2014-06-24

WKCフォーラムレポート「高齢者のためのイノベーション ~加齢に伴う虚弱や障害に対処するために~」

WHO神戸センター(WKC)は、2014年6月24日 神戸にて、公開フォーラム「高齢者のためのイノベーション ~加齢に伴う虚弱や障害に対処するために~」を開催しました。今回のフォーラムには、医療従事者、産業界、研究・学術界、地方自治体などから76名が参加しました。



WHO 本部 障害とリハビリテーション のテクニカルオフィサーを務めるチャパル・カスナビスは、「高齢者のためのイノベーティブな福祉機器 ~加齢による虚弱や障害に対処するために: 概要」について発表し、年齢への配慮ができる知識豊かなサービス提供者の必要性に言及するとともに、アシスティブ・ヘルス・プロダクツ(健康を支える福祉用具・生活支援用具)は、1) コミュニティーに身近かで利用しやすく、2) 費用を誰が負担するかにかかわらず、手頃な価格で入手可能、かつ、究極的には長寿で健康な実りある生活に寄与すべきであると述べました。高齢者が直面する課題に対処するためには、誰もがアクセス可能な医療・技術・社会的イノベーションの融和による総合的な解決策が求められているとして講演を締めくくりました。

国際義肢装具協会(ISPO)日本支部 会長 陳隆明先生は、「高齢下肢切断者の義足歩行」について講演、近年、世界的に増加している高齢者人口における下肢切断の原因が、動脈硬化や糖尿病による末梢循環障害によって二次的に起こる重症下肢虚血によるものであると発表しました。陳先生は、兵庫県社会福祉事業団 福祉のまちづくり研究所所長、兵庫県立リハビリテーション中央病院 ロボットリハビリテーションセンター長も務めらておられます。日本では、現在年間4000人のペースで高齢下肢大切断の症例が報告されている現状から、今後の課題として下肢大切断における膝温存率の向上、ならびに、大切断後のリハビリ成功率向上の必要性に言及。また、高齢下肢切断者が義足で歩くために必要な事項として、以下の4点をあげました:1) 歩きたいという強い意志、2) 義足を自己装着できること、すなわち、十分な上肢機能があること、3) 立位を保持できること、4) ある程度歩行できる体力があること。

「切断者こそわが師、地域が教科書」と感慨深く語った 兵庫県立リハビリテーシヨン中央病院 名誉院長 澤村 誠志先生は、「日本の義肢装具教育の沿革: 地域社会に根ざしたリハビリテーション実践の経験から」と題して講演。50年前の日本には、義肢装具に関する教育や義肢装具サービスの向上に関する医学的な組織的活動は皆無であったことを報告しました。事実、当時は義肢装具にかかわる部局を有する医療機関はほとんど存在しませんでしが、兵庫県では身体障害者のための巡回移動相談を実施、リハビリテーションサービスの提供に努めました。巡回のための自宅訪問を重ねる中から、欧米流の義肢装具の手技は、履物を脱ぐ、畳に座るなどといった日本独特の生活様式には適さないことが判明、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)という概念が生まれました。1968年神戸において澤村先生の主導により義肢装具研究同好会が発足、以来、関連する医療従事者のための資格研修プログラムの開発など、学術的、また制度上の動きが自治体、国、そして国際レベルで展開されました。澤村先生は発表のまとめにあたり、いかなる理由によっても誰も排除されることなく、コミュニティー全体が互いに協力して発展を目指す、「地域に根ざしたインクルーシブ(包括的)な開発 (CBID)」こそが肝要であると述べました。

熊本総合医療リハビリテーション学院 義肢装具学科 学科長 小峯敏文先生は、義肢の採寸から適合までを担う「人と機械を融合する専門職」としての義肢装具士について、その基本的な役割を説明、「日本の義肢装具教育: 福祉用具学導入とその背景」について発表しました。義肢装具士養成の課程は、医学・工学・社会学などの諸領域における多角的な視野を備えながら義肢装具学を修めることを旨とします。2014年4月現在、日本における義肢装具士国家試験の合格者数は4470名。身体に障害を抱えて暮らす人々の数が増加の一途をたどる現状(2012年には約390万人)から、また、65歳以上がその63%を占めるという実情から、今後はさらに、高齢者のニーズに即し、車いすなどの福祉機器の適切な活用と適合(車いすの場合は、使用者の座位をきちんと適合させるなど)の向上が継続的に必要であると述べました。

講演に続いて行われたオープン・ディスカッションでは、陳先生がモデレーターを務め、包括的な開発、チームアプローチ、健康保険、保健・医療に関する研究など、具体的な項目について討議が行われました。パネリストからは、以下の点についての認識と周知が必要であるとの指摘がありました:1) CBIDに関する事例やモデル(例: 福島におけるプロジェクト)、2) 年齢に配慮のある学際的なチームアプローチの運用(例: 義肢装具士、作業療法士、理学療法士の協働)により、老若の別によらずどの患者にとっても確かな効果をもたらす取り組み、3) 福祉用具・生活支援用具を国の健康保険・保障制度の枠に含める保健システム(例: フィリピンにおける現行のイニシアチブや2000年に施行された日本の介護保険)、4) 使用者としての高齢者自身の意向や好み、また、福祉用具・生活支援用具の恩恵を取り込んだ、実証に基づいた研究、遡及的かつ先見的な研究。

フォーラムの閉会にあたっては、WHO神戸センター協力委員会の支援、ならびに、ISPO日本支部、兵庫県社会福祉事業団 福祉のまちづくり研究所両機関からの協力に対し謝意が述べられました。

プログラム・講演者

プレゼンテーション

  • 「高齢下肢切断者の義足歩行」

    国際義肢装具協会 (ISPO) 日本支部 会長 兵庫県社会福祉事業団 福祉のまちづくり研究所 所長

    兵庫県立リハビリテーション中央病院 ロボットリハビリテーションセンター長 陳 隆明