超高齢社会日本のUHC持続に向けた 効率的な医療提供とは ~大規模ヘルスデータの二次分析~

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実施期間:

2017年10月~2019年11月

連携機関:

代表研究機関: 産業医科大学
参加研究機関: 大阪大学、大阪医科大学
主導研究者: 冨岡 慎一(産業医科大学)

研究対象地域:

日本

総予算:
US$ 100,000

 

背景

財源の乏しい国、豊かな国のいずれも、人口の高齢化と慢性疾患の罹患率増大による医療制度の持続可能性に関する課題に直面しています。特に大腿骨頸部骨折や認知症などの疾病は増加の一途を辿っており、それらを注意深く観察評価することで、医療へのアクセスと公平性の観点から医療制度の機能に関する洞察を得ることができます。近年注目されている医療ビッグデータは、その活用により人々の健康のパターンを理解し、ヘルスケアと公平性の向上に関連する政策に資することが期待されています。日本は、関連法や法律で規定されていないその他のメカニズムを通じて、大規模なヘルスデータベースを構築するために多大な努力を重ねてきました。例えば、診療群分類包括評価(DPC)、レセプトデータベース、包括的な介護保険データベース、副作用データベースなどが含まれます。しかしながら、公平で費用対効果が高く、質の良い医療サービスの提供のための政策に対し、これらのデータベースの活用は非常に限られています。本プロジェクトには、大規模なヘルスデータベースの使用に関するいくつかの研究が含まれており、日本の高齢化に関連する医療アクセスの公平性について、深刻化する課題への対応を目指しています。この研究概要では、DPCデータベース(医療保険請求のデータベース)の分析に基づいた事業の中から研究課題のひとつを取りあげます。

目標

  1. 認知症の程度と大腿骨頸部骨折手術へのアクセスとの関連を調査
  2. 急性期病院で股関節部位の閉鎖性骨折と診断された高齢者を対象に、認知症の程度と手術までの待機期間との関係性を調査

研究手法

この調査では、DPCデータベースの横断的な二次データ分析が行われました。データベースには、患者の属性、主診断、入院時の併存疾患、入院後の合併症、入院中の手術、薬剤、医療機器などの処置、入院日数、退院時の状態、医療費などの情報が含まれています。調査は、分析対象期間中(2014年4月〜2018年3月)に股関節部位の閉鎖性骨折と診断された65歳以上の患者を対象に行われました。アウトカム変数は、股関節骨折に対する外科的治療の受療と手術までの待機日数としました。主な説明変数は認知症の程度で、分析は、患者の年齢、性別、骨折の種類、併存疾患、昏睡/意識レベル、救急車の使用、および病院や地域の特性に関してマルチレベル分析を用いて調整されました。

研究結果

分析サンプルは、股関節骨折の初診断を受けた214,601人の患者で構成され、そのうち58,400人(27.2%)は軽度の認知症、44,787人(20.9%)は重度の認知症、159,173人(74.2%)は股関節手術を受けていました。手術前の平均待機日数は3.66日(±3.72日)でした。重度の認知症の患者は、認知症のない患者と比較して股関節手術を受ける率が高く、手術までの待機期間が短い傾向にありました。高齢の患者は手術を受ける可能性が低く(80歳以上対65〜79歳)、その一方で、手術前の待機時間は短いことがわかりました(90歳以上対65〜79歳)。

意義

この研究は、大規模なデータを採用して、ヘルスケアと公平性に関する重要な研究課題に取り組むことの有用性を実証しています。精神疾患のある患者は十分な医療を受けられないという一般的な傾向とは対照的に、この研究では、日本の認知症患者が股関節手術において優先される傾向にあることを明らかにしました。このようなアプローチは、拡大する人口の高齢化によりもたらされるヘルスケア関連の諸問題に対処するために、日本および他の地域での検討が求められています。

出版物

プロジェクト関連リンク

2018年6月開催のワークショップ報告(産業医科大学 ウェブサイト) 
2018年11月開催のワークショップ報告(産業医科大学 ウェブサイト)

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