2012-03-21

介護予防の現状と今後の課題

WHO神戸センターは、「介護予防の現状と今後の課題」をテーマに、東京大学及び京都大学からの3人の専門家を招き、2012年3月21日に、神戸市の兵庫女性交流館にてフォーラムを開催しました。本フォーラムには、学術機関、地方自治体及びNGOから60人を超える参加者が集まりました。

2012年のWHO世界保健デー (World Health Day) のテーマは「高齢化と健康」であり、世界最長寿国の日本から健康で豊かな高齢社会を築く秘訣を学ぼうと世界が注目しています。日本においては、2006年の介護保険法改正において介護予防のアプローチが国の制度として導入されて以来、市町村が主体となって様々な介護予防事業やプログラムが実施されています。本フォーラムでは、平成23年度に、WHO神戸センターが、国内の専門家と協力して実施した、介護予防プログラムに関する研究の報告をするとともに、介護予防の今後の課題や展望について討議を行ないました。

基調講演を行なった東京大学大学院医学系研究科教授の甲斐一郎氏は、現在の介護予防プログラムの評価の重要性を述べるとともに、介護予防プログラムが、保健介入であるばかりでなく、福祉介入の側面も持つことを踏まえ、その評価にあたり、保健(健康)指標だけでなく、プログラム受給者の満足度なども評価指標に含めていくべきであることを提言しました。さらに、それらの評価を用いた根拠に基づく介護予防プログラム策定が今後の課題であることを指摘しました。

WHO神戸センターとの共同研究報告では、まず東京大学大学院医学系研究科博士課程の増野華菜子氏が、介護予防プログラムの効果に関する文献レビューの結果を発表し、転倒予防を含む高齢者の身体機能改善に対する効果についての研究発表は多くなされているが、その他の口腔衛生、栄養、認知症、精神保健などに対する効果についての検討が乏しく、今後の課題であることを紹介しました。さらに、京都大学大学院医学研究科博士課程の木村友美氏は、介護予防の効果的に運用するためには、体系的な評価を実施することが重要であることを前提としたうえで、具体的な評価手法について実例を交えながら紹介し、さらに評価指標の一つとして定着しつつある「健康寿命」について、その有用性と限界などについて詳しく説明しました。

発表後は活発な質疑応答が行われました。介護予防プログラム研究者とプログラム施行者の間の様々なギャップ改善のためのアプローチの1つとして、研究者による積極的な介護予防に関わる地方自治体職員の育成への貢献と実務者側の的確なニーズ把握が有効なのではないかとの意見が出されました。また、高齢者の健康問題には性別による違いがあることから、性別に基づいた特有の介護予防プログラム提供についても、今後の検討課題のひとつとして議論が交わされました。