2020-09-21

医療ビッグデータを用いた新たな研究で、認知症高齢者への優先的な医療提供が明らかに

2020年921日は「敬老の日」です。WHO神戸センター(WKC)では、超高齢社会におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)のモニタリングについて研究を行なっており、9月4日、WKCの協力のもと実施された日本の超高齢社会における医療アクセスの公平性に関する新たな研究の結果が、BMC Health Services Researchに査読付き論文として発表されました。この研究では、大規模ヘルスデータベースから得た情報を活用し分析しています。

これまで、認知症の高齢者の患者に対する医療ケアの質に関して行われてきた研究は少なく、そうした患者が受ける股関節骨折手術のような救急医療に対しての研究に至っては、さらに少ない状況でした。

そのため本研究では、救急病院での医療ケアが高齢者のニーズに対応し、公平に行われているかどうか、また高齢者、特に認知症患者が股関節骨折手術を受ける機会がより少ないのかどうかを検証しました。

重度の認知症患者にはより早期に行われる股関節手術

研究者らは、医療保険請求のデータベースである診療群分類包括評価(DPC)データベースの二次データ分析を行った結果、研究対象となった2014年から2018年までの4年間で全国から572,983人の股関節骨折の診断を受けた65歳以上の患者が同定されました。そのうち再発例などの複雑な症例を除き、214,601人の患者が研究対象となり、58,400人(27.2%)は軽度の認知症、44,787人(20.9%)は重度の認知症で、159,173人(74.2%)が股関節手術を受けていることがわかりました。

救急病院で治療を受けたこれらの患者のうち、重度の認知症の患者は、認知症のない患者と比較して股関節手術を受ける率が高く、手術までの待機期間が短い傾向にありました。また、認知症の有無にかかわらず80歳以上の患者は、6579歳の患者に比べて手術を受ける可能性が低く、その一方で、90歳以上の患者は手術前の待機日数が短いことがわかりました。

主導研究者を務めた広島大学(研究当時)の冨岡慎一氏は、次のように述べています。「外科医は、重度の認知症の患者が股関節骨折によって体を動かせなくなることでより大きい影響を受けると認識していて、手術を可能な限り早く行い、認知症が進行しないようにしたいのだと思います。この研究から、日本の医療制度における公平性が示唆されていると言えます」

データ活用で質の高い公平な医療提供が可能に

冨岡氏はさらに、「日本の各地の病院には、質の高いデータセットが十分にある一方、今回の研究のような医療サービスに関する研究に効果的に活用されていません」と述べています。「私たちは研究プロジェクトの一環として、全国の病院の事務職員に、データの使い方に関する研修を実施してきました。これにより、例えば、どの種類の医療ケアが最も利用されているのか、地域の中でどの医療施設と連携するといいのかなどを、データを用いて知ることができるようになります。コストを下げつつ質の高い医療を提供できるようになり、長期的には国の医療体制を持続可能なものにしていけると考えています。」

今回の研究ではさらに、高機能病院であれば、地方に住む患者も都市部の患者と同程度、遅れることなく手術を受けていることもわかりました。

本研究は医療ケアと公平性に関する疑問に対し、ビッグデータを活用する有用性を示しており、医療サービスの公平性に関連するグローバルな知識基盤の強化にもつながると考えられます。

 

研究プロジェクトの詳細はこちら:https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/project-details/evidence-improving-health-care-provision-ensure-universal-health-coverage-amid-rapid