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Implementation

2019年1月~2022年3月

Implementing partners

代表研究機関: Duke-NUS 医学大学院
参加研究機関: シンガポール総合病院
主導研究者: Nur 'Adlina Maulod(Duke-NUS 医学大学院)、Low Lian Leng(シンガポール総合病院)

Location of research

シンガポール

Total Budget
US$ 60,000

背景

高齢者のための保健医療ケアが不適切であれば、高齢患者が不用意に急性期医療施設でサービスを受けることになり、患者本人や家族、医療保険制度が負う医療費を押し上げる傾向がみられるとともに、最適なレベルの医療が提供されない可能性があります。不必要な再入院や救急診療および外来受診を防ぐことは、高齢者保健医療の持続性を高めるために重要です。

社会経済的地位(SES)の低さが、不要な受診や再入院などの好ましくないさまざま健康アウトカムの独立危険因子であることは広く認識されています。シンガポールでは、公的賃貸住宅への入居が低SESの指標となっており、再入院リスクの増加や頻繁な救急診療の受診との独立した関連性が認められます。こうした関連性の背景には、患者が複雑な保健医療制度に対応できないことや、患者のヘルスリテラシーが低いこと、患者とケア提供者の目標が一致していないことなどの理由があげられます。強化型ケア共同体(ECoC)は、動機付け面接手法を用いた保健指導を組み込んだケアモデルで、シンガポールの低所得地域に居住する高齢者のための保健医療・社会的ケアの統合の促進を意図しています。ECoCの目的は、患者のセルフケアを支援すること、また、病院から在宅治療への移行などにおいて患者がケア内容の変化を理解し管理する能力を高めることにあります。

目標

不必要な急性期医療サービスの利用を低減に導くうえでの、また、患者の健康の自己管理能力向上に対する、ECoCモデルによる効果の評価。

研究手法

  1. 当初のプロトコルでは、ECoCを評価するための非ランダム化比較試験において、50歳以上の低SES高齢患者150人の参加者を対象としていました。 しかしながら、COVID-19による制限の影響から、結果的には、2019年5月から2021年7月の間に、59人の参加者から完全なデータ(つまり、ベースライン調査および180日後の追跡調査を完了した対象者のデータ)を収集するにいたりました。
  2. 保健指導の実施とその経験に関する定性的評価も計画されていましたが、実施できた対象者は3人のみでした。
  3. 評価対象とした主なアウトカムのうち、不必要な保健医療サービス利用については、介入群における予定外の再入院、救急・専門外来の受診率の低減を指標に測定されました。患者のセルフケアと健康知識の向上に関しては、J. Hibbard が開発したPatient Activation Measure (PAM-13) を用いて定性的・定量的に評価されました。

研究結果

調査対象者を十分に得られなかったことから、本研究では結論を導くにはいたりませんでした。一方で、COVID-19パンデミックが高齢者の健康に関する研究に与える影響について、研究論文の発表が予定されています。その論文では、高齢者を対象とした研究を実施する際に健康危機の事態にあっても継続性を確保するために鍵となる、以下の6つの要因を明らかにします:

  • 高齢の研究参加者との間に、調和的な人間関係を構築し維持する。
  • 面接調査の質問を簡潔にして、年配の参加者が平易に理解できるようにする。
  • 特に低SES層の高齢者にみられるような虚弱で脆弱な集団を対象とする場合は、追跡段階が長い研究プロジェクトにおいて、参加者の脱落リスクとその割合を最小限に抑えるための戦略を開発する。
  • 健康危機の事態にあっても、高齢者の研究への参画継続を奨励するために、創造的で安全に配慮した対策を考案する。
  • データ収集の方法を対象集団の識字能力、教育的および技術的能力に適合させる(例えば、まだ大部分がデジタルに疎い高齢者集団でのデジタルデータ収集手法を回避するなど)。
  • 健康危機の事態にあっては、研究成功のための重要業績評価指標やその他の指標を優先させることなく、参加者のニーズ、安全性、およびウェルビーイングを重んじる。

世界的な示唆

COVID-19のパンデミックは、健康危機の事態の前、最中、事後に、脆弱な高齢者の経験と声を確実に聞き取るための継続的な取り組みの重要性を浮き彫りにしました。 この研究から得られた教訓は、現在および将来のパンデミックやその他の健康危機の際に、脆弱な高齢者に関する研究を安全かつ倫理的に実施できるように、さまざまな国の状況に適応させることが可能です。 重要なメッセージは、最優先されるべきは参加者の安全であり、研究の成否に関わりなく、参加者の安全を保護するために最善策と見なされる場合は、研究を打ち切る必要も生じるということです。

地元関西にとっての意義

本研究チームが経験に基づき提供する実践的なアドバイスは、関西地域において高齢者に関する研究を実施している機関や研究者にとっても有益であると考えられます。 この研究から得られた見識は、健康危機の事態にあっても、高齢者の健康課題に関する地元の研究を促進するために有用です。そのような研究から得られる情報の継続的で安全かつ倫理的な流れを確保し、地域の政策やプログラムへの情報提供や調整に役立つことが期待されます。

Products

出版物:

Maulod, A., Rouse, S., Lee, A. et al. Ethics of participation and social inclusion of older persons in research: lessons learned from the COVID-19 pandemic in Singapore. Health Res Policy Sys 20 (Suppl 1), 126 (2022). https://doi.org/10.1186/s12961-022-00930-2