高齢化の状況におけるUHCのモニタリング

高齢化ケアモデルに対応したユニバーサル・ヘルス・カバレッジのモニタリング

背景

高所得国と低・中所得国のいずれにおいても、世界的な人口高齢化は公衆衛生上の懸案事項です。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成し、保健医療サービスやそれにかかる費用の経済的保護を高齢者を含むあらゆる年代層にもれなく提供するためには、保健医療制度をそれぞれの国の実情に合わせる必要があります。UHCの測定に適用する既存の世界標準についても、こうした変わりつつある環境で妥当性を維持できるよう、各国の状況に合わせた調整が求められます。

高齢化する人口に対応したUHC実現のためには、高齢者のニーズと権利に配慮した総合的なサービスを手頃な価格で受けられる制度が必要です。これは、ほとんどの場合、高齢者をケアする際の臨床的着目点においても、保健医療および社会的セクター全体におけるケアの組織化、資金確保、提供の方法についても、根本的な変化を伴うものです。この変化に対応するため、高齢化する人口に必須の保健医療サービス、経済的保護、また有効な範囲設定というコンセプトを考慮したモニタリング方法が必要となります。本研究の目的は、こうしたコンセプトを考慮した新しいUHCモニタリング方法の開発に役立てるため、既存のUHCモニタリング方法を調査することです。

目標                                                                                                                                                                          

人口の高齢化および変わりつつあるケアモデルに対応した新しいモニタリング枠組みの開発

研究手法                                                                                                                                                                             

  1. 総合的・長期的なケアモデルに関連したUHCの測定課題(必須のサービスや経済的保護)について、高齢化の観点から調査するための文献レビュー
  2. モニタリングの新しい枠組みについて専門家の意見を得るための、専門家パネルレビューおよび重要な情報提供者へのインタビュー

期待される成果                                                                                                                                                                

  1. 文献レビューの結果に関する査読付き論文
  2. 高齢化ケアモデルに関連するUHCの主要な測定課題をまとめたテクニカルレポート
  3. 適切な高齢化ケアモデルに基づいた低・中所得国向けの新しいUHCモニタリングの枠組みに関する査読付き論文

ライフコース・アプローチによるUHCモニタリングのための概念枠組み

背景

2050年までに5人に1人が60歳以上の高齢者となります。世界中の国々で予想されている人口動態の変化に対応するため、国の保健医療制度の強化と効率化の重要性に世界的な関心が寄せられています。予想される変化に対応するための保健医療制度のニーズについては、持続可能な開発目標のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関するターゲット3.8で取り上げられています。しかし、近年の研究では、UHCの概念は特定の年齢層や疾患に基づいたものであることが示されています。UHCのモニタリングシステムは、サービスの提供範囲と経済的保護について、高齢者に関するものも含めて評価する内容にすべきであるとWHOは推奨しています。

ライフコース・アプローチは、UHCの実施をより明確にとらえるための枠組みとして、最近の文献で提案されている手法です。このアプローチでは、一生を通しての健康と福祉の持続的な改善に注目しています。出生、新生児・幼児期、小児期・青年期、若年成人期から、社会的、経済的、文化的な文脈で形作られる高齢に向かう成人期までを含みます。しかし、UHCをモニタリングするための既存の指標は、母子保健や感染症に関するものがほとんどで、世界的な高齢化を契機に表面化することが予想されるサービスの提供範囲や関連する経済的持続性の問題についての指標が欠けている状況です。

目標

高齢者と低・中所得国に着目した、ライフコース・アプローチを用いたUHCモニタリングのための概念枠組みの開発

研究手法                                                                                                                                                                          

  1. ライフコース・アプローチによるUHCモニタリングに関連する既存の枠組みと指標を調査するためのスコーピングレビューの実施
  2. ライフコース・アプローチの観点から、UHCのサービス提供範囲と経済的保護をモニタリングする新しい概念枠組みを開発
  3. 複数の地域のデータを用いた概念枠組みの検証

枠組みには、過去の研究が示すインプット/プロセス/アウトプット/アウトカムのモデルを使用します。

期待される成果

  1. スコーピングレビューに関する査読付き論文
  2. ライフコース・アプローチを用いたUHCモニタリングの枠組み案に関する査読付き論文

超高齢社会日本のUHC持続に向けた 効率的な医療提供とは ~大規模ヘルスデータの二次分析~

背景

財源の乏しい国、豊かな国のいずれも、人口の高齢化と慢性疾患の罹患率増大による医療制度の持続可能性に関する課題に直面しています。特に大腿骨頸部骨折や認知症などの疾病は増加の一途を辿っており、それらを注意深く観察評価することで、医療へのアクセスと公平性の観点から医療制度の機能に関する洞察を得ることができます。近年注目されている医療ビッグデータは、その活用により人々の健康のパターンを理解し、ヘルスケアと公平性の向上に関連する政策に資することが期待されています。日本は、関連法や法律で規定されていないその他のメカニズムを通じて、大規模なヘルスデータベースを構築するために多大な努力を重ねてきました。例えば、診療群分類包括評価(DPC)、レセプトデータベース、包括的な介護保険データベース、副作用データベースなどが含まれます。しかしながら、公平で費用対効果が高く、質の良い医療サービスの提供のための政策に対し、これらのデータベースの活用は非常に限られています。本プロジェクトには、大規模なヘルスデータベースの使用に関するいくつかの研究が含まれており、日本の高齢化に関連する医療アクセスの公平性について、深刻化する課題への対応を目指しています。この研究概要では、DPCデータベース(医療保険請求のデータベース)の分析に基づいた事業の中から研究課題のひとつを取りあげます。

目標

  1. 認知症の程度と大腿骨頸部骨折手術へのアクセスとの関連を調査
  2. 急性期病院で股関節部位の閉鎖性骨折と診断された高齢者を対象に、認知症の程度と手術までの待機期間との関係性を調査

研究手法

この調査では、DPCデータベースの横断的な二次データ分析が行われました。データベースには、患者の属性、主診断、入院時の併存疾患、入院後の合併症、入院中の手術、薬剤、医療機器などの処置、入院日数、退院時の状態、医療費などの情報が含まれています。調査は、分析対象期間中(2014年4月〜2018年3月)に股関節部位の閉鎖性骨折と診断された65歳以上の患者を対象に行われました。アウトカム変数は、股関節骨折に対する外科的治療の受療と手術までの待機日数としました。主な説明変数は認知症の程度で、分析は、患者の年齢、性別、骨折の種類、併存疾患、昏睡/意識レベル、救急車の使用、および病院や地域の特性に関してマルチレベル分析を用いて調整されました。

研究結果

分析サンプルは、股関節骨折の初診断を受けた214,601人の患者で構成され、そのうち58,400人(27.2%)は軽度の認知症、44,787人(20.9%)は重度の認知症、159,173人(74.2%)は股関節手術を受けていました。手術前の平均待機日数は3.66日(±3.72日)でした。重度の認知症の患者は、認知症のない患者と比較して股関節手術を受ける率が高く、手術までの待機期間が短い傾向にありました。高齢の患者は手術を受ける可能性が低く(80歳以上対65〜79歳)、その一方で、手術前の待機時間は短いことがわかりました(90歳以上対65〜79歳)。

意義

この研究は、大規模なデータを採用して、ヘルスケアと公平性に関する重要な研究課題に取り組むことの有用性を実証しています。精神疾患のある患者は十分な医療を受けられないという一般的な傾向とは対照的に、この研究では、日本の認知症患者が股関節手術において優先される傾向にあることを明らかにしました。このようなアプローチは、拡大する人口の高齢化によりもたらされるヘルスケア関連の諸問題に対処するために、日本および他の地域での検討が求められています。