高齢者の生活の質を高めるための 新しい支援テクノロジーの開発

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実施期間:

2018年2月~2019年2月

連携機関:

代表研究機関: 和歌山県立医科大学
参加研究機関: 大阪医科大学、奈良県立医科大学、京都府立医科大学、近畿大学
主導研究者: 田島 文博(和歌山県立医科大学)

研究対象地域:

日本

総予算:
100,000米ドル

 

背景

平均寿命(LE)が世界的に伸びる一方で、健康寿命(HLE)は同じペースでは伸びていません。したがって、状況によっては、人々は障害をもって長く生きることになります。LEとHLEとの差は、高齢者の身体的、精神的、および認知機能の衰えの進行に関連し、概して日常生活動作(ADL)および生活の質に影響を及ぼします。高齢者は筋肉の量と機能が進行性に低下する「サルコペニア」と呼ばれる状態に陥る可能性があります。これは地域社会に居住する高齢者の50人に1人の割合で現れます。運動不足はサルコペニアの形成を助長しますが、高齢者の場合は、疾病による寝たきりや障害の負担が大きいため、このリスクがさらに高まります。筋肉量と機能の低下は、筋力の減少や脆弱性の深刻化による転倒を引き起こし、その結果、骨折や障害、さらには死にもつながります。

身体能力の改善は機能的能力の改善をもたらします。高齢者にとって、身体機能の維持および改善は、ADLと生活の質を維持するうえで欠かせません。新しい技術が次々に生み出されるなか、高齢者の身体活動をモニタリングする可能性は高まりつつあります。こうした新たな支援技術により得られるデータや情報は、高齢者の身体活動を改善し、障害の進行を抑え、ひいては生活の質の向上をもたらすための計画づくりに役立ちます。

目標

研究の目標は、次の3つからなります。

  1. 高齢者のADLおよび歩行機能の維持に必要な身体活動量を算定する新たなアルゴリズムを開発する
  2. 転倒のパターンに関するデータをまとめ、転倒の頻度に関わる具体的な身体活動および姿勢のリスクを明らかにする
  3. 入院患者のリハビリの成果を向上させる最適な身体活動レベルを特定する

研究手法

本研究は3つのパートから構成されます。パートIは、20人の健康なボランティア(20歳以上)が参加するパイロット研究で、大腿前部の筋電図信号により身体活動を測定します。新しいアルゴリズムは、65歳以上の高齢者20人をサンプルとしてテストを行います。パートIIは、地域に居住する65歳以上の高齢者50人を対象とした観察研究です。転倒と身体活動のパターンに関するデータを、非侵襲性の認証済み加速度計を用いて記録しました。パートIIIは、6つの疾患に対してリハビリテーション療法を受けている20歳以上の入院患者を対象とした観察研究です。リハビリテーションの開始から連続して7日間にわたり、認証済み加速度計を用いて身体活動を測定しました。さらに、ポータブルの医療用体組成計を用いて体組成を測定しました。

研究結果

エルゴメーターを用いた運動および歩行中の筋電図信号と酸素消費量の二乗平均平方根の合計の間には、有意な正の相関が認められました。健康な被験者からは、身体装着型の加速度計の新しい応用プログラム開発のため、予備データの収集を行いました。入院患者を対象とした調査では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または心疾患により従来型の肺疾患または心臓病のリハビリテーション療法を受けていた患者に関しては、骨格筋量の増加は検出されませんでした。

意義

研究により得られた知見は、エネルギー消費量を推定するアルゴリズム、および入院患者の遠隔モニタリングシステムの開発に貢献することが期待されます。パートIIIの研究結果で示されたとおり、入院患者に骨格筋量の変化が見られないことから、現在の肺疾患および心臓病のリハビリテーションプログラムの再検討、また、新たな治療介入の探究が求められます。

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