日本の長寿者に学ぶ支援機器の利活用

フォトクレジット: UN Photo
実施期間:

2018年2月~2019年2月

連携機関:

代表研究機関: 東京大学
参加研究機関: 大阪大学、東京都健康長寿医療センター研究所、国立障害者リハビリテーションセンター研究所(日本)、アイルランド国立大学メイヌース校、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン
主導研究者: 二瓶 美里(東京大学)

研究対象地域:

日本

総予算:
100,000米ドル

 

背景

世界では10億を超える人々が支援機器(AT)を必要としています。ATは「ローテク」から「ハイテク」まで幅広い機器で構成されます。例えば、補聴器、眼鏡、歩行器、車椅子、コミュニケーション補助機器、記憶を補助する機器、補装具などがありますが、これらに限りません。ATを利用できる人の割合は非常に限定的で、全世界でみると10人中1人程度です。高齢者は慢性疾患の罹患率が高く、また加齢によるフレイル(虚弱)や障害も多いことから、福祉用具や補助器具を最も必要とする年齢層です。しかし、長寿者を対象としたAT利用者のデータや利用ATの種類、さらにAT利用者の経験に関する研究は限られています。世界有数の超高齢社会である日本は、このような研究ギャップに取り組むうえで他に類を見ない状況にあるといえます。

目標

日本の地域社会に居住する長寿者を対象とし、AT利用者の年齢、最も一般的に利用されているATの種類、さらにはAT利用者の経験の観点から、ATの利用状況に関する分析結果をまとめる。

研究手法

本研究は分野横断型、手法混在型です。定量的研究として郵送による予備調査を行い、その後、構造化質問紙を用いた面接による詳細な調査を行いました。参加者は、柏90スタディとSONICスタディ(70代、80代、90代の高齢者の調査を100歳以上の高齢者の調査と並行して行う健康長寿研究)という2つの調査からサンプリングしました。柏90スタディは、本研究プロジェクトが新しく始めたコホート研究で、千葉県柏市在住の90歳以上の高齢者を対象にしています。SONICスタディは2010年6月の開始後現在も進行中の前向きコホート研究で、関西地域(兵庫県伊丹市および朝来市)と関東地域(東京都板橋区および西多摩地区)で調査を行っています。収集データは、参加者の人口特性、健康状態、身体状況、認知機能および運動機能、心の健康、その他の関連情報です。定性的研究では、AT利用者の経験に関する半構造化面接を基にした綿密な聞き取り調査を行います。

研究成果

分析の対象とした郵送調査のサンプルは、柏90スタディとSONICスタディ合わせて2,477人の参加者からなります。参加者の年齢は88歳から106歳までで、そのうち100歳以上は2.1%でした。大半(98.7%)は何らかの種類のATを利用しており、機器の複数利用はきわめて一般的でした。参加者の約79%は3つ以上のATを利用していると回答し、また5つ以上のATを利用していると回答した参加者の割合は44.8%でした。最も一般的に用いられているATは、入れ歯(76.7%)、眼鏡等の装着型の視力関連機器(72.0%)、手すり(51.4%)、つえ(47.6%)などでした。インタビューから得られた定性的なデータ(94歳から100歳までの男性1人と女性4人)では、ATの利用は地域社会に居住する長寿者にとって、日常生活の動作に著しく有益な効果をもたらしていることが明らかになりました。

意義

本研究では、複数のAT利用が広く普及していることが示され、日本の地域社会に居住する長寿者が最も一般的に利用しているATに関する分析結果が得られました。この情報は、長寿者のニーズに合ったATの設計および処方に役立つことが期待されます。本研究プロジェクトの重要な成果は、新しい研究コホートである柏90スタディを立ち上げたことです。これは、日本の長寿者を対象としたATおよびその他の加齢に関連する課題について、今後の研究のデータソースになり得るでしょう。

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