2014-10-01

WKCフォーラムレポート「高齢者のためのイノベーション ~アドヒアランス向上のために: 薬剤治療と食事療法~」

10月1日は、国連の定める 国際高齢者デー (International Day of Older Persons) です。この日を記念して、WHO神戸センター (WKC) は、2014年10月1日 神戸にて、公開フォーラム「高齢者のためのイノベーション ~アドヒアランス向上のために: 薬剤治療と食事療法~」を開催しました。フォーラムには、約60名が出席、高齢患者の服薬アドヒアランス向上のために現在取り組まれている最新のイノベーションについて、また、高齢者の暮らしに役立つ栄養知識についての発表・討議に参加しました。

人口に占める高齢者の割合は、世界的に急激な増加の一途をたどっています。このような人口転換に伴い、疾病構造の変化(疫学的転換)もみとめられています。世界的にみて、非感染性疾患が主な死亡原因となり、また、非感染性疾患に起因する障害の割合は障害全体の50%にも上っています。この傾向がきわめて顕著な日本は、世界で最も高齢化の進んだ国であると同時に、非感染性疾患が死亡原因の80%近くを占める現状を抱えています。

長生きをすれば、私たちの多くは薬剤や栄養による療法を必要とする状況に直面するでしょう。従来、医療における患者の療養行動は、「医療者からの指示に患者がどの程度忠実に従うか」 というコンプライアンス概念のもと、受身の立場で評価されてきました。しかし、治療の過程では、服薬、食生活の改善、生活習慣の修正など、患者と医療者が相互に合意した治療方針に患者自身が主体的に参加する必要性が重視されるようになってきました。この概念をアドヒアランスと呼びます。

加齢に伴う健康課題の多くについては予防や管理が可能です。そのためには、老化による認知や機能の低下、また、健康や生活の質の維持を目的とした療法にいくつも取り組まなければならないなど、高齢者が日々直面する問題にうまく対処することが肝要です。アドヒアランスは、治療を成功に導く第一の決定要因です。アドヒアランスが不十分であれば、治療効果を最大限に引き出すことは難しく、ひいては、医療制度における全般的な有効性を引き下げることにもつながります。

加齢とともに、栄養必要量は変化していきます。同時に、健康問題や複数の薬剤服用による副作用、生活様式の変化、知識不足などが原因で、必要な栄養摂取が損なわれることも考えられます。食習慣や服薬におけるアドヒアランスは、健康な高齢化のための大切なポイントとして、健康状態の改善に深く結びついています。

今回のフォーラムでは、老年学、薬学、栄養学の分野から4 名の専門家を迎え、高齢者の健康に寄与するアドヒアランス向上についての講演、ならびに、参加者からの質疑に応じる形式での活発な討議を展開しました。

神戸大学名誉教授の小田先生は、社会学的、老年学的見地からアドヒアランスの概念の定義に焦点を当て、日本の高齢者に求められている役割の変化について解説しました。横浜薬科大学教授の定本先生は、服薬アドヒアランスのモニタリングについて、具体的なイノベーションの例を取り上げて発表、最新の研究成果を報告しました。名古屋学芸大学教授の下方先生からは、高齢者の栄養摂取状況の把握とその改善に関する長期縦断調査の結果から、高齢者の健康と幸福の向上のためには、食習慣の見直しと改善が重要であるとの指摘がありました。京都大学の木村先生は、国内外で広く展開中の地域に暮らす高齢者の健康状態や食事摂取状況を包括的にとらえることを目的とした「フィールド医学」の調査研究から、高齢者の食事において食の多様性が乏しくなってきている現状、ならびに、その影響が慢性疾患を抱えた高齢者にもたらす課題について講演しました。

講演に続いてのオープン・ディスカッションでは、会場の参加者からの活発な質疑を受けながら、小田先生が進行を務め、今回フォーラムのトピックとなった、高齢者の服薬アドヒアランスと栄養摂取についての討議が行われました。アドヒアランスの向上を目指すには、また、現在、そして今後の高齢者ニーズによりよく対応するためには、医師、看護師、薬剤師、栄養士、また、コミュニティーサポートなど、医療関係者間の協働・協力を着実に進展させることが急務であるとの結論に至りました。

プログラム・講演者略歴

プレゼンテーション