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Implementation

2020年8月~2021年12月

Implementing partners

協働機関:
WHO本部保健制度ガバナンス・資金供給部門  経済評価・分析(EEA)ユニット、WHO地域事務局、コンサルタント(データ分析)

Location of research

グローバル

Total Budget
US$ 160,000 および、WHO本部、WHO地域事務局からの追加資金による共同事業

背景

経済的保護はユニバーサル・ヘルス・カバレッジの重要な側面です。2030年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)、ならびに、WHOグローバル・インパクト・フレームワークの進捗状況を評価するために、世界、地域、国のレベルで経済的保護に関するモニタリングが行われています。2021年にWHOと世界銀行により発表されたGlobal Monitoring Report on Financial Protection in Health(非公式訳:保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポート)では、初の試みとして、年齢構成の異なる世帯を対象に経済的保護に関するデータの比較が行われることになりました。本研究の手法により、ケアを必要とする人の年齢に関連するさまざまなレベルの経済的保護について一定程度の状況把握が可能になります。これは、分析単位として世帯を用いる経済的保護の標準的な評価基準に年齢構成別の尺度を適用するという点で革新的な分析アプローチであるといえます。 本研究の結果は、高齢者のケアのための経済的保護に関するナレッジギャップを埋めるのに役立つことが期待されます

目標

WHO地域を網羅した国レベルでの経済的保護に関する新たな世帯年齢構成別分析を行い、2021年発表の保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポートに反映する。

研究手法

  • 家計調査、家計生活水準調査、家計収入・支出調査、世帯社会経済調査など、この分析に適した各国最新の代表的な全国データを特定しました。
  • パンデミック以前の、破滅的医療支出および困窮化を招く医療支出の発生率を推定しました。この分析では、SDG指標3.8.2の評価方法にしたがい、家計の総消費または収入の10%を超える医療費を破滅的医療支出と定義しています。困窮化を招く医療支出は、医療費が原因で消費中央値60%に位置する相対的な貧困ラインをさらに下回る人口の割合をもって定義されます。分析は、北米とオセアニアを除くすべての国連地域92か国から入手可能な最新のデータに基づいています。これらの国々の人口は2017年の世界人口の53%を占めましたが、その中で下位中所得国(インドを除く43%)や高所得国(21%)は相対的に少なかったです。各国から入手可能な最新のデータの調査年度の中央値は2014年のもので、2009年より前のデータポイントは使用されていません。
  • ライフコースアプローチを用いて、年齢構成が異なる世帯間の結果を比較しました。具体的には次のとおりです:少なくとも20歳未満の若者が1人と20〜59歳の成人が1人いる若い世帯。20〜59歳の成人のみの世帯。少なくとも20歳未満の若年者が1人と20〜59歳の成人が1人および60歳以上の高齢者が1人いる多世代世帯。少なくとも60歳以上の高齢者が1人いるが20歳未満はいない高齢世帯(高齢者のみの世帯を含む)。
  • 分析結果について、6つのWHO地域事務局すべてを通じて国別協議を実施しました。
  • 2021年にWHOと世界銀行により発表の保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポートには本研究の発表の章が設けられ、地域的および世界的な研究知見のナラティブ統合とともに統計的要約をまとめました。

研究結果

  1. 92か国のデータに基づく解析によると、平均して、60歳以上の高齢者が少なくとも1人いる世帯では破滅的支出の発生率が最も高いことがわかりました。この傾向は、世界平均が全人口比13.2%であるのに対し、上位中所得国およびアジアの国々では38.3%に達しています。
  2. 困窮化を招く医療支出の発生率は、多世代世帯(少なくとも20歳未満の若年者が1人と20〜59歳の成人が1人および60歳以上の高齢者が1人いる世帯)において最も顕著で、対全人口で12.7%の世界平均と比較して、高位中所得国およびアジアの国々では39.9%にも達します。

世界的な示唆

本研究の結果は、世界的に、高齢者のいる世帯は総支払能力の10%以上を保健医療に費やす可能性が最も高く、この支出パターンはアジアの国々で最も顕著であることを示唆しています。ただし、このレベルの医療費は必ずしもこういった世帯を困窮化させているわけではありません。なぜなら、10%の閾値は、高齢者がいる世帯にとって負担困難な医療費を示しているとは限らないからです。本研究の分析データは、WHOの194加盟国中92か国からのみ入手可能であったため、世界人口の約半分しか網羅されておらず、特に北米とオセアニアおよび高所得国に対する評価が不足していることに留意が必要です。保健医療の利用における経済的な影響が世帯の年齢構成によってどのように変化するかをより包括的に把握するためには、より多くの国を対象としたデータの可用性の改善に向けた世界的な取り組みが求められます。この種のデータは、保健医療ニーズの実際のレベルや世帯の支払い能力に応じて、経済的保護の手段と政策の対象および調整をより適切に見極め整えるために有用です。また、2023年に発行予定の次のグローバル・モニタリング・レポートにはCOVID-19パンデミックの影響が盛り込まれる予定のため、より直近のデータが必要となります。

地元関西にとっての意義

本研究結果から、関西の高齢者世帯も、若年世帯に比べて家計支出における保健医療費の割合が高いと考えられますが、そのために、高齢者世帯に困窮化が生じているかどうかは不明です。医療費に関するデータだけでは、保健医療の利用が世帯に与える実際の経済的影響を評価するには不十分です。WHO神戸センターは、関西の高齢者を対象に、既存の家計調査データを分析して、自己負担医療費の水準だけではなく家計の財源も特定することにより、経済的困窮を招くような保健医療費発生の可能性をよりよく把握するための研究を実施しています。本研究は、経済的保護が最も必要とされる世帯をより適切に特定するための地域のプログラムや政策に資することが期待されます。

出版物

本研究の成果は、 Global Monitoring Report on Financial Protection in Health 2021の第1章第2節『Who experiences financial hardship? A focus on age(誰が経済的困窮に陥っているのか。年齢に着目して)』(17~21ページ)にまとめられました。