2021-12-12

2021年ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デーに寄せて WHO神戸センター所長のメッセージ

12月12日のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)デーを記念し、強力かつ公平で、レジリエントな保健医療制度やUHCの必要性に対する啓発活動が世界中で行われます。UHCとは、すべての地域のすべての人が、経済的な困難を伴うことなく、必要とする質の高い保健医療サービスを利用できるように促す考え方です。

今年のUHCデーのテーマは「誰の健康課題も取り残さない:みんなのための保健システムに投資を」。WHO神戸センターの研究の多くはこの目標に焦点を合わせており、各国で急速な人口高齢化が進む中でも高齢者が取り残されることのないように、保健医療制度の資金調達および保健医療サービスへのアクセス確保に関する政策立案に資するエビデンスを提供しています。

WHOと世界銀行による「保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポート2021」には、WHO神戸センターの提案を反映するかたちで高齢者の保健医療に関わる経済的困難を示すデータが含まれ、UHCの進捗評価において高齢者のニーズが考慮されるようになりました。具体的には、WHO神戸センターの研究で得られた56カ国のデータのメタ分析にもとづき、およそ10人に1人が主に経済的な理由から受診を控えていることを明らかにした研究結果が掲載されました。この研究では、受診を控える高齢者の割合が、より若い年齢層の成人に比べて2倍近くになることも分かりました。

同レポートに紹介された、ベトナムで実施されたWHO神戸センターの別の研究では、高齢者は保険があっても病気やけがの治療に医療を受診せず、何もしないあるいは受診せずに市販薬を服用する人が多いことが明らかになりました。保健医療の利用による経済的な負担は、慢性疾患のある高齢者がいる世帯で最も大きくなっている点も示唆されました。

さらにWHO神戸センターは地域貢献事業の一環として、関西地域の高齢者が必要とする保健医療を受けられていない状況を把握するための研究を、地元の研究者も交えて行っています。高齢者における保健医療費の支払いに関する課題を把握することで、関西地域の高齢者の経済的保護の推進に寄与し、ひいては他の国や地域にも役立つ知見の提供を目指しています。またこの場を借りて、今年のUHCデーに寄せて応援メッセージを送って下さった日本の研究者の方々に感謝申し上げます。

UHCの推進には、より健康的で公平な世界にするために共に協力して取り組むことが欠かせません。WHO神戸センターは、高齢者を含むすべての人のニーズに対応する保健医療制度に賢い投資を行うよう、各国や各分野のリーダー、政策立案者、そして一般の皆様に呼びかけます。

 

WHO神戸センター所長

サラ・ルイーズ・バーバー