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Implementation

2021年10月~2022年9月

Implementing partners

代表研究機関:  京都大学大学院医学研究科 医療経済学分野
主導研究者:  今中 雄一 教授

Location of research

日本

Total Budget
US$ 60,000

背景

医療費支払いによる家計の破綻や困窮に対する経済的な保護は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの基本原則です。 日本には、医療費の自己負担による困窮から経済的に保護するための様々な政策や制度があります。 これには、国民皆保険、社会福祉、高額療養費制度、無料低額診療事業および生活保護などの制度が含まれます。こうした対策にもかかわらず、生活保護を受けている高齢者の割合が1995年の1.6%から2015年には2.9%に増加していることからもわかるように、高齢者の経済的困窮は進んでおり、そのために医療を受けられない、または受診抑制行動をとる高齢者が増加している可能性が考えられます。関西には日本全国でも生活保護受給世帯の割合が高い地域が複数存在し、その多くは高齢者が暮らす世帯です。そのため、医療に対する経済的な障壁は、関西地域で暮らす高齢者にとって重要な問題であると考えられます。

目標

医療専門職の診察、診断、治療などによる医療費支払いが困難な高齢者の現状を関西地域で調査します。

既存の経済支援制度や政策を利用できていない高齢者に関して、アンメット・ニーズや政策実装におけるギャップを把握し、その背後にある原因を同定します。

関西地域および日本全体で有効に活用され、効果的な普及がさらに期待でき、他国への示唆にもなりうる政策や制度を同定します。

研究手法

  1. 医療のための経済的な保護政策・制度の対象や、適用範囲などに関する情報は、関西地域の高齢者が現在利用しうるものであるが、それらについて2005 年以降に発行された公文書を中心にレビューし、政策・制度の実施にともなう潜在的な課題を同定しました。
  2. 関西地域全6府県の病院、および自治体、社会福祉協議会、地域包括支援センターに勤める社会福祉専門職を対象に、郵送および インターネットによる質問紙調査を実施しました(2021 年 10 月- 2022 年 2 月)。回答者553 名から得られたデータを分析し(回答率 23%)、高齢者が医療において直面する経済的困難について、よく見られる理由を同定し、社会福祉専門職が利用者に使用しにくい経済的保護制度・事業に関連する要因につき検討を行いました。
  3. 質問紙調査で十分に把握できなかった詳細を明らかにするため、調査回答者から協力者を募り、追加インタビュー調査を実施しました。
  4. Behaviour Change Wheel1  の枠組みを適用して、複合課題をもつ世帯事例における政策の有効な介入ポイントを同定しました。

研究結果

  1. 文献調査から、日本では経済的保護に関する政策・制度、および関連法規が頻繁に改訂されていることがわかりました。また、医療を利用するための経済的な保護は、住宅など他の生活に関連する保護政策と関係するにもかかわらず、十分に統合が図られていないことも明らかになりました。制度自体が複雑であり、高齢者とその家族およびサービス提供者に十分活用されているとはいえません。
  2. 質問紙調査結果からは高齢者の医療における経済的な問題がしばしば複雑化することが示唆されました。その要因として、高齢者やその家族の社会的・精神的な課題が挙げられます。低所得者や支援が必要な人のための無料低額診療事業、国民健康保険法第44条による減額・猶予・免除、成年後見制度など、潜在的に役立つ可能性のある制度・政策がいくつかありますが、本調査結果から、これらの制度が実際には必ずしも十分使用されていないことが明らかとなりました。統計解析からは、社会福祉専門職の性別や勤務経験の長さ、および勤務先の機関の種類などが、いくつかの主要な経済的保護制度の使用されにくさと関連を示すことがわかりました。
  3. 追加インタビュー調査の協力者 20名は、多くが経験豊富な社会福祉専門職(経験年数17 -25 年)で、質問紙調査結果を補強する内容が明らかになりました。高齢者に影響を及ぼす経済的な課題としては、収入レベルが該当するにもかかわらず生活保護の申請をしていない、保険料の滞納により保険対象資格を失うなどの事例を多く認めました。複合的な課題として多く見られた状況は、高齢者自身や同居配偶者が認知症である、社会的に孤立している、主たる介護者がいない等が挙がりました。重要な経済保護制度・政策が使用されにくい主な原因としては、サービス提供が断片化していること、申請手続きが複雑であること、また、制度・政策に関する情報へのアクセスが容易でないことなどが示唆されました。
  4. Behaviour Change Wheel の枠組みを適用することで、支援事業の実装に際し、複数のレベルにおける介入ポイントや対応が、特に複合課題をもつ事例において考えやすくなりました。これにより、医療を必要とする高齢者が利用可能な経済的保護制度や政策の利用機会の増加が期待されます。具体的には、個人レベルの認知機能障害や多重債務;世帯レベルでは独居、貧困、世帯内虐待;地域レベルでは社会的孤立、感染予防知識の不足、通信費不足による支援へのアクセス障害;国の法制度レベルでは住宅確保に関連する身元保証の仕組みの不備やデジタルデバイドへの支援不足などが同定され、各項目が将来の改善のための政策介入ポイントでありうると考えられました。

世界にとっての意義

医療において高齢者に影響を及ぼす経済的な課題は、多くの場合、本人またはその家族が抱える経済面、社会面、精神面における困難により複雑化しやすく、経済的保護政策のみによって解決を図ることは困難です。 個人、世帯、サービス提供者、コミュニティ、公共政策のレベルで、複数の介入を含む包括的なアプローチが必要とされることが考えられます。 同定された重要な課題のひと つは、福祉専門職でさえしばしば既存の経済的保護制度・政策に関する情報を必ずしも十分把握していないということです。 重要な情報には容易にアクセスできるようにし、関連する政策の実際の使用状況を定期的に評価する必要があります。

地元関西にとっての意義

本研究では、関西地域で高齢者が医療を受ける際に直面する制度・政策上のいくつかの課題について同定しました。 社会福祉に関わるさまざまな専門職、地方自治体、医療・介護福祉施設、患者とその家族の間で、より良い調整を図ることのできるシステムが求められています。相談者を十分支援できるよう、福祉専門職の制度・政策情報へのアクセスや教育の機会などを整備することも必要だと考えられました。

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1参考文献:Michie S, Atkins L, West R. The behaviour change wheel. A guide to designing interventions. 1st ed. Great Britain: Silverback Publishing. 2014: 1003-10.

 

 

 

出版物

  • WKC Forum 2022 Report: Systems of financial support in healthcare for families with complex problems and marginalized populations: overcoming the challenges of ‘leaving no one behind [In Japanese]
  • Sasaki N, Rosenberg M, Shin J, Kunisawa S, Imanaka Y. Policy-implementation gaps in the financial protection in health care for older persons: Insights from a cross-sectional survey of local governments, health and social care organizations. [In progress]

プレゼンテーション

  • Sasaki N, Imanaka Y. Challenges to identifying barriers and policy intervention points in relation to the financial protection of older households: applying the Behaviour Change Wheel Framework to the complicated cases experienced by local social workers. 16th Guidelines International Network Conference, Toronto, Canada. 21-24 September 2022. [Poster presentation] 
  • Sasaki N, Imanaka Y. Key challenges to policy and practice related to financial protection in health for older persons: results of a survey of social workers.60th Academic Congress of the Japan Society for Healthcare Administration, Okayama, Japan. 16-18 September 2022. [Online presentation in Japanese]

WKCフォーラム

「複合課題をもつ世帯 周縁化された人々への支援には どのような制度・対策が必要か?~誰一人取り残さない支援へのチャレンジ~」 2022年7月28日  〔オンライン開催(日本語)〕