2023-05-19

健康危機発生時における標準化されたリアルタイムでのヘルスデータ報告システムに関する論文発表

日本は、過去10年間に何度も大地震を経験し、甚大な健康被害や壊滅的な社会的影響を受けており、災害による健康問題のさらなる理解と、迅速な対応が必要とされています。それに関連して、WHO神戸センターが助成し、広島大学が主導した研究プロジェクトより、リアルタイムでの標準化されたヘルスデータ報告システムの論文が発表され、学術誌「Prehospital and Disaster Medicine」に掲載されました。

日本版災害時診療概況報告システムJ-SPEED は、2018年に発生した北海道胆振東部地震の際に、32の災害医療チーム(Emergency Medical Team - EMT)の標準診療日報として使用されました。災害医療チームはJ-SPEED診療日報を利用し、患者数や、EMT診療時に相談を受けた健康上の問題などの情報が収集し、緊急対策本部に報告することができます。収集されたデータの分析結果によると、EMTが対応した32日間で739件の健康相談があり、そのうち97.6%は最初の2週間に行われていました。相談者のほとんどは65歳以上で、女性が大半を占めていました。最も多く報告された健康問題は、災害ストレス関連の症状(15.2%)で、次いで、創傷(14.5%)、皮膚疾患(7.0%)でした。この研究により、災害による健康被害を可視化するためには、標準化されたデータ収集方法と報告システムが重要であることが本研究により明らかになりました。こうした知見は、データに基づく被災地の医療ニーズの分布と推移を把握し、EMTの対応調整を可能にするとともに、エビデンスに基づいた実践を確立するために役立ちます。

本論文を共同執筆したWHO神戸センターの茅野龍馬医官は、緊急災害時のヘルスデータ管理の強化には、標準化されたデータ報告システムを用いてエビデンスを提供し、災害による健康問題への理解を深めた上での対応の重要さを強調しました。

Yumiya Y, Chimed-Ochir O, Kayano R, Hitomi Y, Akahoshi K, Kondo H, Wakai A, Mimura S, Chishima K, Toyokuni Y, Koido Y, and Kubo T. (2023). Emergency Medical Team Response during the Hokkaido Eastern Iburi Earthquake 2018: J-SPEED Data Analysis. Prehospital and Disaster Medicine, 1-6. doi:10.1017/S1049023X23000432