドン)

WHO神戸センター(WKC)のポール・オン技官はロンドンを訪れ、英国の一連の協力機関と会合を開き、人口高齢化に照らしたユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)の実現に向けた、保健医療サービスの提供、資金調達と革新に関するWKCの研究について討議しました。

ヘルプエイジ・インターナショナル(ロンドン事務局)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、キングス・カレッジ・ロンドン、欧州保健制度政策研究所、英国国際長寿センターにてセミナーを開催し、UHC実現に向けてのWKCの研究課題に関して説明すると共に、人口の高齢化がUHCに与える影響について、活発な議論が行われました。人口の高齢化が進む中、また感染性疾患と母子保健医療サービスにおいて顕著な改善が実現され寿命が延び非感染性疾患が増加する中、どのようにして中・低所得国が保健医療制度の拡充を着実に進めて行けるのかについて検討されました。さらに、慢性進行性疾患を患う高齢者に対する複数の分野にまたがる継続的なケアシステムを構築するにあたっての課題について、WKCが進める研究「サービスと生活の質とが最適されることを目指したサービス提供モデル」に基づき検討されました。

UHCと人口高齢化に関するWKCの研究についてのこの討議の機会は高く評価され、参加者はWHOが進めているUHC実現に向けた取り組みと価値を再認識し、次のように述べました。「UHCへの取り組みは、高齢者への対策や、高齢者や他の年齢層にまで影響が考えられる疾患の対策のために実現すべき事柄の、長いリストを作るだけではありません。UHCは、価値に基づきエビデンスに裏付けされた、保健医療制度全体への考察とアプローチが必要で、かつ慎重な政策の選択、政治的意志と推進力が一体になって実現されるものであることが、初めて分かりました。

人口高齢化が保健医療財源および保健医療費に与える影響が新たな研究で明らかに

ウェブサイト掲載用記事:1017

WHO神戸センター(WKC)と欧州保健制度政策研究所は、保健医療にかかる公的財源および支出に人口高齢化が与える影響を明らかにするため、新たに2件の研究を実施しました。本研究は、岡山県で開催されたG20保健大臣会合にて発表されました。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進には公的資金の調達が要となるため、各国が公的資金をどのように調達しているかについての研究を実施しました。その結果、日本のように高齢者が多く社会負担(所得にかかる税など)に大きく依存する国は、退職者が増えるにつれ、持続可能性に関する課題に直面することになること、また、労働市場に関連する社会負担からの収入は徐々に減少することが明らかになりました。社会負担の負担者数を増やし、負担率を上げ、財源を多角化させるシミュレーションを行った結果、高齢者の割合が既に高くなっている国では、これらの政策オプションで社会負担からの収入減少を完全には補填できないことがわかりました。

一方で、若齢層の厚いインドネシアのような国では、あらゆる財源(所得税、物品サービス税、固定資産税など)からの資金調達力が向上しており、それらの財源は人口の高齢化に伴って徐々に成長すると考えられます。この潜在的な資金力は、各国がいかに効率的に徴税とその施行メカニズムを整備できるかに左右されます。

もう1件の研究では、人口高齢化が抑制のきかない保健医療費の増加をもたらすという仮説を検証しました。欧州連合(EU)、日本、インドネシアの人口予測を用いた研究の結果、公的資金を財源とする保健医療費の増加に人口高齢化が寄与する程度はわずかであることが明らかになりました。高齢者への医療・介護費用の方がより高額であると仮定した場合の保健医療費の増加を調査するため、高齢者による保健医療サービスの利用増加や保健医療の高度化、保健医療に関する価格の大幅な上昇、給付の大幅な拡大などを想定した仮説シナリオを適用しました。その結果、人口高齢化により公的支出は増加するものの、その幅は大きくはなく、抑制できることが明らかになりました。このことから、人口高齢化は保健医療費増加の大きな要因ではなく、今後もそうならないと考えられます。保健医療費増加の大きな要因は、サービス提供モデル、保健医療の価格、新技術などの政策介入に関わるものです。

結論として、若齢層の厚い国では公的資金の調達力に人口高齢化が良い影響を与え、その課題は徴税制度の整備にあることが2件の研究から明らかになりました。高齢者層の厚い国では、社会負担の負担者数増加と負担率上昇により、労働市場に関連する社会負担からの収入減少を部分的に補填できる可能性があります。

人口の高齢化が進む中、社会負担や所得にかかる税に依存し続けることは不可能であるため、保健医療を受ける資格と社会負担の支払いとを切り離すことが重要であると研究者らは強調しています。これはユニバーサル・ヘルス・カバレッジの原則とも一致します。また、人口の高齢化が保健医療費の増加に与える影響はわずかであると考えられます。保健医療費増加の抑制には、保健医療サービスの提供方法、サービスや医療技術の価格の決定などに関する政策が重要となります。

京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻で教育・貧困・経済と健康の関連について講義

WKCのローゼンバーグ恵美技官は、京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻のグローバル・ヘルス講座に2016年以来、毎年外部講師として招かれ、健康の社会的決定要因として知られる教育・貧困・経済が、健康とどのような関連にあるのかについて講義をしています。

今年は10月9日に、海外からの留学生を多く含む大学院受講生に講義を行いました。そのほとんどの学生にとって健康の社会的決定要因は未知の概念でした。講義では、はじめに健康の社会的決定要因の概念を紹介し、それらが国と国の間や同じ国の人々の間で健康アウトカムや健康を享受する機会において不公平で回避可能な差異、つまり健康格差を生み出していることを説明しました。そして教育・貧困・経済と健康の関連を示すエビデンスを示しました。その中には、European Health Equity Status Report 2019(ヨーロッパの健康格差実態報告書2019)に示された最新のエビデンスも含まれました。

講義の後半では、関連するWHO総会決議や国連の持続可能な開発目標(SDG)など、健康の社会的決定要因への取り組みを通じて健康格差の縮小に資するグローバル・イニシアチブを取り挙げました。

最後は、健康の社会的決定要因に取り組むというWHO加盟国の決議の執行とアカウンタビリティのために、WHOが定期的にグローバル・モニタリングを行っていることなどについて、学生と活発な議論が交わされました。 

京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 グローバル・ヘルス講座の受講生

 

Yamato University student visit to WKC

大和大学保健医療学部の看護学生がWKCを訪問

去る9月4日、大和大学保健医療学部看護学科の学生21名と教員2名がWKCを訪れ、ローゼンバーグ恵美技官がWHOのミッションや現在の取り組みなどについて講義をしました。

講義では主に3つのトピックを取り挙げました。まず、WHOの組織、目的(健康の増進、世界の安全保護、脆弱な人々への奉仕)およびUHCの達成への取り組みについて概観しました。次に、WKCでは、人口高齢化という状況の中でUHCを推進するための保健システムやイノベーションに関する研究を行い、その知見を日本および他国に発信していることについて説明しました。

 

WHOのたばこ規制枠組み条約について話すローゼンバーグ技官

最後に、ローゼンバーグ技官が自身のキャリアパスについて話し、WHOでのインターンシップ・プログラムをはじめ、国際保健のキャリアに関心のある学生に向けられた多くのリソースを紹介しました。

質疑応答では、参加した学生から、WKCの研究についての理解を深められた、保健医療分野における国際的なキャリアに興味を持ったなどの感想が述べられました。