アジアにおける非感染性疾患の予防と管理に関して効果的な保健医療制度の効果に関するシステマティック・レビュー

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実施期間:

2017年10月~2019年10月

連携機関:

国立長寿医療研究センター

主導研究者:荒井秀典

研究対象地域:

日本

総予算:
80,000米ドル

 

背景

低、中、および高所得国にわたり、保健医療制度は、非感染性疾患(NCDs)および人口の高齢化の負担増大による課題に直面しています(1)。長期医療の管理に当たり保健医療制度が直面している課題には、経済的保護の欠如、必須医薬品への不十分なアクセス、訓練を受けた医療従事者の不足、慢性疾患治療の継続があります(1)。優れた保健医療制度の側面には、社会実験の実施、適切な戦略の選択、他国から教訓を得ることなどがあります(2)。日本は、一次医療制度の強化により、脳卒中や虚血性心疾患などの慢性疾患による死亡率の低下に成功しました。このような公共保健推進の取り組みの結果、1960年代以降、平均余命は伸びています(3)。本研究では、アジアの特定の国における、保健医療制度を効果的なものにするために重要な介入および方法をレビューしています。

目的

慢性疾患の予防と管理に関する保健システムの強化を目的として実施されているプログラムや政策の、費用対効果を評価することを目的とする研究です。

  • 東アジアおよび東南アジアにおいて、糖尿病、肥満、脂質異常症、高血圧の予防に対する地域社会の介入やヘルス・プロモーションにより、心血管系イベントと死亡が低減しているか?
  • 東アジアおよび東南アジアにおいて、糖尿病、肥満、脂質異常症、高血圧の予防に対する地域社会の介入やヘルス・プロモーションの中に費用対効果の高いものがあるか。

研究手法

アジア各国におけるNCDsの予防と管理に関する無作為化比較対照試験(RCT)および準実験的研究の査読付き論文を対象とするシステマティック・レビューを行いました。MEDLINE、コクラン・ライブラリー、医中誌で、検索可能な全期間の論文を対象にキーワードと件名標目を用いて、系統的に検索しました。対象は、地域社会の介入やヘルス・プロモーションが心血管系イベント(脳卒中、心筋梗塞など)および全死亡率に与える効果を報告している、および/または研究で行われた介入の費用対効果を報告している、英語または日本語で書かれた論文全文です。アブストラクトのみの論文、レビュー、開発、有用性、または実行可能性試験の論文、非アジア人のサンプルが含まれている論文、病院ベースの介入または対象がNCDs患者ではない介入についての論文は除外しました。

結果

研究の適格性評価のフローチャートを図1に示します。3,389件の研究のうち、12件のフルテキスト論文が選択・除外基準のすべてに合致しました。そのうち3件が日本、7件が中国/香港特別行政区、2件が韓国の論文です。4件の研究で、地域社会の介入やヘルス・プロモーションが心血管系イベントの発生率または死亡率に与える効果が調査されています。介入期間は21.5ヶ月から15年にわたり、高血圧、糖尿病、耐糖能障害、または肥満の患者が対象でした。全般的に、介入は、脳卒中の発生率、心血管疾患による死亡率、または研究によっては全死因死亡率の低減に効果がありました。8件の研究で、高血圧、糖尿病、および肥満の患者を対象とした介入の費用対効果が調査されています。これらの研究では、結果のタイプおよび評価方法の異質性に関わらず、費用対効果が一般的に認められました。

意義

レビューにより、基礎疾患(NCDs)やそのリスクファクターを有する患者を対象とした、地域社会の介入やヘルス・プロモーションの心血管系イベントの発生率および死亡率に対する効果に関する調査そのものが、東アジアおよび東南アジアにおいて著しく不足していることが明らかになりました。従って、既存の知見からエビデンスに基づいた意味のある政策提言を導き出す可能性は制限されており、さらなる調査の拡充の必要性が示唆されます。

 

参考文献

1. Hunter DJ, Reddy KS. Noncommunicable Diseases. New England Journal of Medicine. 2013;369(14):1336-43. doi: 10.1056/NEJMra1109345.

2. Balabanova D, Mills A, Conteh, et al. Good Health at Low Cost 25 years on: lessons for the future of health systems strenghening. Lancet. 2013;381:2118-33.

3. Ikeda N, Saito E, Kondo N, et al. What has made the population of Japan healthy?. Lancet. 2011;378:1094-105.

 

出版物

Hirashiki A,  Shimizu A, Nomoto K, Kokubo M, Suzuki N, Arai H, Systematic Review of the Effectiveness of Community Intervention and Health Promotion Programs for the Prevention of Non-Communicable Diseases in Japan and Other East and Southeast Asian Countries. Circulation Reports 2022; 4: 149-157. doi.org/10.1253/circrep.CR-21-0165

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