Q&A(COVID-19):デキサメタゾン
COVID-19に感染しています。デキサメタゾンなどの副腎皮質ホルモンを処方されたほうがいいのでしょうか?
副腎皮質ステロイドは、重症または致死的なCOVID-19*患者に推奨される救命薬です。酸素や他の薬剤を含むCOVID-19の現在の標準的な治療とともに投与するべきです。
重症ではない*COVID-19の患者には投与する必要はなく、そのような場合に投与すると、患者の健康を害する可能性があります。
*肺炎の兆候、重度の呼吸困難、血中酸素濃度が低い場合、重症のCOVID-19と言えます。生命維持のための治療が必要な場合、急性呼吸窮迫症候群の場合、敗血症性ショック(他の臓器への損傷の証拠)の場合、患者のCOVID-19は致死的であると言えます。詳細はこちら。
デキサメタゾンとは何ですか?COVID-19に効果がありますか?
デキサメタゾンは抗炎症作用や免疫抑制作用を持つ副腎皮質ステロイドで、さまざまな疾患に使用されています。
イギリスの全国的臨床試験であるRECOVERY試験では、COVID-19の入院患者を対象とし、極めて重症の患者への有効性が確認されました。
WHOに報告された予備的な調査結果(現在は査読前の原稿として利用可能)によると、人工呼吸器を装着している患者の死亡率を約3分の1減らし、また酸素のみを必要とする患者の死亡率を約5分の1低減させる(つまり死亡率がそれぞれ3分の2、5分の4になる)ことが示されています。
副腎皮質ホルモンの投与方法と投与量は?
副腎皮質ステロイドは、製剤によって錠剤または注射で投与されます
COVID-19の重症または致死的な患者には、7~10日間、低用量のコルチコステロイドを投与する必要があります。1日の投与量は、使用する副腎皮質ホルモン剤によって異なります。
RECOVERYに参加した全ての患者にデキサメタゾンが投与されましたか?
対象となる患者は、いくつかの治療群に無作為に割り当てられました。デキサメタゾンは、そのうちの1つの治療群に、経口(液剤または錠剤)または静脈内注射で1日1回6mgが10日間投与されました。
妊娠中または授乳中の女性患者は、プレドニゾロン(作用がより弱いコルチステロイド)40mgの経口投与に、無作為に割り当てられました。
COVID-19感染者全ての人に副腎皮質ホルモンは適していますか?
WHOは、重症または致死的なCOVID-19患者には、副腎皮質ホルモンを投与することを推奨しています。
副腎皮質ホルモンはどのように作用するのですか?
COVID-19の重症または致死的な患者は、免疫系の過剰な活性化を起こし、健康に大きな害を及ぼす可能性があります。副腎皮質ホルモンは、この過剰な活性化を抑制する働きをします。
副腎皮質ホルモンに副作用はあるのでしょうか?
短期間の服用であれば、副腎皮質ホルモンは一般的に安全であり、重篤な副作用を伴うことはありません。副腎皮質ステロイドは、患者の血糖値を上昇させる可能性があり、すべての人が血糖値をモニタリングすることが推奨されています。
副腎皮質ステロイドによる合併症の可能性としては、創傷治癒力の低下、免疫抑制(他の感染症のリスクを高める)、血糖値の上昇があり、モニタリングされていない場合は、糖尿病性ケトアシドーシスやコントロール不能の糖尿病を引き起こす可能性があります。副腎皮質ステロイドを2週間以上使用した場合、緑内障、白内障、体液貯留、高血圧、体重増加、骨粗鬆症(骨が弱くなる)、気分の落ち込み、錯乱、イライラなどの有害事象が発生する可能性があります。
デキサメタゾンはWHOによる事前認承を得ていますか?
はい。スペインのKern Pharma SL社製のデキサメタゾン注射液4mg/ml(1mlアンプル入り)が、COVID-19ではなく、HIV/AIDSに関連する疾患管理への使用において事前認証を得ています。
別のデキサメタゾン注射剤も現在評価中です。
自社製品の事前認承に興味があるメーカーは、事前認証チーム(prequal@who.int)に詳細をお問い合わせください。
副腎皮質ホルモンを投与されている患者さんには、モニタリングが必要ですか?
WHOは、副腎皮質ホルモンが血糖値を上昇させる可能性があるため、糖尿病でない患者さんも含め、すべての患者に血糖値のモニタリングすることを推奨しています。
副腎皮質ホルモンを投与されている特定の患者は合併症を発症するリスクが高いため、注意深く観察する必要があります。これには糖尿病、癌、外傷、重度の火傷、栄養失調の方などが含まれます。また、免疫抑制剤/免疫調節剤を服用している患者、重度の免疫不全の患者、静脈注射投与薬物の使用者にも注意が必要です。
RECOVERY臨床試験ではどのくらいの量を使用したのですか?
デキサメタゾンはRECOVERY 臨床試験において、経口(液剤または錠剤)あるいは静脈内投与で、10日間、1日1回6mgで使用されました。
妊娠中または授乳中の女性には、デキサメタゾンの代わりにプレドニゾロン40mgの経口投与(またはヒドロコルチゾン80mgを1日2回静脈内投与)を行いました。
- 注:臨床的状況に応じて、2つの投与経路を切り替えることが認められています。
出典: RECOVERY [V6.0 2020-05-14] ISRCTN50189673 EudraCT 2020-001113-21 9頁(全35頁)
副腎皮質ホルモンは高価なのですか?広く普及しているのでしょうか?
副腎皮質ステロイドは、世界中で安価に容易に入手できます。WHOは、供給やパイプラインが減少している可能性のあるリソースの限られた環境に配布するために、少量の副腎皮質ホルモンの在庫を確保しています。
副腎皮質コステロイドは、WHOのモデル必須医薬品リストに掲載されています。
デキサメタゾンの典型的な副作用は何ですか?
デキサメタゾンは一般的に安全です。特に重症の肺炎患者では良好なリスクと有益性の特性が示されていますが、重症ではない患者では有益性は顕著になりません。治療期間が短いため、高用量であってもコルチステロイドは重篤な副作用を伴いません。潜在的に高い血糖値(高血糖)を示すことがあっても一時的です。
長期間の使用(例えば2週間以上の使用)では、緑内障・白内障・体液貯留・高血圧・心理的影響(気分変動、記憶障害、混乱、イライラなど)・体重増加・感染リスクや骨粗鬆症リスクの増加などの有害事象が発生する可能性があります。
繰り返しになりますが、これらの有害事象は全て、短期間の使用では発生しないと言えます(糖尿病を悪化させる高血糖を除く)。
ステロイドは、高齢者・小児・妊婦にも使用できますか?
小児や高齢者にも使用できます。妊婦の場合、RECOVERY 臨床試験ではデキサメタゾンの代わりにプレドニゾロンの経口投与やヒドロコルチゾンの点滴静注が行われました。ステロイドは幅広い地域で使用されています。
デキサメタゾンは世界中で入手できますか?
はい。デキサメタゾンの特許は切れていて、様々な剤形(錠剤、液剤、注射剤など)で長年にわたり販売されています。ほとんどの国で入手可能です。この製品のメーカーは複数あります。1社がすでにWHOからの事前認証を受けていて(スペインのKern Pharma社)、もう1社は評価中です。
最も一般的な剤形は以下の通りです。
- 錠剤:0.5mg, 0.75mg, 1mg, 1.5mg, 2mg, 4mg, 6mg
- 内服液:0.5mg/5ml, 20mg/5ml, 1mg/ml(濃縮製剤)
- 注射用混濁液:4mg/ml, 20mg/5ml
近年、本製品が不足していることが時折報告されています。全ての患者の治療ニーズを満たすために、安全で効果的、高品質かつ安価な製品を入手できるようにするためには、COVID-19への使用量と製造能力の予測を迅速に把握し、既存の適応症への影響や代替的な治療の必要性を評価することが重要です。
デキサメタゾンは手ごろな価格ですか?一回の治療費はいくらですか?
デキサメタゾンの特許は切れていて、一般的な支持療法の選択肢であり、概ね安価です。WHOが2016年と2019年に低・中所得国の様々な医療機関を対象に行った調査によると、デキサメタゾンは、4mg/mlの注射用アンプル1本あたり中央値0.33ドル(範囲:0.13~3.5米ドル)で患者に提供されていました。国連の主要な調達先では、デキサメタゾンの4mgの注射用アンプル1本あたり中央値0.092ドルで供給できる可能性があります。
輸入規制はありますか?
デキサメタゾンは世界中で認可されているため、制限はないと思われます。
規格外・偽造医薬品(SF医薬品)のリスクとは何ですか?
WHO Global Surveillance and Monitoring Systemのデータベースには、偽造されたデキサメタゾンの記録が21件あり、最新のものは2020年2月の東地中海からの報告です。
本医薬品が広く知られるようになり、規格外・偽造デキサメタゾン製品の事故が発生することが予想されます。これは、ヒドロキシクロロキンがCOVID-19の治療薬として期待されていた時に、偽造のクロロキン製品が報告された経験に基づいています。
全てのサプライチェーンにおいて警戒心を高め、あらゆる調達活動の中で注意を払うことが不可欠です。加盟国および規制当局は、規格外・偽造デキサメタゾンの事例が発生した場合、速やかにWHO global surveillance and monitoring systemに報告することが推奨されます。